1995年 7月5日

脚本は三谷幸喜「王様のレストラン」は日本のテレビドラマ史上における最高傑作!

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photo:フジテレビ / 共同テレビ  

新・黄金の6年間 ~vol.9
■ 王様のレストラン
脚本:三谷幸喜
主演:九代目松本幸四郎
放送開始:1995年4月19日

「王様のレストラン」を俯瞰する格言とは?


「人生で起こることは、すべて、皿の上でも起こる」

―― とあるフランス人シェフの言葉である。今から28年前の1995年に放映されたドラマ『王様のレストラン』(フジテレビ)の冒頭には、決まって彼―― ミッシェル・サラゲッタの料理にまつわる格言が回替わりで登場した。ただ、先の言葉だけ、第1話と最終回と、2度も登場。その意味では、同ドラマ全体を俯瞰する格言とも言える。ついでに言えば、ミッシェル・サラゲッタなるシェフはこの世に存在しない。脚本家のシャレである。

そう、ドラマ『王様のレストラン』の脚本家は、三谷幸喜サンだ。今やNHK大河ドラマを3作も手掛けた国民的脚本家であり、『ザ・マジックアワー』などの映画監督でも知られるが、『王レス』のころは、まだ30代前半の若手脚本家の一人。だが、断言したい。今に至る三谷脚本の作品のうち、間違いなく最高傑作は『王レス』である。いや、個人的には日本の連ドラ史上最高傑作と言っても過言じゃない。

「新・黄金の6年間」の申し子、三谷幸喜


三谷サンの連ドラ脚本家としてのデビューは、1993年1月クールの『振り返れば奴がいる』(フジテレビ)である。それまで、主に舞台や深夜ドラマで活動していた三谷サンが、これを機にゴールデン帯に進出。やがて時代の寵児となるのは承知の通り。その意味では、僕が当リマインダーに連載中のシリーズ企画、バブル崩壊後の1993年から98年に至る6年間、エンタメ界で新しい才能たちが次々とビッグヒットを放った「新・黄金の6年間」の申し子とも――。

知る人ぞ知る話だが、三谷サンが連ドラの世界に入ったキッカケは、“代役” だった。企画のみ決まっていたドラマで、脚本家が執筆前に諸事情で降板。急遽、ピンチヒッターに抜擢されたのだ。この時点でオンエアまで時間がなく、『振り奴』の脚本制作は、最初から火の車だった。元来、遅筆で知られる三谷サンにとって、週一放送の連ドラのスケジュールは過酷以外の何ものでもなかった。本人曰く、1話分の脚本に10日を擁したという。既に、この時点で破綻している。

いや、それ以上に、三谷サンは思わぬ洗礼を受ける。同ドラマは基本シリアス。元々、主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」で喜劇を書いていた三谷サンは、それでも随所に笑いを入れようとするが、同ドラマのチーフ演出の若松節朗監督にことごとく削られる。この時の苦い経験が、後に『ラヂオの時間』(舞台劇・映画)を生むことになる。

とはいえ、様々な苦労を経験した甲斐もあって――『振り奴』は三谷サンにとって、人生の大きな転機になる。まず、ドラマ自体は平均視聴率16.8%と健闘し、更に最終回は22.7%と大台に乗せ、有終の美を飾った。ゴールデン帯のドラマにとって視聴率は神である。これで三谷サンは次もゴールデンで連ドラを書くことが許され、次作はある程度、自分の意見を聞いてもらえる身分になった。

のちの「古畑任三郎」、日本版コロンボを作ることで意気投合


そして、もう一つ―― 三谷サンの人生に大きな影響を及ぼす人物との出会いである。『振り奴』は、フジテレビの編成部(当時)の石原隆サンが「企画」として携わっており、それは事実上、彼がドラマの局P(一番偉いプロデューサー)であることを意味した。当時のフジのドラマは、看板枠の「月9」を局内の第一制作部が制作する一方、編成部が外部のプロダクション(『振り奴』は共同テレビ)に直接発注して作る「水曜劇場」(水曜夜9時)枠があった。前者は王道のラブストーリー、後者はそれ以外の個性的なドラマと、棲み分けもあった。

そう、同ドラマで三谷サンは、生涯の友となるフジの石原隆サンと出会うのだ。石原隆サンとは、映画『私をスキーに連れてって』(監督:馬場康夫)のタイトルを発案したり、ドラマ『踊る大捜査線』で “サラリーマン刑事” というコンセプトを考えたりと、フジが誇る数々のヒット作に関わった凄い人。『振り奴』の打ち上げの席で石原サンと三谷サンは隣り合い、互いに好きな映画やドラマを語り合ううち、共通点が多いことに気づく。その1つが『刑事コロンボ』だった。そして2人は、日本版コロンボを作ることで意気投合する。―― のちの『古畑任三郎』である。

