タイアップが消えた「俺たちの時代」モスクワ五輪不参加でも西城秀樹はがんばった？

テレ朝が社運をかけたプロジェクトに漂う暗雲

昨今の世界情勢から、東西冷戦時代を思い起こしている方も少なくないだろう。東側陣営と西側陣営の対立構造は、世界の政治や経済、軍事などを左右するものだったが、実は日本のエンターテインメント業界にも間接的に影響を与えたこともあった。

話は1977年にさかのぼる。３月７日、テレビ朝日（当時は「NET」。1977年４月より改称。以下、テレ朝）によるモスクワ五輪（1980年開催）の独占放送権獲得が発表された。日本で民放による五輪独占放送は前例のないことであり、その発表は他局を出し抜くものだった。

以後、テレ朝はモスクワ五輪のPR番組を続々と放送していく。クイズ番組『家族対抗オリンピッククイズ』、モスクワ五輪のマスコットキャラクターを描いたアニメ『こぐまのミーシャ』のほか、『けっぱれ！大ちゃん』（柔道）、清水由貴子主演の『花よめは16歳』（競泳）、荒木由美子主演の『燃えろアタック』（バレーボール）と、主人公がモスクワ五輪出場を目指す内容のドラマが連発されたのだ。

ところが、開催まで１年を切った時期に、モスクワ五輪に暗雲が垂れ込める。1979年12月に開催国であるソ連がアフガニスタンを侵攻し、翌年１月にそれに抗議するアメリカのカーター大統領が世界各国へ五輪ボイコットを呼びかけたのだ。そして、４月12日にアメリカがボイコットを正式決定。日本政府もボイコットの方針を固め、それをJOCに通達した。

17時間の五輪特番、日本のボイコットが確実視されるなかで放送

テレ朝は頭を抱えた。日本のボイコットは最終決定ではないので７月の五輪本番をどうするかについての結論は先送りとしても、目前の５月５日に『オリンパソン'80』というモスクワ五輪のPR特番が待ち構えていたのだ。

「オリンパソン」とは、「オリンピック」と「テレビマラソン（長時間特番の意味）」をミックスさせた造語で、TBSを退社直後の久米宏と、前年に「魅せられて」を大ヒットさせたジュディ・オングが総合司会を担当する17時間（8:30～25:30）の超大型番組だった。

結局、日本のボイコットが確実視され、本来のテーマがボヤけたなかでテレ朝は『オリンパソン'80』の放送を決行した。それしか選択肢はなかったのかもしれない。ただし、内容は予定通りとはならず、ボイコット問題そのものをテーマとし、有識者が討論したり、視聴者の声を紹介したりする形式をとったのである。

白けムードを救ったドリフと秀樹とドラえもん

ボイコット問題を番組の柱にした『オリンパソン'80』だが、さすがにゴールデンタイムでは、下記のような娯楽色の強いプログラムを放送している。

18:30 『バラエティショー ドリフと秀樹とドラえもん』
19:00 『オリンピックだー！ ドラえもん「のび太の夢の金メダル」』
20:00 『ドリフのヒゲダンス』
20:20 『秀樹・オリンピック応援歌発表』
20:40 『ドリフのコント集』
21:00 『映画「東京オリンピック」』

苦しいなかで、ドリフと西城秀樹とドラえもんが、なんとか座を持たせたのである。

上記で、『秀樹・オリンピック応援歌発表』とあるコーナーでは、西城秀樹がJOCの応援歌「俺たちの時代」（原作詞：熊野昌人、補作詞：たかたかし、作曲：水谷公生）を初披露した。この曲は、前年の大ヒット曲「YOUNG MAN （Y.M.C.A.）」、「ホップ・ステップ・ジャンプ」と同路線で、“これぞ秀樹” ともいえるポジティブな青春ソングだった。白けた空気のなかで、秀樹はそれを全力で歌った。

タイアップ消滅。五輪色を塗りつぶされた西城秀樹「俺たちの時代」

1980年５月５日は、「哀愁でいと」で田原俊彦がデビューする直前で、西城秀樹はまだ男性アイドルのトップ走者である。夏には東京と大阪でスタジアム公演の予定もあった。もし、モスクワ五輪がフルスペックで開催されていれば、「俺たちの時代」はテレ朝で大々的にプッシュされ、そのプロモーション効果でセールスが大きく伸びた可能性があっただろう。

しかし、５月24日に日本のボイコットが正式に決まったため、大量オンエアの機会は消滅。６月にシングルとしてリリースされるが、オリコンの週間チャートでは６位止まりで、「YOUNG MAN （Y.M.C.A.）」のようなその年を代表する大ヒット曲にはならなかった。なお、当初用意されたジャケ写は陸上競技のトラックで撮影したものだったが、途中で別の写真に差し替えられ、五輪の色は完全に塗りつぶされた。

最終的に日本を含め50近い国がボイコットしたため、テレ朝のモスクワ五輪中継のスケールは大幅に縮小。そして、西城秀樹は「俺たちの時代」リリースの翌月、モスクワ五輪開幕直後に、マイナスイメージを上書きするかのごとく新曲「エンドレス・サマー」を発売している。

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2022.08.02