デビュー5年が経過した“花の82年組”は?
花の82年組。5年目に入る頃には、その人気にかなり差が出ていました。
『アイドル百花繚乱!花の82年組デビューシングル売上ランキングTOP10』に入っていた女性アイドル9名の、1986年後半のシングルレコードリリース日 / 売上枚数 / 最高順位は、オリコンチャートブックによりますと、
■ 中森明菜 / Fin(9月25日 / 31.8万枚 / 最高1位)
■ 小泉今日子 / 木枯しに抱かれて(11月19日 / 27.9万枚 / 最高3位)
■ 松本伊代 / サヨナラは私のために(12月16日 / 6.2万枚 / 最高18位)
■ 早見優 / Love Station(10月22日 / 4.2万枚 / 最高12位)
■ 石川秀美 / 危ないボディ・ビート(11月5日発売 / 2.2万枚 / 最高17位)
■ 堀ちえみ / 素敵な休日(10月21日 / 1.1万枚 / 最高29位)
■ 三田寛子 / 恋ごころ(10月22日 / 0.2万枚 / 最高99位)
■ 北原佐和子 発売終了
■ 伊藤さやか 発売終了
… と言った感じに。
小泉今日子―― キョンキョンまたはコイズミ―― が生き残ったのは、彼女が少しずつ自身をアップデートさせていった結果だと思います。1984年「まっ赤な女の子」の発売前ショートカットになり、“かわいい” から “かっこいい” に自己のイメージを変化させることで女性ファンを獲得。1985年「なんてったってアイドル」で「♪清く正しく美しく」「♪アイドルはやめられない」と歌いアイドルを演じる一方、自身の地を少しずつ出し脱アイドル方向に進むことで好感度を上げていったのではないかと思います。
小泉今日子主演映画「ボクの女に手を出すな」監督は中原俊
そんな中、本人主演映画のプロジェクトが動き出していました。キネマ旬報1986年12月上・下旬号のインタビューでの意気込みは、
「この前の『生徒諸君!』の時は周りから映画やるよ!とか言われて、ああそうという気持ちでやったんですけど、今回は私たちの方から映画やりたいねえって、春頃からスタッフと一緒に色々な人とお逢いしたり話しきいたりしてやっとできた企画なんです。だからこっちの気持ちもずいぶん違う」
「映画用に書いてくれた企画だし、監督さんも若い新しい人だし、それで面白いのが出来るんじゃないかと」
「ビデオで何度も見れる映画に行きたいですね。不良とかがダサく見えないような映画に。不良って一、二年たつとダサくなるの多いから。オジサンが作った若者のように、若い人がバカみたく見えない映画にしたいです」
イメージが大切なぶりっこアイドルなら触れないであろう不良描写へのこだわり。実はやんちゃな地が出てしまったのか!?
監督に起用されたのは日活ロマンポルノ『犯され志願』でデビューした中原俊。監督がコイズミをイメージして構想したプロットを、1980年代の日活ロマンポルノを支えた脚本家・斎藤博と共に脚本化。オードリー・ヘプバーン『シャレード』のような、女の子が巻き込まれ成長するストーリーを目指していたようですが、完成した『ボクの女に手を出すな』は、
世間がアタシを “不良” って呼ぶだけさ。スーパー・アイドル=コイズミが、ツッパリ娘に扮して、初のサスペンス映画に堂々の挑戦!孤児院育ちのひとみは、世間の冷たい風もなんのその、心機一転とばかりに大金持ちのお坊ちゃんの家庭教師を始めたが…。誘拐事件に始まって、果ては殺人事件にまで巻き込まれる、アッブな~い子連れ逃避行の始まり、始まり!! KYON2が恋心を抱く相手役は、ロックシンガーとして、アクターとして、そのシブーイ魅力で人気急上昇中の石橋凌。また、コイズミ・ファッションのあでやかな着こなしにも、ご注目!
