10月9日は、ジョン・レノンとショーン・レノンの誕生日
今日10月9日は、ジョン・レノンが存命だったら80歳の誕生日である。40歳でジョンが亡くなってからもう40年が経とうとしている。
It was 40 years ago today.
40年前の今日、ニューヨークのセントラルパーク上空に航空機が描いたこんなメッセージが現れた。
HAPPY BIRTHDAY JOHN + SEAN LOVE YOKO
ヨーコ・オノによるメッセージ。これがジョン最後の誕生日となった。そしてジョンとヨーコの間に生まれたショーン・レノンもこの日5歳の誕生日を迎えていた。40年後の今日、ショーンは45歳となり、亡くなったお父さんよりも5歳年上になった。
ジョン・レノン逝去から40年の足跡
1940年に生まれ1980年に逝去したこともあり、ジョン・レノンについては逝去後10年毎に大きな動きがあった。
1990年は生誕50周年、逝去後10年で、英日でのトリビュート・コンサート、東京での展覧会、4枚組ベスト盤『LENNON』リリース等色々な動きがあった。
そんな中ヨーコ・オノが佐野元春、細野晴臣等と組み『HAPPY BIRTHDAY,JOHN』というEPをリリースした。この中で15歳のショーン・レノンはジョンの「ディア・プルーデンス」をカヴァーしている。このトラックには細野も共同プロデュース並びにベース等で参加している。
そして12月に東京ドームで2日間行われたトリビュート・コンサートでショーンはジョンの「悲しみをぶっ飛ばせ(You've Got to Hide Your Love Away)」を歌っている。ショーンが単独アーティストとしてデビューを果たすのはこれから8年後の1998年であった。
2000年、ヨーコがアルバムのリミックスを開始
2000年にはヨーコがジョンのアルバムのリミックスを始めた。このプロジェクトは2005年まで続き『決定盤ジョン・レノン~ワーキング・クラス・ヒーロー』というベストアルバムに結実する。
しかし2010年には早くもオリジナルミックスに戻ったリマスター盤がリリースされる。そのリマスター盤を集めた『ジョン・レノンBOX』にはショーンもヨーコ、異母兄ジュリアンと共に文を寄せた。そしてジョン生前最後のアルバム『ダブル・ファンタジー』(1980年)の音数を減らしヴォーカルがよく聴こえるようリミックスした『ダブル・ファンタジー / ストリップド・ダウン』では、篠山紀信の有名なジャケット写真をショーンがイラストにしたものがジャケットを飾った。ジョンの作品のリイッシューにショーンが名を連ねたのはこれが初めてだった。
この年には『ザ・ヒッツ~パワー・トゥ・ザ・ピープル』、4枚組の『ギミ・サム・トゥルース』という2種類のベスト盤もリリースされたが、率直に言って選曲、ジャケット共にあまり話題には上らなかった。
2020年、ショーンが手掛けた新たなベスト盤「ギミ・サム・トゥルース.」
そして今年2020年、ジョン・レノンの新たなベスト盤『ギミ・サム・トゥルース.』がCD2枚組と1枚というサイズで今日リリースされた。10年前の4枚組ベストと同じ名前だがよく見ると今回は “.”(ピリオド)が付いている。
この新たなベスト盤のエグゼクティブ・プロデューサーはヨーコ・オノで、プロデューサーはショーン・レノン。ついにショーンがジョンの音源にタッチすることになったのだ。
早速その手腕が発揮されたのか、ジャケットのヴィジュアル、ピリオドの付いたタイトルからして今回は斬新だ。手がけたのはジョナサン・バーンブルック。デヴィッド・ボウイの『ヒーザン』(2002年)以降、遺作の『★(ブラックスター)』(2016年)まで4枚のアルバムのデザインを手がけ、後者でグラミー賞を受賞。ボウイの回顧展『DAVID BOWIE is』でもコーナーのデザインを担当するなど、晩年のボウイから厚い信頼を得ていたデザイナーである。
ショーンは父ジョンの逝去後、実はボウイに可愛がられていたことを、ボウイが亡くなった後明らかにしている。ボウイゆかりのデザイナー起用にはこの背景があったのかもしれない。
