山下達郎の『COME ALONG』シリーズ、33年の時を経て、まさかの3作目がリリースされました(2017年8月)。そして同時に、過去の2作も最新リマスタリング音源で再発です。 そもそもレコードショップで流すための販促用レコードに端を発するこの企画。なので、DJ―小林克也による曲紹介が入っています。そのスタイルはディスコ調だったりハワイのラジオステーション風だったり。 店頭で流れていたのが79年の夏。達郎のブレイク直前ということもあって問い合わせが殺到し、80年の春に商品化されていますが、本人のこだわり―正式にカタログ化することへの抵抗から、カセットテープに限ったリリースでした。 ところが、これがまた時代にフィットします。折しも前年には「ウォークマン」が発売され、8トラックではない「カーステレオ」の普及も相まって、音楽は部屋で聴くだけのものでなく、アウトドアでも使われるアイテムになっていくのです(ウォークマンとカーステ、この2つは80年代音楽における革命とも言えるキーワードですがその話はまた後で)。 そうは言っても、この時の『COME ALONG』はそんな夏めいたものではありません。カセットのパッケージは、パステル調のデザインに本人の顔写真が収まっているだけの至って地味なもの。いかにもなサマー・アンセムだって1曲しか収録されていないのです(私見)。 このコンピが夏のアイテムとして存在感を増したのは、発出から4年後。84年の春、続編である『COME ALONG 2』がリリースされ、カセットのみの発売だった1作目もLP化されたタイミングでしょう。 すでに「夏だ、海だ、タツローだ!」といったイメージが定着していた時期ではありましたが、それを強力に後押ししたのが、鈴木英人による新装『COME ALONG』、そして『COME ALONG 2』のLPカヴァーアートであることに異論をはさむ人は少ないはず。達郎本人の意思とは関係なく発売された非公認アルバムでしたが。 鈴木英人、82年のアルバム『FOR YOU』のジャケットを手がけ、当時大人気だったFM STATIONの表紙や付録のインデックスカードでもお馴染みのイラストレーターです。このFMガイド誌が最盛期に40万を超える発行部数を記録したのは、彼のイラストのおかげと言っても過言ではありません。 雲ひとつ無いブルー、光と影の鮮やかなコントラスト、乾いた風を感じさせる太陽のハレーション… 当時の若者が抱いていた「アメリカへの憧れ」を見事なまでに具現化した、風と光のデイ・トリッパー。 そして2017年、そんな(古き良き)アメリカの風景を徹底的に描いていた英人が『COME ALONG 3』のジャケットで描写したのは日本の風景。じっと眺めているとこんな声が聞こえてきます。 グラデーションの淡い空 風はやわらかく、雲が流れていく 午後には一雨くるかもしれない… そうだ、 好きなことだけを続けていこう そんなことを感じさせてくれる今回のカヴァーアート。それは、達郎の音楽的進化同様、歳を重ね、試行錯誤を繰り返し、ときに深く傷ついた人間にしかたどりつけない穏やかな力強さなのかもしれません。 CHEER UP! THE SUMMER
2017.08.05
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YouTube / Warner Music Japan
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