1995年 7月4日

コムデギャルソンの “Chic Punk” とキアヌ・リーヴスのバンド、ドッグスター

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ドッグスターの来日公演がクラブチッタ川崎で開催された日
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孤独の日々の中で出会ったキュアー


彼女と知り合ったのは80年代半ば。ファッションビルの店長会議の席、テナントの位置から割り振られた席順は隣同士だった。アパレル業界とはいえ、彼女のいで立ちは独特だった。

どこのブランドの人なんだろう?

―― 思い切って休憩時間に目があったから話しかけてみた。

「もしかして、キュアー好き?」
「どうしてわかったの? 大好きなんてレベルを超えてるし!」

すっかり仲良くなり私達は初対面の日に夕御飯を食べて帰ることにした。聞くところによれば、彼女は実家暮らしでアメリカからの帰国子女。家族全員で6年間アメリカ西海岸に住んでいたらしい。

彼女曰く、多感な時に海外移住したため、兄や妹と違い中々アメリカ暮らしに慣れず友達も出来ず孤独な日々の中で、たまたまラジオでキュアーを知り狂ったように聴いていた… と。

やっと英語に慣れた時に両親と帰国。英語も中途半端な上、帰国した日本では言葉を含め分からないことだらけで対人恐怖症になり、しばらく引き籠っていたらしい。

そんなときの唯一の心の支えはやはり音楽、特にイギリスの音楽が大好きなのは変わらずレコード屋に行くために外出していたら今の会社の社長にスカウトされたという。

彼女は、帰国後初めて自分のファッションを褒められたことが嬉しくて、対人恐怖症を克服し、敬語をきちんと使えるようになりたいという目標から、親には猛反対されていた接客業をあえて選んだのだった。

元祖・カリスマ店員は “女ロバート・スミス”


「キュアーやロックの話が出来て嬉しい!」

初対面の時は青白く見えた彼女の顔がみるみる紅潮していった。

逆毛に大きな黒い帽子に白いメンズシャツにニーソックスにショートブーツ。アクセサリーがクロスなのは幼稚園、小学校はミッション系だったから… らしい。

「見た目がガリガリのロバート・スミスだもんね」
「人が怖くて食べれなくなってね、日本に帰って10キロ以上痩せたの。今日は楽しいから全部食べられた。明日から休憩一緒に行ってくれる? もっと音楽や映画の話ししたい!」

それから数年間、私達は同じビルで働き、ほぼ毎日一緒にランチに行き、駅まで一緒に帰った。

ガリガリの “女ロバート・スミス” は、たちまちブランドの顔として雑誌に載りまくり、芸能人やミュージシャンも彼女に会いに来て真似るようになった。いわば “元祖・カリスマ店員” だ。

1991年、有名になり過ぎた彼女は、店頭の接客から本社へ栄転となる。それでも月に2~3回はご飯に行ったり映画や買い物に行った。

その年は大好きなコム・デ・ギャルソンのテーマが “chic punk”―― シックなパンク。91年のこれこそ、当時の私達にぴったりな気分だった。

英語を毛筆で縦書きにしたような文字。あえてTシャツを裏返しに着ているようなボディ。今は見慣れている手法だが当時は斬新だった。

コム・デ・ギャルソン青山店に行き、彼女はまとめ買い、私はTシャツを2枚買い、2人で「お揃いだねー」と、はしゃいでいた。

そんな彼女はイギリスの『i-D』という雑誌にも掲載される有名人になっていたため、海外のブランドからアプローチされているとも話してくれた。

見た目こそ相変わらず折れるほどに細いが、最初出会った頃の自信無さげで伏目がちな彼女ではなく、自信に溢れてよく笑い食べるようになっていた。

キアヌ・リーブス率いるロックバンド、ドッグスター来日


1995年夏に、彼女から久々のお願いがあった。

一緒にライブに行って欲しい。
チケットは手配済み。
初めて行く場所だから不安。
アーティストは、キアヌ・リーブス率いるドッグスター。

彼女からの頼みを断れるはずもない。その日は、川崎駅は大きくて不安だから… と新宿で待ち合わせしてライブに向かった。

会場のクラブチッタ川崎は1988年にオープンしたオールスタンディングのホール。

川崎へ向かう電車内で彼女は、アメリカ在住の実兄からいくつか送られてきたCDの中にドッグスターが入っていたこと、そのタイミングで来日を知り、瞬殺チケットを押さえたこと、そして「キアヌ・リーブスは俳優だけど、この音楽性が凄い親近感!」… と、初めて会った時のように高揚して話してくれた。そんな彼女に私はこう伝えた。

