右肩上がりとなっていた時期に発売された「Strawberry Heart」
1984年12月5日、堀ちえみの6thオリジナルアルバム『Strawberry Heart』が発売された。本作は、シングル「東京Sugar Town」と「クレイジーラブ[Album Version]」を収録し、これら2作のオリコン最高位は、それぞれ3位、2位、累計売上は14.2万枚、16.3万枚といずれも右肩上がりとなっていた時期の作品だ。
なお、アルバムチャート(LP)の方は、オリコン最高12位とデビュー以降初めてトップ10入りを逃しているが、これは上位に安全地帯『抱きしめたい』、チェッカーズ『もっと!チェッカーズ』、松任谷由実『ノーサイド』、松田聖子『Windy Shadow』、マドンナ『ライク・ア・ヴァージン』、ワム!『メイク・イット・ビッグ』と累計50万枚を超える当時でもメガヒット級のアルバムが目白押しとなっていたためであり、決してアルバムセールスが不振だったわけではない。
次に、作家陣に目を向けると、Nobody、芹澤廣明、玉置浩二、水谷公生、そしてロックバンドPINKの福岡ゆたか(後の福岡ユタカ)が初起用。1970年代から西城秀樹や浜田省吾の編曲を多数手がけていた水谷以外の4人はいずれも1984年に大きな注目を浴びていた。
Nobodyは吉川晃司、芹澤廣明はチェッカーズ、そして玉置浩二は自身のバンド安全地帯が1984年の前半に大ブレイクを果たしており、この時代の旬な作家で、よりヒット確度の高いアルバムを作ろうとしたことが分かる。そのためか、シングル曲以外もキャッチーな曲が多くて聴きやすい。なお、堀は1984年春からの約1年間、所属事務所に申し出て長期のドラマ撮影を休み、音楽番組の出演や全国のコンサートなど音楽活動を主軸に活動していたこともあり、声がとても弾んでいる。これもヒット作家との相性が良かった一因とも言えるだろう。
じれったい恋模様を描いたシングル曲「東京Sugar Town」
ここからは、アルバムの順を追って楽曲の魅力に迫ってみたい。
まず、A面はオールディーズ風の明るいミディアム調の「ストロベリー・ハート」、グループサウンズ風のギターや、真心を象徴したセリフ入りの「7時のニュース」、サビがすべて英語で、マイナー調の失恋ソング「涙色のエアポート」までの3曲すべて作詞を三浦徳子、作曲をNobodyが担当。この1984年当時からしても、ちょっと懐かしい感じのメロディアスな楽曲が多いが、言葉の頭を強めに歌う堀との相性が良く、歌詞の内容がすっと入ってくる。この路線をさらに極めたのが、この翌年のシングル第1弾「リ・ボ・ン」と言えそうだ。本作は、トップ10常連だったレコード売上やラジオリクエストに加え、有線放送でも初めてトップ10入りを果たし、ファン層を大きく広げた。
続くA面4曲目は萩田光雄が作曲・編曲を手がけた「Winds」。こちらは、堀自身が出演する花王『エッセンシャル キューティクル・ケアシャンプー』CMソングを多分に意識した爽やかなポップスだ。そして、ミディアム調で、じれったい恋模様を描いたシングル曲「東京Sugar Town」で終わるあたり、“つづく”という文字が頭に浮かびそうなほど、余韻の持たせ方がうまい。
激しいロック調で度肝を抜かれた「モノレールのジョニー」
そして、本アルバムの要となるのは、ロックやシンガーソングライター色を強め、新たな魅力が詰まったこのB面だろう。まず、1曲目の「モノレールのジョニー」で度肝を抜かれた。堀が、BON JOVI「Runaway」風の激しいロック調の楽曲を、時にシャウトを織り混ぜては、熱唱しまくっているからだ。
その証拠に、ハードなポップスでは常連となっている女性コーラスのEVEが起用されており、これは堀ちえみ作品では非常に珍しい。「私はここ」「魂まであげる」と、シングル「クレイジーラブ」から繋がる三浦徳子の歌詞もエスカレートしているし、前年のシブがき隊『Zokkon命(LOVE)』で見せた洋楽エッセンスを巧みに取り入れた水谷公生の作曲・編曲も巧妙だ。
続く「月の光よりも」は、芹澤廣明が得意とするムーディーなポップス。チェッカーズの「ティーンネイジ・ドリーマー」、「Song for U.S.A.」といった人気曲と同じ曲調で、この時の堀の歌声はこうしたロングトーンの多い曲も17才ながら自分のものにしている。
ヒット路線を突っ走る “ハイスピードのウサギちゃん”
B面3曲目の「愛のランナー」は、ハードポップス調のシングル「クレイジーラブ」のB面(両A面扱い)に収録されていたリズミカルなポップス。サビで同じフレーズが何度も繰り返されるのは、きっとライブで盛り上がることを想定したのだろう。そして、シングルより若干演奏部分が長い「クレイジーラブ[Album Version]」をはさみ、ラストは、玉置浩二が作曲を手がけた「秘密 -SECRET-」。恋が思うように進まないやるせなさを描いた康珍化の歌詞も上手いし、詞先で作られたのか玉置浩二のメロディーもこの上なく切ない。そして主演ドラマ『スチュワーデス物語』で鍛えたであろう、堀のやや過剰な感情移入も作品のスケールを大きくさせている。
こんな感じで、本作はチャートの常連とも言えるヒット作家による新たな魅力が詰まったアルバムで、歌唱も安定しているので、ここから堀ちえみ作品を聴き始めるのも有りだろう。ちなみに、この時の堀はまだ17歳。“ドジでノロマなカメ” どころか、実は “ハイスピードのウサギちゃん” として、ヒット路線を突っ走っていたことが分かる。
■ アルバム『Strawberry Heart』
発売日:1984年12月5日発売
オリコン最高位:(LP)12位 /(カセット)20位
TOP100登場週数:(LP)11週 /(カセット)7週
累計売上:(LP)4.6万枚 /(カセット)1.6万枚
(収録曲)
1.「ストロベリー・ハート」(作詞:三浦徳子 / 作曲:Nobody / 編曲:萩田光雄)
2.「7時のニュース」(作詞:三浦徳子 / 作曲:Nobody / 編曲:水谷公生)
3.「涙色のエアポート」(作詞:三浦徳子 / 作曲:Nobody / 編曲:水谷公生)
4.「Winds」(作詞:三浦徳子 / 作曲・編曲:萩田光雄)
5.「東京Sugar Town」(作詞:三浦徳子 / 作曲:芹澤廣明 / 編曲:大谷和夫)
6.「モノレールのジョニー」(作詞::三浦徳子 / 作曲・編曲:水谷公生)
7.「月の光よりも」(作詞:三浦徳子 / 作曲:芹澤廣明 / 編曲:水谷公生)
8.「愛のランナー」(作詞:三浦徳子 / 作曲・編曲:福岡ゆたか)
9.「クレイジーラブ [Album Version]」(作詞:三浦徳子 / 作曲:芹澤廣明 / 編曲:萩田光雄)
10.「秘密 -SECRET-」(作詞:康珍化 / 作曲:玉置浩二 / 編曲:清水信之)ーー 堀ちえみ80年代にリリースされた全オリジナルアルバム、ストリーミング配信がスタート!アルバムアーティストとして、高いクオリティの作品を発表し続けた堀ちえみの軌跡をこの機会に存分に楽しんでみては。
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2023.02.15