10月18日

大映ドラマの傑作「スチュワーデス物語」麻倉未稀が歌う主題歌にみる本当の主役とは?

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photo:TBS  

ドラマ「スチュワーデス物語」を観るときの心構え


作家の永倉万治サン曰く、

「ものごとにキョリを置いて見ることほど野暮なことはない」

―― 僕の好きな言葉の1つである。

そう、アホなことほど、徹底的に没頭して楽しむのが大人の振る舞いというもの。反抗期の中学2年生じゃないんだから、そこは素直に。例えば、そう―― ドラマ『スチュワーデス物語』を観るときも。堀ちえみ演じる “ドジでノロマな亀” こと松本千秋と、「つかこうへい」の舞台出身のバリバリの演劇人、風間杜夫演ずる村沢教官との奇妙な師弟愛――。

言わずと知れた、”大映ドラマ”の名作である。

大映ドラマのあらましと強さの秘密。伝説を生んだ2人のプロデューサー


大映ドラマとは、制作会社の大映テレビが作った一連のドラマのこと。一般的には、70年代半ばの『赤い』シリーズ(TBS系)から『スクール☆ウォーズ』(TBS系)や『ヤヌスの鏡』(フジテレビ系)などの80年代に渡って放映された同社制作のドラマを指す。主人公に秘められた出生の秘密、襲いかかる病魔、度重なる試練、髪の長いライバルの女、芥川隆行のナレーション―― 特徴を挙げればキリがない。

元々は映画会社の大映のテレビ部門として1958年に誕生し、71年に本体である映画部門の倒産に伴い、分社化された。当時は、映画が斜陽の時代を迎える一方、テレビは右肩上がり。大映テレビは仕事に事欠かなかったんですね。ちょうどヒットドラマにも恵まれ、岡崎友紀と石立鉄男が共演した『おくさまは18歳』(TBS系 / 70年~71年)は最高視聴率33.1%を記録した。

そんな大映テレビの名を一躍有名にしたのは、前述の『赤い』シリーズである。74年の『赤い迷路』から80年の『赤い死線』までの計10作。かの大スター山口百恵のほか、“ゴールデンコンビ” の相方・三浦友和に、父親役の宇津井健。大映ドラマ常連の石立鉄男や国広富之なども代わる代わる出演し、シリーズ最高視聴率は37.2%。一説には、『冬のソナタ』を始めとする韓流ドラマは、『赤い』シリーズを研究したという。

大映テレビには、かつて伝説の2人のプロデューサーがいた。春日千春サンと野添和子サンである。春日サンは『おくさまは18歳』を始め、『噂の刑事トミーとマツ』(TBS系)、『不良少女とよばれて』(TBS系)、『スクール☆ウォーズ』、『ヤヌスの鏡』などを手掛け、一方の野添サンは『赤い』シリーズのほか、『夜明けの刑事』(TBS系)や『少女に何が起ったか』(TBS系)、『スチュワーデス物語』などを手掛けた。同社の強さの秘密は、この社内のライバル同士の “二頭体制” にあったと言われる。

そうなのだ。ぶっちゃけ他局よりも、同じ職場にライバルがいる方が、切磋琢磨し合って、良作が生まれるというもの。実際、90年代のフジテレビも、大多亮サンと亀山千広サンというよきライバル関係が『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』といった良作を生み出し、近年のTBS日曜劇場も、福澤克雄サンと平川雄一朗サンという名物監督同士が刺激し合うことで、『半沢直樹』や『天皇の料理番』などの傑作を代わりばんこに送り出している。



笑えるドラマでもあり、紛うことなき傑作「スチュワーデス物語」


そして、冒頭のドラマに戻る。

『スチュワーデス物語』―― それは、大いに笑えるドラマではあったが、残された数字を見ると、紛うことなき “傑作” だった。初回視聴率17.2%でスタートを切り、その後も順調に10%台後半で推移。終盤は20%に上がり、最終回は26.8%と自己最高視聴率。しかも、今に至るまで人々の記憶から消えない。間違いなく―― 記録にも、記憶にも残るドラマだった。

少々前置きが長くなったが、今回の話は今から39年前―― 1983年10月18日に放送を開始した『スチュワーデス物語』と、その主題歌「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」である。

航空ドラマに駄作なし、その理由は?


俗に、「航空ドラマに駄作なし」と言われる。古くは、1970年に放映された紀比呂子主演の『アテンションプリーズ』(TBS系)がそう。世の憧れのスチュワーデス(※本コラムでは当時の表記で行きます)の世界を初めて描き、ザ・バーズが歌う同名主題歌も大ヒット。JALの森英恵デザインのミニスカート(!)の制服人気も相まって、一世を風靡した。

74年の田宮二郎主演の『白い滑走路』(TBS系)も、JALの機長を演じる田宮の流暢な英語が評判となり、「フラップ・トゥ・ゼロ」は流行語になった。桜木健一主演の『虹のエアポート』(TBS系)は75年のドラマ。初めて全日空が協力した作品で、トライスターの副操縦士になるまでを描いた青春ドラマだった。全日空は2003年放送の木村拓哉の主演ドラマ『GOOD LUCK!!』(TBS系)にも協力し、同ドラマは最高視聴率37.6%を記録した。

そう、航空ドラマに航空会社の協力は欠かせない。それがリアリティある絵作りに繋がり、傑作を生む。しかし、その調整には多大な労力を要し、それゆえ、なかなか航空ドラマは作られない。少数精鋭である。過去に、松嶋菜々子がCAを演じた『やまとなでしこ』(フジテレビ系)のように、航空会社の協力が得られず、仕方なく、それと近いロケーションの建物を使って撮影した例もあるが、リアリティの面で先のドラマたちに遠く及ばなかった。

その点、『スチュワーデス物語』は原作が日本航空の元社員で、直木賞作家の深田祐介サン。航空会社に協力を仰ぐのに、これ以上の好条件はない。実際、同ドラマは本物の訓練所から客室モックアップ、格納庫の実機、更には社員寮までJALの全面協力で成り立っている。そればかりか、劇中に登場する英語教官役の益岡康夫サンは、現役(当時)のJALの教官だったのだ!



