8月12日

田原俊彦の転換点「さらば‥夏」不安と安堵でファンの情緒をかき乱す名曲!

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田原俊彦のそれまでのシングルと「さらば‥夏」の違い


田原俊彦さんの曲といえば、「ハッとして!Good」「NINJIN娘」のようなポップな曲や、「哀愁でいと」「抱きしめてTONIGHT」のようなダンスナンバー、いずれもアップテンポのリズミカルな曲が思い浮かぶという人も多いでしょう。

事実、デビューしてから14作目まで、シングルはすべてポップでリズミカルな曲調。作詞は三浦徳子さんや小林和子さん、作曲は筒美京平さんや網倉和也さん、また作詞曲どちらも手がけた宮下智さんなどによって、田原俊彦さんの曲は作られてきました。いずれもその時代のポップスを牽引してきた方々ばかりです。

では、今回紹介する「さらば‥夏」がどんな曲かというと、アップテンポ路線をひた走ってきた田原俊彦さんが、シングル楽曲で初めて出した「バラード」です。1983年8月12日発売、作詞は初起用の岩谷時子さん、作曲はポール・アンカさんとボビー・ゴールズボロさんです。

1980年6月にデビューしてから、3周年を迎えて初めてのシングルである本作。曲調を変えて、作詞・作曲家も入れ替えて臨んでいるところを見るに、まるで「これをターニングポイントにしよう」と決め打ちで制作したのでは、とスタッフ側の思惑が見えてくるような気もします。

「さらば‥夏」はサウンドも歌詞も振り付けも寂しげ


その「さらば‥夏」はタイトルの通り、夏の終わりにともなう別れを惜しむ曲。しかし、それにしても「お別れの口づけをしようね」「海辺にはもう誰もいないよ」「ガラスの花を恋の形見に」など、さみしさの盛り合わせのようなフレーズを畳みかけてきます。

振り付けだってそれまでのような激しいものではなく、多少左右に揺れる程度。あんなにスウィートでポップだったトシちゃんはどこ行っちゃったの!? と思ってしまいそうなその時、サビに入る前に明るく転調します!

 小指で涙ふいて
 ほほえむ君が好きさ

歌詞もメロディーも朗らかになって、テンポもアップ! よかった、私の知ってるトシちゃんだ!

ちなみにこのサビの部分について、『ザ・ベストテン』で第1位を獲得した際にポール・アンカさん本人から、「僕は “♪小指で涙~ふいて” のフレーズが好きだし、トシの唄い方もよかったよ」というようなメッセージが贈られています。たしかに「♪ふいて」の「て」の部分のクセが、これぞ田原俊彦という歌い方のエッセンスが詰まっています。

「二度とは会えないだろう 移ろいゆく人生」に田原俊彦は何を思ったか


しかし、サビで「トシちゃんが帰ってきた!」と思ったのもつかの間。直後にこの歌のキラーワードとも思われる最も切ないフレーズが入ります。

 二度とは会えないだろう
 移ろいゆく人生

考えてみればこの時、田原俊彦さんは22歳。大学生なら、社会人として旅立っていくその狭間の年齢です。デビューから丸3年を迎えた田原さん自身も「さらば‥夏」リリースの16日後である8月28日に、たのきんトリオが解散し、それぞれの道を歩むことを歌番組で明らかにしていました。まさに田原俊彦さんの人生も、芸能界という渦に揉まれながら “移ろいゆく” その真っ最中だったのです。

「さらば‥夏」がもたらした言いようのない不安


後追いで田原俊彦さんのことを好きになった私は、このときのことを経験できませんでしたが、もしこの当時田原俊彦さんを追っかけていたらと思うと、不安で仕方がなかったのではないでしょうか。

たった2年前には「キミに決定!」でステージ上を飛び回り、1年前には「NINJIN娘」でニンジンや大根について歌っていたはずなのに、今年の夏はどうしちゃったの? と。ただでさえアイドルは輝きと引き換えに脆さを内包する危うい存在であるにも関わらず、さらに急に遠い世界に行ってしまうことを示唆するようなタイミングのたのきん解散発表。曲の最後では背中を向けて歩きだすという楽曲演出もあり。想像しただけで不安が広がるのではないでしょうか。

その後の田原俊彦の活躍が不安を払拭


そんな不安を払拭するためにも、「さらば‥夏」以降の実際の田原俊彦さんについて考えてみましょう。この曲のあと、阿久悠さんや吉田美奈子さん、松任谷由実さんなどこれまでにない作家陣が起用されていくことを考えると、確かにここがひとつのターニングポイントにはなっています。ほか、異色の楽曲「夏ざかりほの字組」のヒットや「It’s BAD」の現代から見る前衛性、そして「抱きしめてTONIGHT」との出会いなど…… 確かに「さらば‥夏」で “転換点” は迎えているけれども、これは第2期田原俊彦(という括りがあるのは謎ですが)を楽しむための布石だったと捉えてもよいのではないでしょうか。

さらにいえば現在、2021年の田原俊彦さんはというと、デビューから40年以上経っても毎年新曲を出し、ツアーをしてくれて、ファンのことを「ファミリー」と呼び何より気にかけてくれています。確かな事実として、いまも輝き続ける田原俊彦さんがいます。

田原俊彦さんの中の “田原俊彦” は40年の時を経て崩れるどころか、その足元を支えるファミリーも一緒に強固になっていっているのです。その幸せを噛みしめると、今度はどうでしょうか、言いようのない安心感が胸に広がっていくのです。

そういうわけで「さらば‥夏」を聴くと、当時経験できなかった変化への不安と、今安心してファンでいられるんだという感情が同時に襲ってきて、1983年と2021年を同時に追体験しているような未知の興奮をおぼえます。こんな楽しみ方をしている人はあまりいないかもしれませんが、「さらば‥夏」は後追いで田原俊彦さんのファンになった私にとって、不安と安堵を繰り返して今の幸せを確認することで情緒を一周できる、すばらしい歌なのです。

オトナの田原俊彦「さらば‥夏」も最高!


そんな “今の田原俊彦さん” による「さらば‥夏」も最高のひとことです。歌唱力がさらにアップしていることはもちろん、完成されたバラードとして若い頃とは違う魅力があります。

特にキーフレーズである「移ろいゆく人生」は、1983年の歌唱では、まだその渦の真っ只中にいたであろう田原俊彦さんがそこから一歩踏み出そうとしているように聴こえます。一方、オトナになった今の田原さんの歌唱には「移ろいゆく人生」にこれまでの過去をもとにした実感がこもっているように聴こえます。

田原俊彦さんの人生、表に見えるものだけでも様々な渦の中で揉まれるように過ごされてきたように見えますが、そんな数々の出来事をふと優しく振り返るような哀愁があって、すべてを包み込んでくれる安息があります。皆さんもぜひ還暦を迎えた田原俊彦さんの「移ろいゆく人生」を思いながら、どちらの「さらば‥夏」もお聴きになってみてください。

特集 田原俊彦 No.1の軌跡



2021.08.20
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カタリベ
1992年生まれ
さにー
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