5月21日

河合夕子「リトル・トウキョウ」80年代の始まりを強烈に感じさせたアルバム

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河合夕子のファーストアルバム「リトル・トウキョウ」がリリースされた日
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photo:SonyMusic  

1980年、僕は12歳。世の中に対する興味関心がどんどん大きくなる年ごろで、流行歌にもビンカンになり明星や平凡なども買い始める。

今思えば、そういうタイミングで黄金の80年代が始まっていたという幸運は、うまい時代に産み落としてくれたと両親に感謝するのみだ。

そんな頃聴きまくった音楽の中で「80年代の幕開け」を強烈に感じた一曲について書いてみたい。

80年1月1日に発売され、コピーライターの糸井重里を起用した沢田研二のシングル「TOKIO」。その衣装とパラシュートは衝撃的だったが、それ以上にぶっ飛んだのは河合夕子が歌う「東京チークガール」を『夜のヒットスタジオ』で見た時だった。

「東京チークガール」の発売は1981年2月25日だから、『夜のヒットスタジオ』で歌ったのは3月頃だろうか。

「なんじゃこりゃ?」

その衝撃でテレビにくぎ付けである。ありがたい事に今でもその映像が見られるので再度見てみる。今見ても、

「なんじゃこりゃ?」

…である。

ヒョウ柄シャツに白のサスペンダー。カーリーヘアにアラレちゃん眼鏡。ドデカイ星のイアリングに東京タワーのミニチュアモデル。

八神純子や越美晴、泰葉など、それまでもピアノを弾きながら歌う女性歌手はいたが、そういう人たちとは全く違う。シングルジャケットの写真に至っては、同年5月に始まったお笑い番組『オレたちひょうきん族』の世界感だ。

テレビを意識したビジュアル重視の過激化。既成概念をひっくり返すような劇的な価値観の転換。ポップでキッチュなファッション感覚。要するにそれが「80年代初頭の空気」だったのだろう。当時まだ新興だったEPICソニーならでは、という気もする。

ただ「ポップさ」の盛り過ぎは、時に「コミカルさ」にシフトしてしまう。そのさじ加減こそがあの時代を掴めるかどうかの重要なセンスだったように思う。今にして思えば盛り過ぎのポップ感覚でも大衆の支持を得た事例はいくらでもある。

「Dr.スランプ」しかり。「タケちゃんマン」しかり。「なめ猫」しかり。「横浜銀蠅」しかり。

曲そのものの魅力というより、そのポップ過ぎるビジュアルインパクトで「80年代の幕開け」を田舎の少年にも強烈に印象付けた「東京チークガール」であったが、セールスは思ったほどではなかったようで、オリコンシングルチャートブックによると最高位67位、販売枚数は24,100枚となっている。

これまたポップ感を盛り過ぎた「スターボー」よろしく、ほどなく表舞台から消えていってしまった。しかし、あのビジュアルと、


 ♪ トーコナツ コーコナーツ
   コーコナツ トコナツナーイ


というコーラスの印象は忘れがたく、私にとっては今でも一気にあの頃に戻れる珠玉の一曲なのである。

時は過ぎて2017年。この曲について新たな事実を知った。

作詞家である売野雅勇さんとお会いする機会をきっかけに拝読した氏の自伝本『砂の果実』に、この「東京チークガール」が入った LP『リトル・トウキョウ』が、氏の作詞家デビュー作だったと書かれていた事だ。

周知の通りその後、中森明菜、チェッカーズなどを手掛け80年代の邦楽シーンで確固としたヒットメーカーとなる氏だが、そのデビュー作である『リトル・トウキョウ』は河合夕子との共作だったこともあり、シングルカットされた「東京チークガール」のジャケットにすらその名前はクレジットされていない。

自伝本『砂の果実』によると氏が河合夕子を手掛ける事になった経緯はこうだ。

それまで広告代理店のコピーライターとしてEPICソニーが発売する邦楽曲の宣伝コピーを担当していた売野さん。ある日突然、個人的には口もきいたことのないEPICソニーの制作ディレクター目黒育郎氏から「作詞をしてみませんか?」と声がかかる。

70年代までに活躍した、いわゆる「職業作詞家」ではない人選で新しい時代に合った新しい歌を作ろうという制作側のチャレンジだったのだろう。それまで一篇の詞も書いたことのなかった売野さんだったが、

“広告の仕事の依頼を受けるのとおなじように「はい、やらせていただきます」と、ほとんど何も考えずに気軽に答えたが、それがすべての始まりだった”(以下 “ ” 部『砂の果実』より抜粋)

という事らしい。

会議室で数曲のデモ音源を聞かされ、誰も歌ってないようなキャッチーな言葉で差別化したいという目黒氏のオーダーを受けた売野さんはこう返している。

“東京タワーが、アルバム全体のイメージシンボルになるみたいな歌詞はどうですか?”

“言葉で描いた、ポップアートって感じで。(中略)キラキラしていて、聴いてるだけでハッピーになっちゃうわけです”

「ジャマイカンClimax」
「チャイナタウンでスクールデイズ(香港街学校日々)」
「バスクリン・ビーチ」
「北京挫折街(ペキンニードロップ・シティ)」
等々…。

「リトル・トウキョウ」に収められた楽曲のタイトルは、まさに80年代薫る売野流言葉のポップアートである。かの「東京チークガール」に至っては、

“ぼくは、歌い出しの一行を「キンラメ Night に踊ろうよ」にして、コーラスの歌詞を「常夏・ココナツ・ココナツ・常夏ナイト」の繰り返しに置き換えた。そしてタイトルも「東京ナイト」から「東京チークガール」に変えた”

…とある。共作? いやいやこの曲の印象のすべては歌い出しとコーラスとタイトルで決まってます(笑)。そしてまた、LP帯のコピーもイカしている。

まぶしい位にキラキラのPOPSナンバーでいっぱい! 世界一美しい絵ハガキMUSIC! 河合夕子のオシャレなデビュー・アルバム!東京―香港―ハリウッド。南へ回ってシンガポール。環太平洋を不思議の夏少女のキンピカ・イマジネーションが駆け巡る。

読むだけでハッピーになっちゃうのである。果たして、このコピーも売野さんご自身の作だろうか? 今度ご本人にお会いした時にでも聞いてみたい。

売野さんご自身はこの「リトル・トウキョウ」を聴くと“わりあい一生懸命な、まだ青年といっていい人の匂いがする” …らしい。

一方、僕はと言うと「ポップシティ『トウキョウ』に憧れながら、初めてつけたポーチュガルの匂いがする」…のである。

世代問わず、立場問わず、人それぞれの強烈なイマジネーションが交錯した80年代、なのである。

2019.05.20
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カタリベ
1968年生まれ
安東暢昭
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