ドラマ『警部補・古畑任三郎』(フジテレビ)は、94年4月クールに登場。枠は再び、水曜劇場、企画は石原隆サンだ。『コロンボ』をオマージュして、最初に犯人を明かす “倒叙法” のスタイルを採用する。主人公を安易にコロンボの野暮ったい風采に寄せず、逆に古畑をスタイリッシュに仕上げた辺りに、三谷サンの気概を感じる。古畑役の田村正和は当初、オファーに乗り気じゃなかったが、ならばと三谷サンが丸々1話分の脚本を書き、送られてきたホンを読んで、その面白さに快諾。生涯のハマり役となったのは承知の通りである。

『警部補・古畑』は平均視聴率こそ14.2%と、当時としては平凡な数字に終わったが、内容面で高い評価を得て、更に再放送で人気が再燃。“脚本家・三谷幸喜” の名が一躍、世間に知れ渡る出世作となった。



三流のフレンチレストラン「ベル・エキップ」を舞台にした「王様のレストラン」


少々前置きが長くなったが、いよいよ本題となる『王様のレストラン』の話である。『古畑』の内容面での高い評価を受けて、いよいよ三谷サンが最も書きたいドラマを書ける環境が整った。時に、1995年4月クール。枠は三度「水曜劇場」、企画はもちろん石原隆サンである。ちなみに今日、7月5日は、今から28年前に『王レス』が最終回を迎えた日にあたる。

ドラマ『王様のレストラン』――。落ちぶれた三流のフレンチレストラン「ベル・エキップ」を舞台に、かつてこの店で働いた伝説のギャルソンが凱旋。再び一流の店に導くべく、ポンコツ従業員たちを変えていく群像劇である。主演は、歌舞伎役者の松本幸四郎(現・松本白鸚)。共演に、筒井道隆、山口智子、西村雅彦(現・西村まさ彦)ら――。

松本幸四郎のキャスティングは、三谷サンのたっての願いだった。彼が最も好きなNHKの大河ドラマが『黄金の日日』(1978年)であり、その主役の呂宋助左衛門を演じた(当時は市川染五郎名義)人物だった。ちなみに、三谷サンが書いた大河ドラマ『真田丸』でも、幸四郎サンは三谷サンのたっての願いで、実に38年ぶりに同じ役を演じている。

また、同ドラマの特徴の “群像劇” も、三谷サンが昔から信奉する物語のスタイルだ。彼の好きな映画に『大脱走』があり(僕も大好きだ)、脱走という1つの目的に向かって捕虜たちが各々役割分担して奮闘する姿は、一流の店に変わるべく従業員らが各々の持ち場で奮闘する同ドラマと重なる。『大脱走』のエンディングで、俳優たちは役名と共に肩書き(トンネル王、調達屋、偽造屋、製造屋など)も表記されるが、あのスタイルも『王レス』のオープニングに踏襲された。こんな具合に――

千石武(ギャルソン)… 松本幸四郎
原田禄郎(パトロン)… 筒井道隆
磯野しずか(シェフ・ド・キュイジーヌ)… 山口智子
三条政子(バルマン)… 鈴木京香
水原範朝(ディレクトール)… 西村雅彦
梶原民生(メートル・ド・テル)… 小野武彦
稲毛成志(シェフ・パティシエ)… 梶原善
大庭金四郎(ソムリエ)… 白井晃
和田一(コミ)… 伊藤俊人
畠山秀忠(スー・シェフ)… 田口浩正
佐々木教綱(プロンジュール)… 杉本隆吾
ジュラール・デュヴィヴィエ(ガルド・マンジェ)… ジャッケー・ローロン

―― シェフ・ド・キュイジーヌとは総料理長、メートル・ド・テルとは給仕長、ガルド・マンジェはオードブル兼食材管理のこと。ちなみに、プロンジュールは響きだけはやたらカッコいいが、皿洗いである。

「がんばれベアーズ」をオマージュした「王レス」


このオープニングで流れる勇壮なオーケストレーションを担当したのが、かの偉大なる音楽家・服部良一を祖父に持つ華麗なる音楽一族の服部隆之サン。三谷サンとは同ドラマで出会い、以後も数々のドラマや映画で組む入魂の仲になった。同主旋律は劇伴としても度々用いられ、登場人物らを劇的に立たせるのに一役買っている。

そうそう、登場人物の名は、鎌倉幕府草創期に活躍する人物がモチーフになっている。禄郎は九郎義経、千石は千本の太刀を奪おうとする武蔵坊弁慶、しずかは静御前、範朝は義経の兄の頼朝、三条政子は北条政子―― 等々。思えば、三谷サンが大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)を書く27年も前に、既にその伏線があったのである。

