秋生まれの僕は、秋が好きだ。サンマを焼いて柿を食べ、好きな音楽をかけながら、川原でピクニックするのも良い。また、本格的に寒くなる前で寂しさが心をよぎる季節でもある。そんな僕の秋のBGMはキンクスと相場が決まっている。
初めて『ユー・リアリー・ガット・ミー』を聴いた時の衝撃は忘れ難い。喩えではなく文字通り一日中聴いていた。そして、そこは地獄の一丁目。キンクスの沼にハマった早熟を自称する厄介な僕は、「あえて」名盤の誉れ高い67年発表の『サムシング・エルス』から聴き始めた。そこにボーナストラックとして収録されたある曲が、さらに青年を沼に引きずり込んだのだった。その曲こそ『オータム・オルマナック』だった。
哀愁の漂うメロディが可愛らしい「小さな」佳曲である。歌詞カードを見たら、リウマチや庭掃除という言葉が目に入る。「小市民的」という言葉もぴったりだなと頷いた記憶がある。そして『ユー・リアリー・〜』とは違った、「キンクス的なるもの」の魅力にすっかりはまり込んでしまった僕は、レイ・デイヴィスから学んだシニックさを身につけ斜に構えた、より扱いづらい中学生となったのである。
さて、幻想が壊される時は必ず来る。それは80年代初頭、ヘヴィメタルやパンクロックのオリジネイターとしてキンクスが再評価され、彼らもそれに応えハードロックバンド化した頃のライブを収めた『ワン・フォー・ザ・ロード』を聴いた時だ。アメリカ受けしそうな大味さに、レイのワザと潰したような声。特に『アテチュード』という曲。「そういう斜に構えた態度だと友達ができないぞ」という曲なのだが、まさにその時の僕を言い当てられ叱られているようで、耳に痛かったのだ。
しかし、『ユー・リアリー・〜』はハードロックの原型になったわけで、このアルバムこそ真のキンクスの魅力を伝えているのかと気づくには時間を要した。今ではキンクス入門盤として、このアルバムをお勧めするほどだ。しかし、やっぱり僕には『オータム・オルマナック』が合っているなぁとも思うのだ。
2016.10.31
YouTube / EleSkelter danu
YouTube / The Kinks
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