FANKSに愛される木根尚登のバラード “キネバラ”の魅力
TM NETWORKと聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。キーボードの小室哲哉が自由自在にシンセを操る姿や、彼が生み出すきらびやかで洗練された曲の数々… そんな小室サウンドが象徴的に思われがちだが、ギターの木根尚登の作る曲無くしてTM NETWORKは語れないし、成り立たない。
木根が作る楽曲、特にバラードは名曲揃いで、長年、FANKS(TM NETWORKファンの通称)から “キネバラ” と呼ばれ愛されてきた。キネバラはいつもFANKSたちに寄り添い、FANKSたちもまた、それぞれが心の中で大切に育んできた特別な曲たちだ。
印象的なメロディーのループで始まり、エンディングへと続いていく美しいバラード「Fool On The Planet(青く揺れる惑星に立って)」。どこまでも無限に広がる壮大な世界。大人になった今でも星が綺麗な日には、自然と口ずさみたくなる名曲だ。
「Time Passed Me By(夜の芝生)」は、ゆったりとしたリズムとせつないメロディーが心に響き、思わず曲に引き込まれてしまう。初めて聴いたのは、まだ恋愛のことなんてほとんど分からない思春期真っ只中。そんな幼い私に「愛とせつなさは表裏一体」と教えてくれたのがこの曲だった。
そして小室との共作「STILL LOVE HER(失われた風景)」。「Get Wild」に続き、テレビアニメ『シティーハンター』のエンディングに起用された曲で、FANKSたちにとって宝物のように愛されている名曲中の名曲だ。フォーキーで温かなメロディーに、木根のハーモニカが色を添えると、思わず心が震えて涙してしまう。
デジタルサウンドにおける “ヒューマン” な部分を担う楽曲群
木根の紡ぎだす曲がこんなにも愛されるのは、どの曲にも “愛と温かさ” が溢れているからにほかならない。どんな歌詞が乗ろうと、どんな編曲になろうと、曲の根底に流れる優しさがしっかりとそのメロディーに乗って心に届く。
小室の生み出す曲たちが “デジタル世界を突っ走る鋭さを持った曲” とするならば、木根の紡ぐ曲は “人が持つ普遍的な愛や優しさ、温かさを綴った曲” であり、それゆえに木根の曲はデジタル世界の申し子のようなTM NETWORKにおける、“ヒューマン” な部分を担っているといっていい。
TM NETWORKの世界がデジタルサウンドに偏りすぎず、人間味のある温かさを感じさせてくれるのは、木根の曲が大きな役割を果たしているからではないだろうか。木根と小室の曲の絶妙なバランスが、TM NETWORKの大きな魅力のひとつだろう。
TM NETWORKの絶対的な要、そして精神的支柱
木根はよくメンバーや、時にはFANKSたちからまでも、「まるでTMのお母さん(お父さんではなく?)」とか、「マネージャーみたい」と言われては、茶化されたりする。そうしたことにも、いつも笑顔で応える木根の器の大きさ、懐の広さ、そして優しさが楽曲に表れているのだ… と、いつもそう思う。
小室が突拍子もなく「ライブでパントマイムやってよ」と言いだせば、パントマイムに挑戦したり、空を飛んだり、またまた小室に「竹馬に乗って」と言われれば、何メートルもの高さの竹馬をコツコツと練習し、公園で子供たちに囲まれて困ってしまったり…。
私が高校生の時にライブ会場の最前列で、竹馬に乗って登場した姿を見た時は、あまりのことに度肝を抜かれ、ケガをしないだろうかととても心配になった。「あの頃は楽器を弾いてるよりパフォーマンスに忙しかった」と笑って振り返る木根は間違いなくTMの絶対的な要であり、精神的な支柱だ。
木根尚登、現在も才能豊かに活動中
さて、小室哲哉の完全復帰により、ようやくTM NETWORKが再起動した2021年。そして先月には『FANKS intelligence Days』ツアーも無事に幕を下ろしたばかり。未だその熱もさめやらぬ中、早くも木根は3年ぶりとなる弾き語りツアー『君の街の青い空』で、9都市13公演を回っている、まさに真っ最中だ。
また、そんなソロ活動の一方では、新作ストーリーとしては31年ぶりとなる『ユンカース・カム・ヒア』の絵本も発売。アニメや漫画、朗読劇、YouTubeなどなど、さまざまな形態で魅せてくれたこの作品がファンの元へ戻って来たことも書いておきたい。
TMに出会った80年代、中学時代に初めて聴いた木根の楽曲は、今も変わらず優しく心を癒してくれる。どんなに辛いことや悲しいことが起こっても、いつだって「辛かったね。大丈夫だよ」と、ぎゅっと抱きしめてくれる。木根の曲、そして木根尚登というアーティストは、今までも、そしてこれからも、私たちFANKSの拠り所であり、安らげる大切な存在なのだ。
※2020年9月26日に掲載された記事をアップデート
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2022.09.26