デヴィッド・ボウイの1980年の全英No.1ヒット「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」のミュージック・ヴィデオを観たのは、1983年の「レッツ・ダンス」大ヒットの前後どっちだっただろう。いずれにせよそのインパクトは「レッツ・ダンス」を遥かに凌ぎ、’80年代のボウイ最強(最恐?!)MVと言っても過言ではなかった。
印象的な露光過多の画質はソラリゼーションと呼ばれる効果であることを、僕はテレビ業界に入ったお蔭で後に知った。しかしそのソラリ以上に内容は鮮烈だった。
まずボウイがしっかりとメイクも施してピエロに扮し歌い始める。続いて精神病院の隔離病棟に収容された男の役も演じているが、やはりピエロのインパクトには及ばない。サビでそのピエロが、3人の黒いドレスの女性と1人のバレリーナ風の衣装の女性と共に、後方にブルドーザーを従えこちらに向かってくるシーンは一度観たら決して忘れられない。しかも左右端の黒いドレスの女性2人は交互にかがみ地面に謎のタッチ。いったい何なんだ、これは…
今回英語版Wikipediaで調べたら、ブルドーザーは “迫り来る暴力” の象徴で、女性2人は自分のドレスがブルドーザーに引っかかり “暴力に捕えられ” ない様に、地に手を伸ばしドレスを引いていたという解説があり一応得心したのだが、だからと言ってこのシーンの強烈な違和感が弱まることは全く無い。
2番に入るとボウイは新たな人物に扮する。宇宙服を着用し、やはり病室らしき部屋で世話を受けているその人物はトム少佐。ボウイの1969年の出世作「スペース・オディティ」の主人公である。その時は宇宙空間で “覚醒” し地球に戻らないことを選んだヒーローだったトム少佐が、「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」では「トム少佐はジャンキーだった」と言われてしまう。これまた呆気に取られるしかなかった。
完全に後付けじゃないか。全英No.1にも輝いた「スペース・オディティ」を愛したファンに対する、これは裏切りじゃないか。未だ「スペース・オディティ」を聴いたことが無かった僕でも思わず憤ってしまった程だった。
それから30余年。“絶えず変化する” ボウイにとってはこの “変節” も必然だったと今となっては納得出来る。ボウイの変化は、それまで築いていた人間関係を無とすることも厭わない程の非情な一面を有していた。
‘70年代後半ベルリンに居を移し制作したベルリン三部作で公私共々立ち直ったボウイが’80年代に向けて上げた狼煙(のろし)が正に「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」であった。あまりに強烈なMVには当時史上最高の製作費250万ポンドがかけられ、未だに高額MVの一本に名を連ねているらしい。そして曲もあのイントロから流れるピアノとシンセサイザー(?)のリフを始めとして、コマーシャルとは言えないかもしれないがキャッチーではあった。全英1位、全米101位という順位が全てを物語っているのかもしれない。
『DAVID BOWIE is』ではあのピエロの衣装を始めとして、ボウイが描いたMVの絵コンテ、同じくボウイが描いたシングルのジャケットのデザイン画、直筆歌詞と「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」関連の展示が数多くある。この曲のヴィジュアル面でもボウイがいかに主導権を持っていたかがよく分かると同時に、’80年代を迎えこの曲をリリースするにあたってのボウイの並々ならぬ意欲も伝わってくる。是非そのボウイの息吹を感じ取って頂きたい。
因みにピエロの衣装は「ブルー・ジーン」の衣装の後方、しかし少し高い位置にある。その絶妙な位置関係も何だか微笑ましい。
2017.02.25
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