12月20日

これが最後かもしれない!山下達郎が意を決してつくった3rdアルバム「GO AHEAD!」

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達郎の黎明期を感じる2枚のアルバム


5月に『FOR YOU』、6月に『RIDE ON TIME』と来て、いよいよ7月は『GO AHEAD!』と『MOONGLOW』の2枚が、デジタルリマスターを経てアナログレコードとしてリイシューされる。

山下達郎の70年代後半は、自身の目指す音楽が世間になかなか評価されず行き詰まりを感じていた頃にあたる。そんな悶々としていた達郎が『GO AHEAD!』の制作に踏み切ったのは「これが最後になるかもしれないから、とにかく自分の好きなことをやろう」と吹っ切れたからだ。

その結果、アルバムからシングルカットした「LET’S DANCE BABY」のB面「BOMBER」がヒット、翌年の『MOONGLOW』を挟み、名盤『RIDE ON TIME』へと繋がっていく。

この時期を達郎の黎明期と捉えるならば、『MOONGLOW』、『RIDE ON TIME』に加えこれもまた貴重な音源だと言えよう。今回のコラム執筆にあたり久しぶりに聴いてみたけれど、とにかく声が若くてエネルギッシュな印象だ。

ということで、今回は『GO AHEAD!』から「LET’S DANCE BABY」を取り上げてみたい。シュガー・ベイブ、ナイアガラ・トライアングルを経てソロになってから初めてリリースしたシングル曲であり、達郎ライブでは必ず演奏される定番曲だ。ライブでは、お客さんが曲の途中でクラッカーを一斉に鳴らす “お楽しみ曲” としても人気がある。

16トラックから24トラックへ、時代の移り変わりの早さ


今回リイシューされる『GO AHEAD!』は1978年が初出しのアルバムで、『MOONGLOW』は翌1979年のアルバムである。驚きなのは、この僅かな期間でアルバムの制作環境がガラッと変わったこと。『GO AHEAD!』を手掛けた1978年当時のレコーディング機器は8トラック(同時に重ねて録音出来る入力が8個)が主流で、16トラックを使用するなど贅沢だった時代… もちろん達郎は無理を押して16トラックでのレコーディングだ。それが翌年1979年の『MOONGLOW』制作時には、24トラックが導入されたスタジオを難なく使えたのだ。“1人多重録音” の達郎にとって「気持ちの余裕が全然違った」そうだ。

この環境の変化は、コンピュータなどの電子機器が飛躍的な進化をし始める時期と重なったことが大きな理由だと思うけど、それに加えて世俗の移り変わりが早かったというのも後押ししたと思う。

たとえば歌謡界ひとつとってみてもそうだ… デビューするアイドルたちは誰もが3ヶ月ごとにシングル曲をリリースしていたし、ニューミュージックやロックバンド系の人たちも短いインターバルでアルバムを制作していた。当時はそれがふつうだと思っていたけれど、いま思えば70年代後半から80年代は、何事にもアグレッシブな勢いがあった。

「GO AHEAD!」レコーディング、16トラックを巡るコーラス多重録音の攻防


「『GO AHEAD!』の制作予算は120時間800万だからな!」所属するレコード会社から突き付けられた条件に達郎は「上等だ!」と心の中で息巻いたという(笑)。

とは言え予算内に収めるには、ギターソロはもちろんシンセベースも自ら弾き、タンバリンまで自分で叩くという演奏に関わるもろもろを “家内制手工業” で乗り切らないと算段が立たない。

悩みは尽きないが、さらに頭を悩ませたのはコーラスの録音である。「LET’S DANCE BABY」を含め、どの曲も多重コーラスが楽曲の半分以上を占めるため、音が16しか重ねられない機器に無理やり多くのコーラスパートを突っ込まなければならないのだ…。

さてどうやるか―― 答えはダビングの連続である。ざっくり説明すると、「アー♪」と録音した音源を流しながら重ねて「アー♪」を録音。さらに2つ重なった声の音源を流しながら「アー♪」を録音して声が3つ重なるという感じ。これで3つトラックを使うところが1つに収まるのだ。1人多重録音のカラクリである。けれど、ダビングによる音質の劣化は避けられないし、後からコーラスパートの調整など一切出来ない難しさがある。トラック数が多ければ、全て個別に録音して後で微調整しながら重ねることが可能だが、16しかない入力を全楽器(全ての音源)に振り分けるなら、どこかで無理をしなくちゃならないのだ。