「英語が出来るのだから、どんどん英語で声上げてみたら。そのために押されても最前列確保で」

このとき私達は敢えてお揃いのコム・デ・ギャルソンの “chic punk” の色違いのTシャツを着て来た。ただ、私達のコーディネートは全く違っていた。夕暮れの川崎駅に降りた彼女は天使の羽のリュックに大きな帽子で、長いバレリーナのようなチュールスカートが膨らみ、後にいた私には本当の天使… シックなパンクなエンジェルが川崎駅に降り立ったように見えた。

会場のクラブチッタ川崎には開演前の長蛇の列。馴染みのダフ屋のおじさんが声をかけてくる。

「券買うよー」
「今日はどう?」
「『スピード』の兄ちゃん、ファンが凄いんだよ。整理番号1桁代がうん十万で売れたよ。女は金持ってるよな」

私達は顔を見合わせて改めて会場待ちの列を見る。なるほど… 明らかにロックコンサートの客層と違う女性客98%で、スーツにワンピースにフェラガモのバレッタにヴィトンのバッグが目立つ。大手企業の経理部にいる… そんな感じか。

真っ赤な口紅をつけているのはパッと見私達だけ。皆がジロジロ私達を見るなか開場し、何とか前の方に行けた。そして客電が落ち、演奏が始まる。

演奏より大きな、「キャー!」と言う歓声と「キアヌー!!」という叫び声でMCすらよく聞こえない。

キアヌはベース担当で、下を向くか客席に背を向けてアンプを見るかで、ベース前の客席は女だらけの “モッシュピット” と化していた。私達も押されたり叩かれたり… 難聴になりそうな凄い叫び声は、まさに轟音。床まで揺れて地震みたいだ。

約1時間、キアヌはついに一言も喋らず頭を軽く下げ足早に舞台袖に去って行った。

キアヌ・リーブスからもらった励ましの言葉


汗びっしょりの放心状態で、彼女が「もう帰りたい… 怖い」と言うので、とりあえず外に出る。深呼吸して会場の脇にあった自販機のある駐車場でコーラを買い、タバコに火を付けた。

「怪我は無い? 大丈夫?」

彼女はタバコを深く吸いながら頷いて「結局英語で叫べなかったし、叫んでも聞こえないよ…。まだ叫び声で耳がおかしい…」と、疲労からか吐き捨てるように言った。

「頑張っても、何もかも中途半端だからこんな風にくたびれちゃうだけなんだよね」

しばらく無言でタバコを吸っていると、大柄な男性が駐車場内から来て英語で話しかけてきた。

「ハイ。ライター持ってる?」

私も彼女も同時にライターを差し出し、その男性が暗がりでタバコに火を付けた瞬間気づいた! キアヌ・リーブス、その人だと。

彼女の “天使のリュック” を後から軽く押し、唖然として固まる彼女をキアヌの横に並ばせる。ここからは約10分くらいか、彼女は英語で一気にアメリカに住んでいた時期の孤独や、自信のない自分、キュアーをはじめイギリスのロックを支えにしてきた話をしていた。キアヌは静かにタバコを吸いながら相槌を打っていた。

タバコ1本だけを持ち外に出てきたらしく「タバコ貰える?」とキアヌが言い、彼女がタバコを差し出した時、

「ステージから気になったんだが、君達バンド? バンド名はシックパンク?」

このTシャツの文字は暗がりで光る加工になっていた。彼女が笑いながら否定したら、

「僕もいつも自信なんてないよ。人が怖いしね。でも君はカッコいい。オリジナルだよ。シックパンク・コム・デ・ギャルソン。そのセンス最高だよ!」

… と彼は応えた。彼女が胸を張り、天使の羽のリュックが揺れた。

異様な気配を感じて振り返ると、タバコを吸いながら駐車場内でキアヌと話しているのが終演後のファンに見つかり突進して来そうになっていた。

「タバコありがとう! もし、君がアメリカで再挑戦するなら応援するよ!」

キアヌは慌ててタバコを消して足早に去って行った。

出待ちのフェラガモ軍団の中を、足早に川崎駅に向かう途中、彼女は万歳しながらステップを踏んで踊り出した。

―― あの日、タバコを吸う赤い口紅のシックパンクな天使が、確かに川崎にいた。

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