80’s Idols Remind Me Of… vol.9
大きな森の小さなお家 / 河合奈保子
空前のアイドルブームが襲来した1980年代―― そのキック・オフとなったのは、80年デビュー組だった松田聖子、柏原よしえ(現・芳恵)、河合奈保子の3人がシーンに登場したことによる。
それぞれがフレッシュで鮮烈なデビューを飾っていたが、その登場順は松田聖子(初シングルリリース80年4月)、そして少し遅れて柏原よしえと河合奈保子(共に6月)。デビューシングルは、松田「裸足の季節」、柏原「No.1」… そして河合奈保子はと言うと、80年代屈指の “問題作”「大きな森の小さなお家」(80年6月1日発売)だ。
このとき筆者は17歳。アメリカのヒットチャートを毎週夢中になって追いかけていた洋楽マニアで、特段日本のアイドルにのめり込むことはなかった。せいぜいテレビに映るアイドルを眺めて――「キャンディーズはやっぱランちゃんだね」とか、「大場久美子と結婚したいなー」とか、「石野真子、意外にエロいよね」なんて話を友人とする程度、ごく普通の高校3年生だった。
それを一変させたのが河合奈保子だった。80年6月のある夜、何気なく観ていたテレビの歌番組。溌溂とフレッシュに! そして健気に歌う彼女の姿が目に飛び込んできた瞬間からの数分間、本当にブラウン管から目を離せなかった(おそらく『夜のヒットスタジオ』だったかと…)。とにかく、脳天からつま先まで100万ボルトの電流が走った。画面にかじりつくって、こういうことを言うんだな。
最初の印象は “人形が歌ってる!?”。
とにかくかわいい。この世の人とは思えないほど、とにかくかわいい! こんなにかわいい娘、後にも先にもこの娘だけだ!
彼女は本気でそう思わせてくれた。そして、小学生時代に小柳ルミ子や麻丘めぐみに抱いた、胸を締め付けられるような甘酸っぱいあの感覚がよみがえる… この出会い、河合奈保子に恋した瞬間だった。
こうして、彼女はもとより女性アイドルのシングルをハードにコレクトする日々が始まる。
「大きな森の小さなお家」は、80年代以降のアイドルソングのひとつの特徴でもある “セクシャルな事象を見事な暗喩で表現” した典型的な事例だ。これは巷間で指摘されているので詳細はさけるが、タイトルからして、女体に備わる女性器を思わせるものだ。
セクシャルとは無縁な河合奈保子(=アイドルシンガー)にこれを歌わせた送り手側の意図は実に明白だが、「誰もさわってナーイナイ」のフレーズで処女性をキープしているのはセオリー通りと言える。
作詞家、三浦徳子の確信犯っぷりは、さすがとしか言いようがない。しかも同曲は、松田聖子「青い珊瑚礁」や松本伊代「センチメンタル・ジャーニー」より先にリリースされている。実に革新的と言えよう。
来る80年代アイドルソングのひとつの雛形を提示した河合奈保子の「大きな森の小さなお家」は、オリコン週間ランキング最高位36位といったヒット度数以上に、計り知れない影響力を伴った名曲だったのだ。
2019.01.06
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