ドラマ『王様のレストラン』―― 物語の構造自体は、シンプルである。ポンコツチームを、外からやって来た主人公が立て直すプロットは、古今東西の映画でもよく見られる鉄板のフォーマット。三谷サン自身は、米映画『がんばれベアーズ』をオマージュしたと公言する。言われてみれば『ベアーズ」は、かつてマイナーリーグで活躍しながら、今はプール清掃人の主人公がポンコツチームのコーチを任されたり、エースが天性の素質を持つ紅一点の女の子だったり、チーム一弱気な少年が最後に重要な守備を任されたり―― といった要素は、『王レス』のギャルソン千石、天才シェフしずか、気弱なパテシエ稲毛に受け継がれている。

ドラマは1話完結をベースとしながら、全11話で大きな物語が進む二重構造になっている。1話ごとに群像劇の中から主人公を一人ずつピックアップし、その成長を描きつつ、チームの絆も段々と深まる。また、俗に言う「連ドラのニコハチの法則」も当てはまる。最初の平常運転となる第2話、主人公とヒロインが一度接近(和解)する第5話、物語に最大のピンチが訪れ、最終回に向けての起点となる第8話――『王レス』では、それぞれ「復活への第一歩」「奇跡の夜」「恋をしたシェフ」として描かれる。



人生で起こることは、すべて、皿の上でも起こる


演出は、今や2人とも大御所の鈴木雅之サン(チーフ)と河野圭太サンだ。鈴木サンは後に『HERO』(フジテレビ)でも見せるシンメトリーな絵作りが特徴の独特な空気感を作れる監督。河野サンは三谷サンのコメディ要素をストレートに昇華できる今や三谷サンが最も信頼を置く監督。物語はすべてレストランの店内で進む典型的なシットコムである。その意味で、冒頭に掲げた「人生で起こることは、すべて、皿の上でも起こる」は間違ってはいない。

ちなみに―― 個人的には、鈴木監督の最高傑作回は、千石(松本幸四郎)としずか(山口智子)の主要キャスト2人が最後まで出会わないスタイリッシュな演出が光る第1話「この店は最低だ」、河野監督の最高傑作回はコメディとしての完成度が最も高いとされる、梶原(小野武彦)が元妻と息子の前で総支配人を演じる第6話「一晩だけの支配人」だと思う。

それにしても―― 三谷サンの書く、毎回誰か一人がフィーチャーされ、ラストで奇跡が起こって従業員らの絆が深まり、また一歩、一流の店に近づく群像劇のプロットは、実に素晴らしい。例えば、第2話「復活への第一歩」では、千石がわざとメニューにないオーダーを受け、シェフのしずかの眠れる才能を掘り起こし、従業員らが一丸となって「テーブルの6人のお客に同時に料理を提供する」ミッションを達成するチームワークが描かれる。

また、第3話「ヤメてやる、今夜」では、店の赤字を減らすために、従業員らのリストラが検討されるが、しずかは、皿洗い担当の佐々木(杉本隆吾)と、道端のアクセサリー売りから「一人くらいフランス人がいたほうが拍が付く」という理由で雇われたデュヴィヴィエ(ジャッケー・ローロン)の2人が切られると思い、「だったら私がヤメる」と反発する。しかし、オーナーの禄郎(筒井道隆)は前職の商社時代の経理の才を生かし、経費削減のアイデアで2人をリストラから救う。一同安堵し、ますます絆を深める彼ら――。

更に、第7話「笑わない客」では、「ベル・エキップ」が日仏経済会議の夕食会の会場に選ばれるも、双方の代表団は険悪な雰囲気。運ばれてくる料理に一切口を付けない。従業員らは空気を変えようと次々に挑むも、撃沈。禄郎に至っては「赤い洗面器」の小話のオチを忘れる始末。そんな中、三条さん(鈴木京香)は、千石から教わったフランス語をテーブルの前でまくしたて、驚いた代表団はディナーをやり直し、しずかの料理のおかげで双方は和解する。実は彼女が言い放ったフランス語は、母親が子供をあやす時に使う「坊や、お口が動いてまちぇんよ」だった―― というオチ。

日本の連ドラ史上最高傑作


元々、三谷サンは劇団の座付き作家だったので、劇団員全員にスポットライトが当たるようにホンを書くのはお手のものだった。そんな彼の特性は、1クールの連ドラにおいて、一話ごとに一人一人を主人公にし、結果、チームの絆が深まる群像劇を描くのに最適だった。

そう、ドラマ『王様のレストラン』は、脚本家・三谷幸喜の才能と、日本の1クール連ドラというフォーマットがピタリとハマった奇跡の作品だったのだ。

同ドラマが、日本の連ドラ史上最高傑作と言われる所以である。

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2023.07.05
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のら
テレビにかじりついて観ていたあの頃を思い出す☺️
2023/09/10 12:33
0
返信
カタリベ
1967年生まれ
指南役
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