ピンク・レディー伝説 Legend 03「カルメン'77」 作詞:阿久悠
作曲:都倉俊一
編曲:都倉俊一
発売:1977年3月10日
♪私の名前は カルメンでっす!
―― 1977年3月、もうすぐ小学5年生になる春に、私はこの衝撃的なフレーズを聴いた。いきなり自己紹介である。しかも名前がカルメンときたもんだ。これをカルメン・マキが歌っているならまだわかる。だが、歌っているのは静岡生まれのミイとケイだ。
しかも語尾が “です” じゃなく、“でっす!” 。私は誰が何と言おうが、カルメンなんでっす!という強烈な主張。え、どういうこと?と脳が混乱しているところへ、さらに衝撃的なフレーズが襲う。
♪ああ勿論あだ名にきまってまっす!
あだ名かーい!自分でボケて、自分でツッコむ。なんなんだコレは? 歌謡史上最強のノリツッコミ、と呼ばせていただこう。てか、この冒頭の歌詞、ものすごく意味のない2行だ。だが当時10歳の私は、この無意味さにシビれた。そもそも、冒頭で自己紹介する曲なんて過去にあっただろうか?
あ、かなり古いけど、山田太郎の「新聞少年」があるな。だがあの曲は「♪僕のアダナを知ってるかい 朝刊太郎と云うんだぜ」という具合に、先にニックネームだときちんと断っている。「♪カルメンです」と自ら名乗っておいて、「♪ああ勿論あだ名にきまってます」って、人を小馬鹿にするにも程があるだろう。こんな歌詞、アリなのか?
66.3万枚のセールスを記録した「カルメン’77」 ところが、ピンク・レディーにとって3作目となる、人を食ったこの「カルメン’77」、前作「S・O・S」に続くオリコン1位曲となり、前2作を上回る66.3万枚のセールスを記録した。そして次作「渚のシンドバッド」からミリオンセラーを連発、ピンク・レディー旋風が吹き荒れるのだが、その下地を作った曲と言っていいだろう。なにげに、この冒頭の2行が世間に与えたインパクトは大きかった。阿久悠、やはりグレイトだ。
さらに、曲もイントロからして、これでもか!というくらい情熱的で、サービス満点である。だいぶ後になって、米国のブラス・ロックバンド、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズの「マック・エビル」(Lucretia Mac Evil)という曲をイントロの元ネタとして聴かされたが、都倉俊一の料理の仕方は完璧だ。原曲のうま味成分だけを抽出して、日本人好みの味付けを施し、さらに美味しくしているのだ。
筒美京平も、洋楽のエッセンスを取り出して日本人好みに変換する達人だが、都倉の場合はサビに行くまで、イントロもAメロもBメロも、全部美味しくしないと気が済まないようだ。特にピンク・レディーの一連のヒット曲は、みんなサービス過剰である。そこに阿久悠の、常識の裏を行くインパクト絶大な歌詞が乗り、土居甫の一度見たら絶対に忘れない振り付けが加わるんだから、流行らないわけがない。
VIDEO
歌謡曲の世界にこれまで存在しなかったキャラ ここで、時計の針をちょっと前に戻す。デビュー曲「ペッパー警部」がリリースされた1976年8月、私は9歳、小学4年生だった。ピンク・レディーのミニスカで脚をパカパカ開く振り付けは、性に目覚めつつある男子にはかなり刺激的だった。ピンク・レディーって、なんか良くね?と真っ先に食い付いたのはスケベな男子大学生たちだと聞いたことがあるが、それは正しいと思う。
ただ、ビクターの担当ディレクター・飯田久彦から、この子たちで、今のヒットチャートにない曲を作りたいんです!とプロデュースを託され、スイッチが入った阿久悠も、「S・O・S」の時点ではまだどういう路線で行くべきか迷いがあったのではないか。
「S・O・S」はたしかに、初のナンバー1ヒットになり、ピンク・レディー現象の導火線にはなった。だが歌詞の内容は「♪男は狼なのよ 気をつけなさい」という他愛のないもので、言ってしまえばお色気歌謡の延長、主人公の人となりは見えて来ない。阿久悠自身も、今のヒットチャートにない曲とは、こんなものじゃない。もっと何かできるはずだという作家的飢餓を感じていたと私は想像する。
さらに2人を売っていくには、歌の中にキャラの立った人物を登場させ、楽曲自体を見世物小屋に仕立て上げる…… それしかないと決断したのだろう。その結果誕生したのが、自ら “カルメンでっす!” と名乗る女性だったのではないか。衝撃的な冒頭の2行は、歌謡曲の世界にこれまで存在しなかったキャラを、これからどんどん生み出していくぞ!—— という、阿久悠が世間へ突き付けた挑戦状でもあった。
ある意味、レッドゾーンに振り切ったこの曲が与えたインパクトはもう1つ、語尾にもある。阿久は最初から最後まで、あえて “ですます調” で歌詞を書いた。歌っている内容はものすごく情熱的なのに、口調はなぜかやけに丁寧。だから聴いていてものすごく違和感がある。てか、“でっす!” “まっす!” なので丁寧もへったくれもないのだが、そこがまた強烈なフックになっている。
社会現象にまでなったピンク・レディー旋風 まあとにかく、ピンク・レディーは今後、すべてにおいて常識外れで行こう!阿久悠はじめスタッフ一同、そう腹を括ったのがこの「カルメン’77」であり、この決断があったからこそ、ピンク・レディー旋風は社会現象にまでなったのだろう。
これできまりです
これしかないのです
あなたをきっと
とりこにしてみます
あらためて聴くと、歌詞を借りたみごとな “決意表明” であり、かつ “予言" ではないか。なんなんだ阿久悠。もう唸るしかない。
そういえば「カルメン’77」という曲名も、ずいぶん型破りなタイトルだ。“1977年のカルメン”といった意味合いなのだろうが、それじゃあつまらない。前年にベートーベンの曲をディスコ調にアレンジして大ヒットした「運命’76」や、同時期公開の映画『エアポート’77』の影響もあったのかもしれない。ただ私が思うにこのタイトル、実は「Gメン’75」のパロディだったのではないか? “Gメン” “カルメン” ときれいに韻を踏んでいるのが何よりの証拠だ(笑)
あ、もしかして「ペッパー警部」のモデルは、丹波哲郎演じる黒木警視正だったのかも?てか、カップル相手に、何のGメンだよ!
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2026.08.22