2月1日

資生堂 vs カネボウ CMソング戦争 〜 松田聖子が覆したコスメ界の常識

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photo:Discogs  

84年は、化粧品CMにアイドル歌手が登場するようになるターニングポイントの年であった。それまで{大人の商品}であった口紅やアイシャドーのCMは、正統派の女優やモデルの聖域であった。それを素人上がりのアイドルが侵食し始めたのである。その{聖}なる領域に先陣を切ってズカズカと入り込んで来たのは、{聖子}という名の女であった。

本名を蒲池法子というその女の子は、高校生のとき、一度は渡辺プロから声がかかるも、「ガニ股である」という理由で契約を却下される。しかし、サンミュージックの相澤秀禎社長が、歌手としての才能を買って契約、松田聖子の芸名を授けられる。

彼女のデビュー曲『裸足の季節』がメディアで話題になったのは、資生堂のおかげであった。新製品「エクボ洗顔フォーム」のCMソングとして使われたのである。けれど、CMには歌のみ出演で、広告モデルには山田由紀子が起用された。この辺の事情について、相澤社長やレコード会社のCBSソニー、担当の広告代理店だった博報堂などの関係者の証言を整理すると、

■聖子には商品名「エクボ」を連想させる「笑くぼ」がなく(山田由紀子にはある)、イモっぽく写り映えもしないので、出演オーディションには落ちた
■しかし、CM制作(フィルムプロダクション)は、サンミュージック企画が請けおっていた
■相澤社長は、もともと聖子のビジュアル面には期待しておらず、あくまで歌手として売り出そうとしていたため、曲のみ採用(むしろ、顔よりも歌声をスポンサーの力で大量露出することが狙い)

ということになる。その後、このCMシリーズで聖子は『風は秋色』『夏の扉』と3曲続けて採用されている。このとき、顔が出なかったゆえに、資生堂のイメージがつかなかったのが彼女には後々幸いした。

スターダムに上りつめた彼女は、84年春、今度はライバルのカネボウのキャンペーンに、CMタレントとしても登場する。曲は『Rock'n Rouge』(作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂 / 呉田はユーミンの筆名)。曲はもちろんオリコン1位を獲得するのだが、コスメ関係者を驚かせたのは、アイドル歌手が広告のメインビジュアルを担ったことであった。しかも、松田聖子は、それまでの化粧品広告で見られたような、目鼻立ちのハッキリしたモデルフェイス、女優フェイスではない。むしろ典型的な日本人の平坦な顔つきだ。かつての「渡辺プロ風」や「スター誕生風」のアイドル像を蹴やぶって這い上がって来た彼女は、化粧品CMの常識をも覆したのである。

松田聖子が広告のメインビジュアルに採用された背景には、化粧品マーケットの低年齢化もあった。ハイティーンやその予備群への訴求にはアイドル歌手がいちばん効果的だったからだ。とくにカネボウは、大人の女を志向する資生堂に対して、もう少し大衆的なブランド戦略をとった。そのイメージには聖子が最適だったのである。さらに聖子は同じ84年の秋にも『ピンクのモーツァルト』(作詞:松本隆、作曲:細野晴臣)でCMに登場する。同一タレントが春・秋の両方で起用されるのは異例のことだった。

資生堂とカネボウの二つを手玉にとった松田聖子、あな恐ろしや。いみじくも彼女がデビューした80年の秋に、カネボウはこんな歌をCMでオンエアしていた。

♪処女と少女に娼婦に淑女〜 How many いい顔〜

キャッチコピーは、「女の顔は一つじゃないよ」。歌は郷ひろみであった。


2017.02.01
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カタリベ
1965年生まれ
@0onos
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