使い古されたお約束じゃない! 見たことないぞ、こんなドラマ!


物語は、堀ちえみ演ずる “ドジでノロマな亀” こと松本千秋がスチュワーデスの試験を受けるところから始まる。しかし、そこは大映ドラマ。平穏には始まらない。

千秋が試験前に迷い込んだ客室モックアップで、彼女は極度の緊張から気を失う。そこへ通りかかったのが、風間杜夫演ずる村沢教官である。彼は千秋を介抱しようと服のボタンを外すが、それを痴漢行為と勘違いした千秋に一撃を食らう―― ラブコメ漫画のお決まりのパターンだ。最悪のシチュエーションで出会った2人が、やがて恋に落ちるのは世の物語の常道。

いや、同ドラマの醍醐味は、そんな古今東西で使い古されたお約束じゃない。ある日、”ルートインフォメーション”が覚えられない千秋のために、村沢教官が補習授業を行う。世界各国の民族音楽を収録したテープをラジカセで流しながら、覚えさせようとする村沢。しかし千秋、なぜか突然、両手を水平に広げ、飛行機になりきって教壇の周りを走り始めたのだ。見たことないぞ、こんなドラマ!

まだある。泳げない千秋は、なんとか水嫌いを克服しようと、ある夜、寮の廊下に救命ボートに見立てた子供用のプールを置いて、救命道具を付けて泳ぎ始める。断わっておくが、廊下である。しかも「村沢教官!」と叫びながら、手を振り回している。傍から見れば完全にホラーだ。

極め付けは、英語の実技試験。客に扮した前述の益岡教官から「いつ、どこで阿波踊りを見られますか?」と英語で聞かれた千秋。しかし、“阿波踊り” という単語は分かるものの、何を聞かれているのか分からない。その時、村沢教官の教え「分からない時は、落ち着いて相手の目を見れば、何を言ってるのか分かる」を思い出す。益岡教官を見つめ直す千秋。しかし、ここで大映ドラマは予想外の手を繰り出す。

次の瞬間――「わたくしに、阿波踊りを踊れとおっしゃるんですね」と千秋に言わせ、なんと機内で阿波踊りをさせたのだ。「♪踊る阿呆に見る阿呆」―― 唖然とそれを見つめるリアル教官の益岡サン……!

いやはや、恐ろしいドラマである。

それにしても―― こんな不可解なドラマなのに、なぜ、かくもヒットしたのだろう。大映ドラマも数あれど、今も人々の記憶に残り、語り継がれるのは、同ドラマと『スクール☆ウォーズ』くらいである。

そのヒントは、実はエンディングにあった。

原曲は映画「フラッシュダンス」主題歌、自ら訳詞を手掛けた麻倉未稀


 ああ 果てなく拡がる世界に
 たったひとつの輝いた夢
 あふれる涙 孤独に震える
 生命かけて 生きてゆく

歌うは、麻倉未稀サン。原曲は、アイリーン・キャラが歌った、映画『フラッシュダンス』の主題歌である。それに、麻倉未稀サンが自ら訳詞を手掛けた。

原曲の歌詞と比べると分かるが、基本、意訳である。特に1行目の詞が大きく改編されており、見るからに飛行機の物語になっている。

そう、飛行機――。

同ドラマのエンディングはボーイング747―― ジャンボジェット機をバックに、村沢教官以下、478期生が隊列を組んで前方へ歩くカットだ。一目見て分かる通り、ここで一番目立っているのは “飛行機” である。

そう、これは飛行機のドラマなのだ。



一貫して描かれた真実。「スチュワーデス物語」の本当の主役とは?


ある意味、松本千秋以下、スチュワーデス訓練生や村沢教官たちは狂言回しとも言える。ドラマの脚色部分は、大いに大映ドラマの色が付いているが、全22話を通して、一貫して素のままに描かれているモノが1つだけある。それが―― 飛行機。JALが全面協力してくれたお陰で、訓練シーンを始めとする飛行機周りの描写は全てホンモノなのだ。

俗に、ドラマには「大きな企画」と呼ばれる作品がある。四の五の細かい脚本や演出を抜きに、成立する企画のことだ。例えば、共演NGと言われた天下の2大スターをブッキングしたり、ドラマ化不可といわれた小説のドラマ化権を買い取ったり――。

『スチュワーデス物語』の場合、原作者もJALの元社員であり、ここまでがっぷり四つに航空会社と組んだ作品は、コンプライアンスが厳しくなる今の時代、もう二度と現れないだろう。他の航空ドラマと見比べても、同ドラマへの航空会社の協力体制は際立っている。

『スチュワーデス物語』の真の主役は飛行機―― それは同ドラマのエンディングが教えてくれる。





2018年3月27日に掲載された記事をアップデート

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2022.10.18
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