松田聖子の82枚目のシングル「薔薇のように咲いて 桜のように散って」をご存知だろうか? そう、2016年のTBS系ドラマ「せいせいするほど、愛してる」の主題歌だ。
このドラマ、実は録画して毎週観ていた。なんて書くと相当前のめりで観ていたように思われるかもしれないが、別にHDD全盛の時代にあってはそれほど特別なことではない。
まあ、こんなエクスキューズを書いてしまうのも、50にもなるおっさんが武井咲と滝沢秀明の不倫的ラヴストーリーを好んで観ていると思われるのがこっ恥ずかしいだけで、実際に最終回まで見てしまったのだから、テレビドラマとしては成功していたのではないだろうか。
もっとも視聴率的には苦戦していたようで、その理由も分からなくはない。僕の奥さんは「ケッ、雑なドラマだぜ」と吐き捨てていたけど、含みを持たせるカットや必要以上に心情を深く抉るシーンをバッサリ切り捨てる潔い作品は嫌いじゃない。何にしても、美人が出てて、気楽に見れて、あぁ来週どうなっちゃうんだろうと思わせるテレビドラマは大歓迎だ。
もとい、松田聖子の曲の話だった。
ここからは異論を認めないくらいの勢いで言わせていただく。この曲、96年にリリースされた40枚目のシングル「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」以来、つまり20年来の名曲かもしれない。いや、もっと言うなら80年代のキラ星のような名曲群に勝るとも劣らない神曲として残っていくと予言してもいい。
X JAPANのYOSHIKIが作詞・作曲(編曲や演奏も)を手がけ、いかにもYOSHIKI的にオーバーレイされたオリエンタルムード満載の曲調は全くもって鉄板だ。しかし、それにも増して特筆すべき理由はその歌詞の中にある。
全体を通してシンプルで普遍的な歌詞は、54歳の松田聖子が歌うにふさわしい説得力に満ちたもの。そして、曲中に1度しか出てこない大サビのフレーズは聴き手それぞれにその意味を想像させるフックとして十分すぎるほど機能している。
Ah いつかは薔薇のように咲いて咲いて
桜のように散って
覚えているだろうか?
80年代、松田聖子は “桜” と “薔薇” をタイトルに冠したシングルを1曲づつリリースしている。
“あなた” に向かって一直線に突き進む 81年の春シングル「チェリーブラッサム」と、迷いながらも “あなた” への想いを確かにする 82年の秋シングル「野ばらのエチュード」である(余談ではあるが、両曲とも作編曲が財津和夫と大村雅朗なのが面白い)。
今回、YOSHIKIがその事実をどこまで意識していたのかは分からないが、♪ルリラー ルルリラー というフレーズは、♪トゥルリラー トゥルリラー と歌う「野ばらのエチュード」を想起させるし、桜という言葉の捉え方に関しても「チェリーブラッサム」とは敢えて対極の使い方をしているように思えてならない。
おそらく結果的な偶然なのだとは思うが、歴史的に見たらそれは必然である。YOSHIKIは意識せずともその歴史を引き寄せてしまったのかもしれない。
何よりも、デビューから36年の歳月を経て歌われる「薔薇のように咲いて 桜のように散って」の中には、あれほど想い焦がれた “あなた” がいないのだ。
フラれたわけじゃない、別れたわけでもない。この世に存在していないのだ。そこにいるのは、強さと弱さを持ち合わせながら佇む、一人の凛とした女性だけなのだ。
僕がこの曲を神曲になるかもしれないと言った理由はここにある。
“あなた” のいない松田聖子。
これを新章の始まりと言わずして何をか言わんや。荒波を乗り越えて、穏やかに航海を続ける松田聖子の新しいストーリーが始まっている。
2016.09.30
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