“退屈じゃないのは、オートバイだけなんだ。”
そんなロンサム・カウボーイなキャッチコピーの角川映画『彼のオートバイ 彼女の島』が封切られたのは1986年のこと。同時上映は角川春樹事務所創立10周年記念作品『キャバレー』。原田貴和子はその両方に出演していた。記念映画『キャバレー』の方は多くのゲスト出演の中のひとりとして、ピアニスト役で一瞬の出演だったが、『彼のオートバイ 彼女の島』はれっきとした主役である。
原田知世に美人の姉がいるらしいと知った情報元は何だったのか思いだせないが、ほどなく愛読していた角川書店の雑誌『バラエティ』でスクリーンデビューの報を知ることになる。実はその前にスペイン・イタリア・日本合作による真のデビュー作『アフガニスタン 地獄の日々』があるのだが、日本未公開作品(ビデオのみ発売)だったので、国内のデビュー作は『彼のオートバイ 彼女の島』ということになる。
4月26日に公開された映画に1ヶ月以上先行し、3月21日には主演の原田貴和子が自ら歌う主題歌「彼のオートバイ 彼女の島」がリリースされた。阿久悠作詞、佐藤隆作曲による大人っぽい歌。佐藤隆は前年のジュディ・オング「ひとひらの雪」、前々年の髙橋真梨子「桃色吐息」など、アダルト歌謡の傑作を生み出していただけに、映画と同名のこの主題歌もいわゆるアイドルポップスとは一線を画した楽曲になっている。以降はレコードを出しておらず、今のところは彼女が単独で出した唯一のレコードとして貴重な一枚なのだ。
片岡義男原作の角川映画といえば当然思い出されるのが、1981年に公開された『スローなブギにしてくれ』である。南佳孝が歌う気怠いテーマソングと、主演女優・浅野温子の小悪魔的な魅力が話題を呼んだヒット作で、藤田敏八監督のドライな演出が冴え渡る作品。角川映画世代の自分はたちまち影響を受けた。『マーマレードの朝』『ときには星の下で眠る』など、角川文庫の赤背の片岡作品を読み漁ってその現実離れしたスタイリッシュな世界に浸りながら大人の恋愛に憧れたものである。1984年には薬師丸ひろ子主演の『メイン・テーマ』、1985年には野村宏伸が声の主役を演じたアニメ『ボビーに首ったけ』と片岡作品は毎年映画化されていた。
薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子の角川三姉妹が出揃った後に登場した新人・原田貴和子はデビュー時すでに二十歳になっていたこともあり、アイドルを超越した高いハードルが設定された。判りやすいところでは、いきなりのヌードシーンがある。さすが女優を撮らせたら天下一品の大林宣彦だけあって、スタンドインでの妥協を許さない要求に、原田貴和子は見事に応えた。温泉での入浴シーンで堂々と裸体を披露して、共演の竹内力を思わずひるませる。ちなみに竹内もこれがデビュー作で、現在とはかなり異なり初々しく颯爽とした佇まいは必見である。その竹内の恋人役を渡辺典子が演じていて、これがまた実に美しいのだが、それよりもさらに強い印象を残す原田の存在感は凄い。弱冠二十歳にして妙に落ち着いた、不思議な色気が漂っていた。
薬師丸ひろ子のひとつ年下にあたる原田貴和子は、薬師丸とタメ年の自分にとっても年下にあたるのであるが、どうしても年上のお姉さんにしか見えないのは、やはり原田姉妹の姉というところにあるのだろう。実際、役の上でもお姉さんキャラが多く、その典型といえる一作に、妹・知世と共演した『私をスキーに連れてって』(87年)がある。沖田浩之の恋人役を演じた彼女は常に落ち着き払った振舞いで、高橋ひとみと共にグループを引っ張っていた。『恋する女たち』(86年)における斉藤由貴の姉役もまた然り。なんだか頼りになるのだ。
思えば芸能界の姉妹たちは、原田姉妹や広瀬アリス・すず姉妹のような “しっかりした姉” パターンと、石田ゆり子・ひかり姉妹や、森泉・星姉妹のような “おっとりした姉” パターンに分かれる様な気がする。
こまどり姉妹は双子なので一見同じように見えるが実は後者。安田祥子・由紀さおり姉妹もどちらかといえば後者だろうか。叶姉妹はどちらにも属さなそうだし、阿佐ヶ谷姉妹は間違いなく前者だろう。あ、叶姉妹と阿佐ヶ谷姉妹は本当の姉妹じゃなかった。こりゃまた失礼いたしました。と、こんなオチで良いのか?
とにかく原田貴和子は艶っぽい女優さんなのであります。
2019.03.19
YouTube / Obsolete goku
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