完璧を目指す達郎にとって、レコーディングでは何を優先して何を諦めるか究極の決断に追われただろう。

そんな切羽詰まった状況でも、達郎は遊び心を忘れちゃいなかった。―― その16分の1の貴重な1トラックを使って「心臓に指鉄砲~♪」に「パーン」というオモチャのピストルを使ったSE(効果音=サウンドエフェクト)を入れたのだ。スタジオの廊下を使い自然リバーブ(残響音)を見越して鳴らした「パーン」は、ただの思いつきだったと言うけれど、いざレコードで聴くとちゃんとしているのだから面白い。

ライブでのお馴染み「LET’S DANCE BABY」のクラッカーは、ライブハウスから始まった


心臓に指鉄砲 それで御手上げさ
とりこになったよ WOW Baby

さて、山下達郎のライブに行ったことがある人は知っていると思うが「LET’S DANCE BABY」の曲中で、一斉にクラッカーを鳴らすという恒例がある。これは80年頃の六本木PIT-INライブで、最前列のお客さんふたりが突然「心臓に指鉄砲」の歌詞に合わせてクラッカーを鳴らしたのが始まりだ。

そのクラッカー事件の噂はSNSが無かった時代にも関わらず一気にファンへと広まった。そして、1982、83年頃の中野サンプラザでは、多数のお客さんが一斉に鳴らしたクラッカーの煙が会場内に充満してしまい大変だったという(笑)。

そう、当時はまだ “飛ばないクラッカー” が開発されていなくて、クラッカーは全部火薬だったのだ。達郎自身も「しょうがないですよ… お客さんも大人だから。いちいち規制したってしょうがない。別に節度あるから、みんな」と容認。過去にクラッカーがダメで会場が使えない事例があったようだけど、達郎曰く「そういうところには行きません、もう。」とのこと。… なんたる強さ(笑)。

ちなみに『GO AHEAD!』ではSEだけど、2枚組ライブアルバム『JOY』はライブなのでクラッカー音がちゃんと収録されている。知らなかった人はぜひ聴いてみよう。そして、これから達郎ライブに行く人は、ぜひクラッカーをポケットに忍ばせて挑んでほしい。ライブのなかで唯一の観客参加型コーナーだし、めちゃくちゃ盛り上がる。その高揚感はそんじょそこらじゃ体験出来ないHAPPYな思い出になること間違いなしなのだ。

3-3-2 というシンコペーションと余白の気持ち良さ


「LET’S DANCE BABY」のリズムの特徴として、16ビートのシンコペーションがあげられる。1小節4拍を16分割したものが16ビートだけれど、この小節の2拍目までのアクセントを「ダ・・ダ・・ダ・」とずらして4拍目のアクセントになるスネアの存在感を際立たせた気持ち良さがあると思うのだ。

この特徴的なリズム… モータウン辺りが由来かな? と思ったけれど、どこにもその記述を発見できなかった。“クラーヴェ” というラテン系のアクセントの取り方に近いけれど、それもちょっと違うかなぁ。ただ、80年代の邦楽で利用されているのを僕はちょいちょい聴いたことがある。例えば、門あさ美「お好きにせめて」とかね。サビに限定すれば、小田和正の「ラブストーリーは突然に」もこのリズムだ。

達郎と吉岡治、もう二度とない奇跡の組み合わせ


「LET’S DANCE BABY」だが、元々はザ・キングトーンズのために達郎が書き下ろした曲である。ロマン溢れる歌詞を担当したのは吉岡治… 演歌歌謡と童謡が有名な作詞家である。代表作は「天城越え」「さざんかの宿」そして「おもちゃのチャチャチャ」(野坂昭如と共作)だ。まぁ後にも先にもこの組み合わせで曲が作られることは無かったのだが、それにしても奇跡の組み合わせである。

ザ・キングトーンズの「LET’S DANCE BABY」のテンポは少し緩やかで、歌声はジュンちゃんこと内田正人のアレである。どうしても「グッド・ナイト・ベイビー」の印象が強くて何でもそう聴こえちゃうんだけど、ロック色の強い達郎版に比べ、とても爽やかな曲調になっている。そして全体がちゃんとザ・キングトーンズ色に染まっているのだから、もうさすがとしか言いようがない。



「GO AHEAD!」のアルバムタイトルが意味するもの


いかがだったろうか。最後にアルバムタイトルについて考察してみたいと思う。一般的に「GO AHEAD」とは「先へ進む」とか「前進する」という意味合いの言葉であり、「お先にどうぞ」と快く許可を与える場面で使われることが多い。

ただ、タイトルは “GO AHEAD!” である。感嘆符がついて強調されているから、意訳すると「先に行っていいよ!」ていう感じじゃないかな? もうちょっと深読みすると、「僕は我が道を行くからどうぞお構いなく」という含みに気づく。つまりこのタイトルは、「このアルバムでは好きなことをやろう」と腹を括った達郎流のジョークであり、周囲に流されない “こだわり” の表明なのだ。

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2023.07.03
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カタリベ
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