15才前後の数年間、ビルボードのヒットチャートを毎週ノートにつけていたことがある。今となっては隔世の感もあるが、お気に入りの曲のチャートアクションに一喜一憂しながら、最新のヒット曲を聴くのは楽しかった。
「ミスター・テレフォン・マン」もそうした中で知った曲のひとつだ。甘酸っぱいイントロを聴いただけで好きになった。メロディーも秀逸で、自分がこういうメロウなソウルナンバーに惹かれやすいと気づいたのも、この頃だったように思う。
ニュー・エディションは黒人男性5人のコーラスグループで、メンバーは僕とほぼ同年代。全員が10代半ばだった。ミュージックビデオの冒頭で5人が横一列に並んで街を歩くシーンなどは、そのまま自分たちの姿と重なった。15歳や16歳の少年なんて、アメリカでも日本でも似たようなものだ。それは今も変わらないのかもしれない。
この曲のオリジナルはジュニア・タッカーというジャマイカのR&Bシンガーで(彼もまた10代半ばだった)、作詞作曲とプロデュースはレイ・パーカーJr.。1983年発表のファーストアルバムに収録されている。ニュー・エディションはそのわずか1年後にカヴァーしたことになる。
ただ、ニュー・エディションのヴァージョンもプロデューサーはレイ・パーカーJr.なので、おそらく彼がまだ子供だったメンバーに自分の曲を歌わせたのだろう。そう思うと傲慢な気がしないでもないが、この曲に関して言えば、レイ・パーカーJr.のしたことは正しかった… ということになる。
ジュニア・タッカーのメロウなオリジナルヴァージョンも素敵だが、それに対してニュー・エディションは、メンバーが交代で各パートを歌い継いでいくスタイルをとっている。これがグループの個性にぴったりとはまった。
「ミスター・テレフォン・マン」には、ジャクソン5をはじめとするR&B系キッズグループの伝統がしっかりと息づいている。はつらつとした歌声を聴いていると、まだ何も失われていない無垢で未整理な魂が、互いに背伸びをしながら、生き生きと輝いているのがわかるのだ。
歌の内容は、好きな女の子に電話をかけるとなぜか回線が途切れてしまう。なんとかしてくれよ… といった他愛のないもの。少年にとっては一大事だが、大人からみれば微笑ましい。つまり、これは10代のための歌なのだろう。
高校生だった頃、ひとりで下校中にヘッドフォンから「ミスター・テレフォン・マン」が流れてくると、よく一緒に口ずさんだ。すると、仲間と並んで歩いているような気分になれた。ちょうどミュージックビデオの冒頭のように。
今ではもうそんな気分にはならないし、もし電話回線が途中で切れたとしても、さほど気にしないだろう。でも、「ミスター・テレフォン・マン」は口ずさんでしまうかもしれない。
プツリと回線が切れた瞬間、スイッチがパチンと入って、あの人懐っこいメロディーが口をついて出て来そうな、そんな気がするのだ。
2017.07.28
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