高中正義のギターがフュージョンブームの始まりを告げた!
今ではちょっと考えにくいが、1980年代は「フュージョン(インストもの)」がブームだった。その始まりを告げたのは、高中正義のギターサウンドである。のみならず、日本のポピュラーミュージック史において、最も大衆に名を知られたギタリストは、まちがいなく「高中正義」その人であろう。
自称・本格派のJAZZファンからは「歌のない歌謡曲」と揶揄されながらも、フュージョンブームは70年代の終わりから10年ひと時代ほど続いた。その間に「カシオペア」「ザ・スクエア」etc… 人気を集めたミュージシャンは数あれど、グループではなく、個人名義の一枚看板でメジャーであったのは、高中とナベサダ(渡辺貞夫)だけ。
その頃の球場コンサートの映像をみると、デートの若い男女はもちろん、多くの親子連れも客席に確認できる。ボーカルでもない、ソロの純粋な楽器演奏者にもかかわらず、武道館を満杯にするなど、高中は破格の存在であった。
加えて、井上陽水のアルバム『スニーカー・ダンサー』や中森明菜のシングル『十戒』の制作、はてはギター教材までも手がける八面六臂の活躍ぶりであった。
夏だ!ビーチだ!高中だ! 名曲「Ready To Fly」と「Blue Lagoon」
彼の名を一躍有名にしたのが、名曲『Ready To Fly』に乗って登場したパイオニアのCMであった。このコマーシャルが「夏だ!ビーチだ!高中だ!」のイメージの決定打になった。そう、「夏のリゾート音楽」の元祖は、達郎でもサザンでもチューブでもなく、高中だったのである!!
続いてCMに起用された『Blue Lagoon』は、当時お茶の水の楽器屋でエレキを試し弾きする若者の二人に一人がそのサビを奏でていた… という都市伝説があるとかないとか。
そのままトロピカル路線でいくと思われた高中が、大胆なイメチェンを図ったのが1981年の超大作『虹伝説』である。イタリアの画家ウル・デ・リコの絵本を音で表現するという、究極のコンセプトアルバム。
まさにギター仙人! アルバム「虹伝説」でのストイックな姿勢
それまで「能天気にギターを弾くサーファー兄ちゃん」みたいなイメージだったのが、テーマとなった絵本の内容そのままに、山に籠って〈魔術〉を修得してきた「ギター修行僧」のごとく降臨したのだから、ファンの私もちょっと戸惑った。
ただ、「ギター荒行師」の片鱗は、サーファー時代にも垣間見せており、「ギターを上手くなりたけりゃ、起きてる時はフロ・メシ・トイレ以外はずっと弾いてるくらいでないとダメ。寝る時もギターもって寝る」と公言していた。メロディメーカーとしてあれだけ天賦の才に恵まれながら、人知れずトレーニングしている彼のストイックな姿勢に驚愕したものだ。
LD=レーザーディスクにもなった『虹伝説』の中でもとりわけ『YOU CAN NEVER COME TO THIS PLACE』の演奏は、長年にわたる彼のギタープレイの白眉であろう。LDの盤面裏にも似た輝きを放つ、愛器・ヤマハSGレインボーメタリックを操る高中の恍惚の表情の裏に、鬼気迫るものを感じる。それは、まさに「ギター仙人」の姿そのものであった。
※2016年4月9日に掲載された記事をアップデート
2020.06.21