出尽くした感のあるジョンのベストだけど今回はジャケ買いか、などと思っていたがとんでもない、今回はその内容にも傾聴の価値があったのである
ジョンの遺産に真正面から向き合ったショーン・レノン
今回のベスト盤でショーンはついにジョンの音源をリミックスした。しかし、最初に公開されたトラック「インスタント・カーマ」(1970年)では、残念ながらオリジナルとの差異はあまり無い。
さすがに遠慮しているのかと思いきや、次に公開された「マインド・ゲームス」(1973年)は結構オリジナルの音を整理し、ジョンのレゲエへの傾倒をつまびらかにするリミックスがなされ、一転、攻めの姿勢が感じられた。
そして通して聴いてみると、曲の制作時期によってアプローチが異なるが、ショーンがジョンの遺産に真正面から向き合っている姿勢が感じ取られた。
ジョンとヨーコが共に活動していたソロ初期の曲にはそれほど大きな変化は無い。名曲「イマジン」もちょっと聴いただけではリミックスとは分からない。
しかし中期、ジョンとヨーコの間にすきま風が吹き、ついには別居に踏み切った時期の曲になるとショーンは結構大胆にリミックスを施す。この時期のジョンは音数の多いオーヴァープロデュースと言われる。これを整理しようというショーンの意思が感じられる。賛否は分かれるだろうが、CD2枚組の「アンジェラ」から僕は結構心動かされ、鳥肌が立ったり、目頭が熱くなったりした。
そしてCD2枚組の「スターティング・オーヴァー」からの後期、80年代。ヨーコもリミックスをしなかった『ダブル・ファンタジー』の曲にも果敢にリミックスを施した。完成度の高い名曲陣に手を加えたことについては世間の評価を待ちたいが、別稿
(ポールが最も好きなジョン・レノンの曲「ビューティフル・ボーイ」 参照)でも書いた通り、ショーンが聴くのが辛いと言っていた「ビューティフル・ボーイ」にまで手を加えていることにはやはり胸が締め付けられる思いがした。
ジョン逝去後の最後のアルバム『ミルク・アンド・ハニー』(1984年)の曲も初めてリミックスされた。この中では、やはり別稿
(奇跡の “ビートルズ新曲” 35年越しの「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」 参照)で書いた、昨年のリンゴ・スターによるカヴァーで完結したと思われた未完の曲「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」の新たなヴァージョンが作られていることが目を引く。
冒頭は恐らく新たなデモテープで、途中からジョージ・マーティンのオーケストラヴァージョンになるという、かなりチャレンジングな構成なのだ。
ジョンとショーンの絆、キャリアを積んだ45歳だからこそ!
ショーンが今回、どういう経緯で初めてリミックスを手掛けたのかは、まだ分からない。しかし、一人のアーティストとして、恐らくはヨーコよりも大胆に、ジョンの作品を再構築している。
“Ultimate Mix” ―― 究極のミックスと銘打たれているのは、いくら何でも重過ぎると思うし、その全てにおいてオリジナルを凌駕しているとはさすがに言えない。賛否両論は必至だろう。
しかしながら、ジョン・レノンの曲について改めてあれこれと思索を巡らせてくれるベストアルバムを作ってくれたことに、僕は素直に敬意を払いたい。ジョン80回めの誕生日にこんなものが聴けるとは思わなかった。これはやはり数十年のキャリアを積んだ45歳のショーン・レノンだからこそなし得たのであろう。
今日から東京・六本木で『ダブル・ファンタジー ジョン アンド ヨーコ』展も始まる。一昨年から昨年までリヴァプールで開かれていた展覧会で、僕は昨年リヴァプールで観ているのだが、一番印象に残ったのが「ウォッチング・ザ・ホイールズ」のMV冒頭に登場する、日本初公開の、幼いショーンをジョンが抱いていた抱っこひもであった。
ジョンとショーンの絆が最も感じられる展示。『ギミ・サム・トゥルース.』を聴いた後だとまた見え方が異なってくるに違いない。
2020.10.09