フジテレビの深夜番組『オールナイトフジ』でブレイクし、歌手としても「一気!」や「雨の西麻布」をヒットさせて人気絶頂のとんねるずが、新曲「やぶさかでない」をリリースしたのは86年5月28日のこと。それまでのビクターからキャニオン(現・ポニーキャニオン)へ移籍しての第一弾となった。
そして同じ日には、とんねるずと同じ事務所に所属していた新人アイドル真璃子のセカンドシングル「恋、みーつけた」もフォーライフからリリースされている。この2枚のレコードは同日発売、事務所の先輩・後輩という以外にも共通点があり、ドラマ『お坊っチャマにはわかるまい!』の主題歌、挿入歌なのであった。
『お坊っチャマにはわかるまい!』はその年の4月から TBS 系で始まった、型破りなホームドラマ。5年ぶりに再会した高校時代の同級生に主役のとんねるずが扮し、ふたりの憧れのマドンナをめぐる恋バナや職場や家庭で巻き起こる騒動が描かれる。僅かワンクールながら印象深いドラマだった。その主題歌となったのが「やぶさかでない」である。最初に流れてきた時、あれ、どこかで聴いたことがあるぞと思い、それはすぐに、ショーケンこと萩原健一が水谷豊と歌った「兄貴のブギ」であると判った。
75年にリリースされた萩原のシングル「お前に惚れた」のB面に収録されていた曲。これはもう言わずもがな『傷だらけの天使』のコンビによる、ドラマの設定が活かされたイメージソングで、“傷天” ファンなら皆知っているナンバーである。
とんねるず(特に貴明)のショーケン信仰がかなりのものであったことは、翌年のシングル「迷惑でしょうが…」でも明らかで、やはり傷天(キズテン)世代であろう秋元康の鮮やかなリスペクト仕事が光る。
そして、作曲は見岳章。つまり、「やぶさかでない」は2年半後に美空ひばりへ「川の流れのように」を供するコンビの作品だった。カップリングの「ドラマのエンディングみたいに…」は実際にドラマのエンディングに使用されている。
一方、真璃子の「恋、みーつけた」は、松本隆と筒美京平という、80年代は主にアイドルソングのヒット作を連発したゴールデンコンビによるもので、チャート14位のスマッシュヒット。
個人的にも初めて聴いた瞬間から大好きな曲になった。山口百恵でいえば、「夢先案内人」や「乙女座 宮」あたりに匹敵する浮遊感に満ちたロマンティックなメロディ。筒美が80年代に手がけたアイドルソングの中でも指折りの傑作だと思う。加えて松本隆の処女性を重んじた聡明な詞の美しさが、真璃子の癖のない歌唱に絶妙に映えるのだ。
詞のクライマックスはあえて固い言葉を使うことで主人公の生真面目さを表現した “拒絶の意味と 誤解しないで” の部分だろう。数々のギョーカイ言葉を一般にも普及させたとんねるず流に言えば、正に “バーター” の先駆けであったわけだが、これは大成功した一例といえる。
真璃子は、とんねるずがメインとなった翌87年の TBS系ドラマ『時間ですよ ふたたび』で梅の湯のお手伝いさん役、つまりはかつての浅田美代子の役どころを演じて、高見沢俊彦作による挿入歌「お嫁に行きたい」を歌った。さらにはユーミンのアルバム曲をカヴァーした「セシルの週末」が『ねるとん紅鯨団』のテーマに使われるなど、とんねるずとは兄と妹の関係―― ヒデキと河合奈保子&石川秀美、トシちゃんと松本伊代、銀蝿一家と岩井小百合と同様、もしくはそれ以上に密接な関係を保っていたのである。
『お坊っチャマにはわかるまい!』の破天荒ぶりはなかなかだった。後半で生放送が試みられたことや、木梨演じる正美の姉に浅田美代子がキャスティングされるなど、久世光彦ドラマへのオマージュが垣間見られ、『時間ですよ』や『ムー』の世界観を目指したとおぼしい。音楽を高中正義が担当したのも斬新だった。
豪華な出演者の中でも特筆すべきは女優陣の顔ぶれではなかろうか。二人が憧れるヒロイン、麻生祐未をはじめ、正美の妹役には島田奈美(現・島田奈央子)、その友達に中野みゆきなど、当時注目すべき女優が目白押し。極めつけは石橋の恋人役として献身的な女性を演じた田中美佐子だった。
当時まだ20歳そこそこだった自分は彼女の大人の魅力にたちまちノックアウト。写真集を探したり映画を観に行ったりして追っかけたのが懐かしい。オフコース「夏の日」の MV に出演した彼女も綺麗だった… 。
真璃子の「恋、みーつけた」は今でも時折発作的に聴きたくなり、年に数回はドラマがオンエアされた当時の想い出に浸っている。最近になって歌手活動を再開し、昨年は新曲も出したという彼女。すっかり大人になった真璃子サマの歌う「恋、みーつけた」も聴いてみたいものだ。
歌詞引用:
恋、みーつけた / 真璃子
2018年5月28日に掲載された記事を再アップデート
2019.05.28
YouTube / whiz pict
Spotify
Information