“指をくわえる” とは「うらやましがりながら、手が出せない」状態を言う。私の経験では、指をくわえる対象品は大ていショーケースの中にあった。
小学生のころカメラ屋のショーケースの中にある「オリンパスの一眼レフ」を眺めていた。中学生のころはLAOXで「ソニーのウォークマン」を眺めていた。高校生になると下倉楽器の「フェンダーのギター」を眺めた。そして大学生ではオートバックスの「ケンウッドのカーステ」を眺めていた。
それまでのカーステと言えば、音量の他にはBassとTrebleのツマミしかなく、カセットを取り出すときも、勢いよく吐き出すように出てきたものだ。それが新型では、イコライザーのボタンが7つも8つも付いており、カセットも京都の舞妓さんのようにハンナリと出てくる。
車の後ろに置いたリアスピーカーは、ブレーキランプと連動していて、ブレーキを踏むと緑色がオレンジ色に変わる懲りようだった。貧乏学生であった私は、ウルトラマンの目がブレーキと連動しているヌイグルミぐらいしか手が出なかったが、金持ちの同級生はホンダのプレリュードにケンウッドの最新カーステを搭載していた。
その友人は実家の財力に物を言わせ、下宿のステレオコンポも最新の「パイオニア プライベートCD」であった。
ある日マージャンのメンツが足りずに、その友人の家に電話をすると「はい、ヒトシです。只今夜の街を彷徨っています。探さないでください」というメッセージが流れた。ご記憶の方も多いだろうが、その台詞は中森明菜がCMの中で使っていた台詞をモジったものである。
1987年、その最新式のステレオコンポには留守番電話機能が付いており、同CMのシリーズでも2話くらいが「留守電」に特化したCMだったような気がする。いずれにしても、そのふざけた留守電を入れた友人が居ないとマージャンが出来ないので、下宿を急襲した。案の定、居留守を使っていたのでボコボコにした後、予定通りにマージャン卓を囲った。
テレビを付けながらポンだのチーだと言っていると、テレビからトム・クルーズ主演の『トップ・ガン』の映画宣伝が流れてきた。ふざけた留守電を入れた友人が「あっ、みんな、後ろからジェット機の音がするけど避けなくて大丈夫だからね」と注意してきた。
要は「パイオニア プライベートCD」がサラウンドである事を自慢したかっただけである。もちろん再び居留守を使っていた友人はボコボコにされた。
「うらやましいけど、手は出す」我々であった。
2017.05.27
YouTube / gccx19
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