2018年12月31日――
まもなく2019年を迎えようとしている。そして平成最後の大晦日だ。
輝かしい80年代は既に30~40年も昔の話。要するに、僕らが少年だった1970年代に照らすと、それから30~40年前の太平洋戦争時代の話をしているのと大差がないという事。思えば、ずいぶん遠くに来てしまったものだ。
今回は今からちょうど40年前。1978年の話をしてみたい。
この年の歌謡界を総括すると「職業作家陣・黄金時代の末期」とも「ニューミュージック勢台頭の最初期」とも言える潮目の年。翌1979年にはその勢力が拮抗、もしくは逆転し、歌謡曲とニューミュージックが同義語となる80年代へと繋がって行く。もっと分かりやすく説明するため、その年の『日本レコード大賞』を例にとろう。
―― この年の『レコ大』は、お約束のメイン司会、高橋圭三の脇を固める形で久米宏と黒柳徹子がサブ司会として就いている。同年開始された『ザ・ベストテン』にちなんだキャスティングであり、これだけを見ても「流行歌の新しい時代の幕開け」にふさわしい。
まずは金賞受賞曲(=大賞ノミネート曲)を見てみよう。
【金賞】
●シンデレラ・ハネムーン / 岩崎宏美
作詞:阿久悠 作曲:筒美京平
●たそがれマイ・ラブ / 大橋純子
作詞:阿久悠 作曲:筒美京平
●ブルースカイブルー / 西城秀樹
作詞:阿久悠 作曲:馬飼野康二
●UFO / ピンク・レディー
作詞:阿久悠 作曲:都倉俊一
●LOVE(抱きしめたい)/ 沢田研二
作詞:阿久悠 作曲:大野克夫
●プレイバック Part2 / 山口百恵
作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童
●グッド・ラック / 野口五郎
作詞:山川啓介 作曲:筒美京平
●故郷へ… / 八代亜紀
作詞:池田充男 作曲:野崎真一
〇かもめはかもめ / 研ナオコ
作詞・作曲:中島みゆき
〇しあわせ芝居 / 桜田淳子
作詞・作曲:中島みゆき
●が職業作家陣、〇がニューミュージック勢だが、職業作家陣営はどこを切っても阿久悠というくらい阿久悠だらけである。
その対抗馬として台頭しつつあったニューミュージック勢の中でいち早く大衆の支持を取り付けたのが、阿久悠作品以上にじめじめと湿度の高かった、つまり旧来の歌謡曲的世界観を提示した中島みゆきであったことも興味深い。
以上が金賞、つまり大賞ノミネート曲であり、大賞はご存知の通りピンク・レディーの「UFO」が獲得。阿久悠にとっては前年大賞の沢田研二「勝手にしやがれ」、前々年の都はるみ「北の宿から」から続く大賞三連覇という偉業を達成した年だった。
このように金賞受賞曲を見ていると、職業作家陣による盤石な歌謡界をイメージするが、新人賞の顔ぶれはちょっと違っている。
【新人賞】
●失恋記念日 / 石野真子
作詞:阿久悠 作曲:穂口雄右
●Deep / 渋谷哲平
作詞:松本隆 作曲:都倉俊一
●東京ららばい / 中原理恵
作詞:松本隆 作曲:筒美京平
〇かもめが翔んだ日 / 渡辺真知子
作詞:伊藤アキラ 作曲:渡辺真知子
〇銃爪(ひきがね)/ 世良公則&ツイスト
作詞・作曲:世良公則【受賞辞退】
石野真子、渋谷哲平を除きなんとも新人らしからぬアンフレッシュな顔ぶれである。演歌勢ならこのようなパターンはあり得るが、ヤングポップスの新人歌手が童謡的、唱歌的だった数年前に比べて、思いっきり大人びた傾向であることがはっきり見て取れる。
前年(1977年)の新人賞が、清水健太郎(最優秀)、狩人、高田みづえ、榊原郁恵、太川陽介だったから、一気にニューミュージック風味の顔ぶれになった。例えば松本隆はこの頃すでに職業作家としてヒットを連発していたが、元々はニューミュージック勢からのトランスフォーマーであり、70年代の湿っぽい歌謡界を転覆させるべく活動していたむしろ反権威主義者と言っていい。
渡辺真知子や世良公則のような自作自演のニューミュージック勢がレコード大賞の新人賞にノミネートされるのはこの年が初めてであり、世良公則は受賞辞退という暴挙に出て、最優秀新人賞は渡辺真知子が受賞する。
ちなみにこの年の新人賞にはかすりもしなかったが、サザンオールスターズが「勝手にシンドバッド」という、なんとも権威をチャカしたような歌でデビューし、ヤングの強烈な支持を得ていたし、秋にはドラマ『西遊記』の放送が始まり、ゴダイゴという得体のしれないバンドが話題に上るようになっていた。
阿久悠が歌謡界の権威になってしまった裏で、そのような反体制ゲリラ的ミュージシャンが若者たちの支持を得始めた事が、翌年以降の歌謡シーンに大きな影響を与えていく――。
そう、ここにきて、急激に時代は変わって来ていたのだ。「童謡・唱歌っぽい職業作家によるヤング向け歌謡」から「洋楽っぽいニューミュージック的なもの」へと大きく舵を切ったその象徴が、大晦日の “最優秀新人賞” 渡辺真知子だったのではないか? それはとりもなおさず「歌謡曲終焉の始まり」だし、90年代に花開く「J-POPの萌芽」とも言える。
元号、年代の変わり目というのは、後から振り返るとそれに見事に一致するような新たな潮流が芽生えているものだ。元号が変わり、2020年代を目前に控えた2019年。ミュージックシーンにおいてどんな潮流が芽生えているのか?
私にはさっぱり読めないが、そういう目で今年のレコード大賞と紅白歌合戦を見てみようと思う。
追記
とりとめもなく1978年について書いてきたが、翌1979年の歌謡曲シーンについては、本サイトでカタリベをされているスージー鈴木氏の名著『1979年の歌謡曲』で見事に解説されている。そちらも必読であろう。
2018.12.31
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