ワム!のミュージックビデオが描いた “リア充” な世界観
今回と
『イントロ内転調♪ 山下達郎「クリスマス・イブ」の名曲化に貢献した秘密』では、クリスマスソングのイントロを分析したいと思います。愛され続けるあのクリスマスソングのイントロには、どんな秘密があったのか。
その第1回は、ワム! の『ラスト・クリスマス』(1984年)です。あの曲のヒットに、イントロがどう作用したかを探ります。
リアルタイムでこの曲に接した者として、少なくとも日本におけるヒットの要因としては、ミュージックビデオ(MV)の功績が、まず大きいと思います。
雪山のロッジのようなところで、ワム! の2人を含む若い男女がクリスマスパーティーをするという、他愛のない映像なのですが、神戸サンテレビでネットされていたTVK『ミュージックトマト』でこのMVを見た高校3年生(受験生)としては、その「リア充」な世界観に強く憧れたものでした。
映像は、雪山の遠景から始まります。その遠景のバックで流れるのが、「チャッ・チャチャ・チャッ・チャチャ」というシンセの音。このシンセの音列に、実は秘密が隠されていました。
曲のイメージを決定づける9th(ナインス)のインパクト
1小節目のイントロの音列を階名で書くと――「♪ レッ・レレ・ドッ・ドド・レレ・ッド・レド」(キーはD)と、「レ」という音が基軸となっています。
この「レ」。これは
『安全地帯「ワインレッドの心」玉置浩二は9th(ナインス)の魔術師』の項でもご紹介した「9th(ナインス)」の音です。具体的には、ドミソの和音の上で、ちょっと浮いた感じで響く「レ」の音。
このイントロの「レ」=「9th」の音が、画面いっぱいに広がる雪の映像とリンクして、『ラスト・クリスマス』を印象づけたと思うのです。文学的に解釈すれば、ドミソの和音の上で浮遊する「レ」が、雪山の空に浮遊する粉雪を表しているという感じ。
この「レ」=「9th」。歌メロに入ってからも、強力に作用します。
実はこの曲、コード進行はびっくりするほど単純で、「D→Bm→Em→A7」という、非常に基本的な循環コードがひたすら繰り返されます。しかし、それでも最後まで飽きさせないのは、単純なコード進行の上で浮遊する「9th」の使い方が、とても巧みだからなのです。
日本の音楽シーンにも大きな影響を与えた9thの魔法
冒頭のサビ「♪ Last Christmas, I gave you my heart」の階名は「♪
レー・ッ
レ・ッド・ッソ・
レレ・ミド・ー」
1番(聴感上は2番)の「♪ Once bitten and twice shy」は「♪
レッ・
レド・ッド・ッソ・ー・ミ
レド・ー」
2番(聴感上は3番)の「♪ A crowded room, friends with tired eyes」は「♪
レー・ッ
レ・ド・ー・ッシ・シソ・ーミ
レ・ドッ」
続く必殺フレーズ「♪ A face on a lover with a fire in his heart」は「♪
レッ・ドド・シド・ソー・
レド・シド」
と、とにかく「レ」=「9th」の嵐、なのです。
この、「9th」を巧みに使ったイントロ、そして歌メロは、日本の音楽シーンに、何気に大きな影響を与えたと、私は考えています。
安全地帯『悲しみにさよなら』には、『ラスト・クリスマス』の直接的な影響が感じられますし、もしかしたら、「9th」を執拗に使いまくった小室哲哉にも、影響を与えた可能性が大きい。
そして、発売から36年経ったこの冬(2020年)にも、世界中でヘビーローテションされている『ラスト・クリスマス』ですが、そんな魅力的な曲に仕立てたのも、「9th」の魔法だったのです。
※2018年11月23日に掲載された記事をアップデート
2020.12.15