―― 公式ホームページのストーリーにしてはごちゃごちゃしていますが、実際そういう作品です。今回CS放送時に録画してあった本作を、1986年12月梅田ピカデリー2で鑑賞して以来再見。当時『ライオンのいただきます』で下ネタトークでブレイクしていたおばさま・塩沢ときや、若かりし日のウッチャンナンチャン、更に挿入歌には事務所の後輩・長山洋子「ヴィーナス」と旬なものを盛り込んだ印象。監督が狙っていた洒落た感じには残念ながらなっていないかと。しかしながら、コイズミのファッションや、1億円の保険をかけたアクションシーンと言ったファンへの見どころは満載ではないかと。
主題歌「木枯しに抱かれて」作詞・作曲、高見沢俊彦、編曲:井上鑑
で、本作の主題歌が「木枯しに抱かれて」。前作『生徒諸君!』の主題歌「The Stardust Memory」に続き作詞・作曲は高見沢俊彦。当時の担当ディレクター田村充義氏によれば、
「高見沢さんは超多忙でなかなかお会いできなかったんですけど、アルフィーがメインスタジオにしていた新大久保のフリーダムスタジオまで行って、「また映画の主題歌なんですけど~」てな感じで、お願いしました。簡単に映画のストーリーをお伝えしただけで、細かい注文は一切していません」
(『週刊現代』2020年1月11日・18日合併号)
編曲は井上鑑。
「編曲に関しても、好き勝手にやらせていただきました(笑)」
「デモ(テープ)を聴いたときは、高見沢さんの作るメロディーの美しさに、「素朴な良い曲」だと感じました。それでふと、当時イギリスでヒットしていた民族音楽調の曲を思いついた。その曲の雰囲気が高見沢さんから渡された曲にぴったりだったんです。デモの段階で既にタイトルも詞もあったので、そこからスコットランドの心地よい空気感を連想し、間奏にバグパイプ風の音を取り入れたりしたのです」
(『週刊現代』2020年1月11日・18日合併号)
完成した楽曲、詞は「♪せつない片想い あなたは気づかない」「♪恋人達はいつか 心傷つくたび 愛する意味を知る 涙… やさしく」と直球の失恋ソング。しかしながら曲は、鼓笛隊のようなマーチングドラムがイントロから続き、間奏はバグパイプ風の音と変化球。そもそも映画本編に恋愛要素は薄く、ロケ地も東京~下田… と、スコットランド要素もないため、内容と合っているのかと言えばそうでもないかと(まぁアイドル映画主題歌 “あるある” ですが…)。
3週連続ザ・ベストテン第1位、そして紅白歌合戦出場!
こうして1986年12月13日東映洋画系で劇場公開された『ボクの女に手を出すな』。薬師丸ひろ子『紳士同盟』と同時上映され配給収入9.5億円。薬師丸の前作『野蛮人のように』(同時上映『ビー・バップ・ハイスクール』)16億円+『生徒諸君!』7億円を期待されていましたが、残念ながら下回る結果に。
ちなみに同時期に東宝邦画系で公開された斉藤由貴主演『恋する女たち』(同時上映『タッチ2 さよならの贈り物』)も配給収入9.5億円という結果(参考:
『おすすめランキング! 80年代「お正月アイドル映画」ベストテン』)で、この正月はトム・クルーズの『トップガン』の39億円に持っていかれた。
一方で主題歌「木枯しに抱かれて」の方は1986年12月1日付オリコンシングルチャート初登場3位、その後11週連続トップ10内にとどまり、『ザ・ベストテン』でも1986年12月4日初登場第4位。じわじわと上昇し、翌年1月15日に第1位。3週連続第1位で、トータル13週トップ10内に。発売から1年後の『第38回NHK紅白歌合戦』にこの曲で出場しました。
「木枯しに抱かれて」でキョンキョンは、歌でも女性ファンの支持を獲得。この女性に刺さる路線は90年代「あなたに会えてよかった」のミリオンヒットへの礎になったのかもしれません。コイズミのアップデートはまだまだ続いていくのでありました。
40周年☆小泉今日子!
▶ 小泉今日子のコラム一覧はこちら!
2022.11.19