少年隊史上最も地味なシングル「砂の男」生身の男の魅力を堪能せよ！

初回パッケージは豪華仕様！少年隊デビュー５周年記念シングル「砂の男」

今回は、1990年12月12日発売の、少年隊の通算16作目（「続・じれったいね」を除く）のシングル「砂の男」をご紹介します。発売日は、彼らのデビュー５周年記念日だったこともあり、初回盤は六面折り畳みパッケージかつ特製カレンダー封入という豪華な仕様！ にもかかわらず、少年隊史上初めてオリコンTOP10入りを逃してしまいます。

この1990年の音楽シーンを振り返ってみると、ドラマ主題歌やCMソングなどの大型タイアップ曲や、バンドやシンガーソングライターなど自作自演型のアーティストが人気となり、ノンタイアップのアイドルが目立ちにくい存在となっていきました。少年隊に限らず、他のジャニーズ勢も、光GENJIや男闘呼組はオリコン１位を、また田原俊彦がオリコンTOP10をそれぞれ逃しはじめ、大きな逆風が吹いています。

また筆者が担当するラジオ番組『渋谷のザ・ベストテン』（渋谷のラジオにて2020年９月に実施されたTwitter投票）でも、この「砂の男」へのリクエストは全1,435票中１票しかなく、少年隊史上、記録にも記憶にもあまり残らぬ存在のようです…。

余談ですが、同年にシングル「お祭り忍者」でデビューした忍者はカップリング違いの２作が、もしオリコン３位と10位ではなく合算してオリコン１位に登場していたら、ジャニーズ勢の踏ん張りももう少し見せられたのかもしれません。

少年隊だからこそ埋もれてしまった隠れた名曲「砂の男」

しかし！ 本作を意識して聞いてみると当時の男性ボーカル曲としては決して悪い出来ではないのです。むしろ、激しく踊りながら音域の広い難曲を次々と歌いこなす少年隊だからこそ埋もれてしまった佳曲だと気づきました。そこで、隠れた名曲を語るのが、リマインダー上での私の使命と勝手に考えて（笑）、ここに「砂の男」を猛烈に推薦します！

まず、曲調は都会的な雰囲気のある穏やかなスローバラードで、高層ビルの上階でデートする恋人たちを想起させます。既にバブルは弾けども、まだこの頃の週末のホテルはカップルの予約で一杯だったようで、まさにこの時代を象徴したものとなっています。

また、音域も少年隊にしては決して広くなく、３人が終始穏やかに歌うだけ。少年隊といえば、ＡメロもＢメロもサビ同様にキャッチーで、おまけに大サビ前にこれまたドキャッチーなＣメロを付けるというのがお約束（具体的には筒美京平作曲の「仮面舞踏会」「stripe blue」「ABC」あたりを想像してください）だったのに肩透かしを食らったよう。さらに３人の技巧的なハモリもなく、ここではユニゾンのみ。

歌詞で読み取る男の心情

しかし、彼ららしい強烈なフックがことごとくそぎ落とされたからこそ、１人の男の心情がよりダイレクトに伝わってきます。実際に歌詞を追ってみると、それがよく分かります。舞台となる都会は、ジェットヘリが飛び交い、ただビルの壁に情報が流れ、やさしさも渇いてしまう砂漠の果て。西暦2000年という世紀末に向かってこの世はどうなるのか!? ノストラダムスの大予言は当たるのか!? という煌びやかながら不穏な空気も漂っています。

その中で、「生まれたまま感じあう夜」に、時代にも外見にも惑わされない２人だけの真実の愛を見つけるということがよりいっそうドラマティックに描かれています。「なんにも言うなよ… 言うなよ」、「どこにも行くなよ… 行くなよ」とソロで語るように歌う部分は、あたかも特定の誰かへの告白のようで一瞬ドキリとさせられます。

最も地味だけど、最も歌いやすく、最も歌の世界に入りこみやすい曲

この1990年代前半は、中西保志や郷ひろみなどの男性ボーカル曲がカラオケから火がついてヒットすることが多く、カラオケ人口も上り調子だったことから、その先駆けとなるような、歌いやすく共感しやすい楽曲があえて選ばれたのかもしれません。実際、この楽曲は難しい曲だらけの少年隊の中で最もカラオケ高得点が取れると断言できます！ ３人がTVでパフォーマンスする際は、クルクルと美しいターンを決めながら華麗に歌うのですが、ユーザーがマイクを握りしめて歌う分にはとても歌いやすいのです。

2020年いっぱいで、メンバーの錦織一清と植草克秀がジャニーズ事務所を退所し、事実上の活動休止となる少年隊。その衝撃の真っただ中、デビュー35周年記念日となる2020年12月12日に、大半が長らく廃盤となっていた全シングルを収録したベストアルバム『35th Anniversary BEST』が発売されました。その中で、「砂の男」は最も地味なシングルかもしれませんが、最も歌いやすく最も歌の世界に入りこみやすい楽曲なのです。

ダンスもパフォーマンスもTVタレントとしても完璧であり続けた少年隊ですが、“引き算の美学” を追求した「砂の男」は、そんな３人の生身の部分がより深く堪能できます。彼らを恋愛対象と見てきた大ファンの方がじっくり聴き直せば、ますます好きになっちゃうかもしれませんよ!?


Song Data
■ 砂の男 / 少年隊
■ 作詞：真名杏樹
■ 作曲：羽場仁志
■ 編曲：船山基紀
■ リリース日：1990年12月12日
■ オリコン最高位：14位
■ 推定売上枚数：4.9万枚
■ 100位内登場週数：６週

2020.12.12