2月1日

矢野顕子と大滝詠一の因果な関係【資生堂 vs カネボウ CMソング戦争】

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photo:@0onos  

CM合戦の裏に潜む矢野顕子と大瀧詠一の不思議な縁


資生堂とカネボウのCM合戦には、因縁めいた話も少なくない。きょうはそんな1981年の出来事、春のカネボウCM曲・矢野顕子『春咲小紅』と、秋の資生堂CM曲・大滝詠一(ナイアガラ・トライアングル名義)『A面で恋をして』について。「春と秋、別々じゃないか、なぜ季節ちがいの二曲を?」と思ったあなた! 実はこの二曲、不思議な縁でつながっているのだ。

ことの始まりは、大滝詠一がカネボウとのCMタイアップをご破算にした一件である。当時、大滝の知名度は一般にはまだまだだった。そこで『君は天然色』のシングル盤発売にあたり、レコード会社は、カネボウの春のCMタイアップを取り付けて来た。だが、その条件が、既に出来上がっている曲の歌詞を全面的に差し替えて(要は商品名を入れて)ボーカルを録音し直す、というものだった。

このシリーズで見てきたように、確かにCMソングは商品名を歌い込むのだが、それは曲を構想する段階でなければ、タイミングとしては遅すぎる。計算しつくした上で完成した作品の歌詞を、後から替え歌にするのは、大滝にとって受け容れ難いことだった。これは、カネボウが悪いというよりも、間に入った広告代理店やレコード会社の失策だろう。

広告の天才・糸井重里が作詞を手掛けた「春咲小紅」


大滝と物別れに終わったカネボウは、別の曲とタイアップを決める。それが、2/1に発売された春のCMソング・矢野顕子の『春咲小紅』である。作詞は『TOKIO』(沢田研二)で一躍注目を集めていた新進気鋭のコピーライター・糸井重里。商品の{ミニ口紅}に引っ掛けて、歌詞のサビに「みに・みに・見に来てね」というフレーズを挟むあたりは、さすが広告の天才・糸井である。

作曲は矢野本人だが、編曲はYMO。彼女はYMOのワールドツアーのメンバーであり、すでに坂本龍一との間に娘もいた。そんな訳で、汎アジア圏をイメージしたテクノっぽい音作りは、ほとんどYMOサウンドといってよい。発売後たちまちチャート上位にランクイン、最高週間5位を記録した。

カネボウの呪い?「A面で恋をして」オンエアから10日あまりで放送中止


さて、大滝の方は、そんなゴタゴタ後の3月に『君は天然色』のシングル盤リリース。さらに数ヶ月経って、この曲はロート製薬のCMに採用された。私も夏休みにロートのCMを見て「ずいぶん後追いでCMに使うんだなぁ、しかも歌詞をそのまんまなぞった映像で、ちょっとカラオケみたいじゃんか!」と思った記憶がある。

同じ頃、今度は資生堂からCMソングの声が大滝にかかる。資生堂側の提示したお題は『A面で恋をして』。土屋耕一のコピーである。それを受けて松本隆が詞を書いた。CDが82年から量産されることを考えると、まさにギリギリのタイミングで使えた表現ともいえる。大滝は、フィル・スペクターから影響を受けた典型的なアメリカンポップスのサウンドに曲を仕上げた。

ところが… である。『A面で恋をして』のCMは、オンエアされて、わずか10日あまりで放送中止になる。CM出演者の元タカラヅカ女優と自民党の大物代議士との間に不倫スキャンダルが発生したためだ。スッパ抜いたのは、この頃からなんだな、週刊文春である。これが広告業界の都市伝説「カネボウの呪い」というやつだ。皆さんも、このCMあんまり記憶にないでしょ?

巡る因果は、糸車。大滝がカネボウの仕事を断らなければ、矢野の曲がシングルチャートの上位に来ることもなかっただろうし、半年後に大滝が資生堂のCM曲を歌うこともなかっただろう。

(因縁の対決は、まだまだつづく)


※2016年11月30日に掲載された記事をアップデート


2021.02.01
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1965年生まれ
マイケル上大岡
四季ごとの風物詩だった化粧品のキャンペーンソングと航空会社のキャンペーンソング。数々の名曲とともにキャンペーン・キャラクターが生まれましたよね。今ってタレントありきのCMになっている感じで、CMからヒットソングが生まれませんよね?味わいも季節感もなくなってます。
2016/12/02 11:06
5
返信
カタリベ
1965年生まれ
@0onos
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