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生きる力を届けてくれるとっておきの名曲、矢野顕子「ラーメンたべたい」
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photo:akikoyano.com  

けっして冬曲としてつくられたわけではないと思うのだが、冬になると聴きたくなる曲がある。僕にとって、矢野顕子の「ラーメンたべたい」もそのなかの一曲だ。

「ラーメン食べたい」は、もともと1984年6月に発表されたアルバム『オーエス オーエス』に収録されていた曲で、同年8月にシングルカットされている。だから、リリースタイミングとしては夏の曲なのだけれど、冬に聴きたくなるのは、やっぱりこの曲の題材であるラーメンのせいなんだろう。

とにかくこの曲、聴いていると無性にラーメンが食べたくなる。

この食欲喚起力だけでも、並みの曲ではない。この曲のそんな魔力(?)に着目したのか、「ラーメンたべたい」は実際にラーメンの CM曲として使われたこともある。

矢野顕子は日本の音楽シーンにとっては “異色の人” だ。

デビューアルバム『JAPANESE GIRL』(1976年)がそもそも異色の作品だった。ウエストコーストのトッププレイヤーを従えてロサンゼルスでレコーディングされたことが謳い文句になっていたが、聴いてみるとこのアルバムには、民謡をはじめとする日本の土着的音楽性が色濃く漂っていた。

正直に言えば、最初はその世界観に違和感があった。けれどこのサウンドは、矢野顕子がロスのトップミュージシャンたちに臆せず、自分の音楽性を貫いたからこそ生まれた個性なんだということは、彼女の活動を見ているうちにわかった。

矢野顕子のキーボード奏者としての技量が並じゃないことは、彼女が YMO のサポートプレイヤーを勤めた事実だけでもわかる。しかし、彼女のすごさの本質は、卓越したキーボード奏者であると同時に、個性あふれるシンガーソングライターでもあること。しかも、その両面を絶妙なバランスで融合させて、アヴァンギャルドでありながら、リスナーを惹きつけてやまない音楽を、きわめて高いクオリティでつくり続けている。まさに唯一無二の人なのだ。

矢野顕子は、普通であれば、これは歌にはならないだろうというテーマに積極果敢に取り組んで名曲にしてしまう。ジャイアンツの選手の名前をタイトルにした「行け 柳田」(1977年)、子供時代の幸せな時間を思い出させる「ごはんができたよ」(1980年)をはじめ、矢野顕子でなければ曲として成立させられないようなレパートリーがたくさんある。「ラーメンたべたい」も、そんな矢野顕子マジックと呼ぶべき曲のひとつだ。

なにより「ラーメンたべたい」という歌い出しが印象的だ。うろ覚えだけれど、「言葉がメロディをもってくる」と矢野顕子が語っていたのをどこかで読んだ気がするが、この歌い出しは本当に自然で、彼女の本心が思わず口を突いて出てきたように聴こえる。だから、この部分だけで、「ああ本当に食べたいんだなあ」と感じる。

そして続くフレーズで、ちょっとドキッとする。これまでにも荒井由実の「CHINESE SOUP(チャイニーズ・スープ)」のように食べ物を歌った曲はあったけれど、そのほとんどは恋人のために料理をするとか誰かと一緒に食べるというシチュエーションだった。けれど、「ラーメンたべたい」の主人公はひとりでたべたいと宣言しているのだ。

この部分で、この曲がただのラブソングではないことがわかる。さらに主人公は、ラーメンにはチャーシューもなるともいらないけれど、ネギとにんにくはたっぷり入れて欲しいとリクエストする。主人公の女性がっかりした自分をもっている人だということが伝わってくるフレーズだ。周りの人たちには目もくれずに、自分が注文したラーメンを責任を持って食べる主人公の姿に、僕は不覚にも感動してしまう。

「ラーメンたべたい」は、わき目も振らずにひとりでラーメンを食べているというごく身近なシーンの向うに、孤独を覚悟しながらも自分を曲げず生きていこうとする女性の強い意志が浮かび上がってくる歌だ。

けれど、この歌がけっして男を拒否しているわけではないことが、サビの「男もつらいけど 女もつらいのよ」というフレーズから伝わってくる。男である僕としては、この部分もグッとくるポイントだ。ああ、この人は人が生きる辛さをわかっているんだと思う。そして主人公の覚悟に共感してしまう――。

「ラーメンたべたい」を聴いていると、ラーメンが食べたくなると同時に、人がいとおしく感じられてくる。それは、この曲が生きる力をくれているということでもあるのだ。

これほど強い力で人の心を動かしてくれるエモーショナルな曲は、日本の音楽シーン全体を見ても、けっして多くはないと思う。時代の王道ではない異色の曲かもしれない。しかし「ラーメン食べたい」は80年代に生まれた最高の名曲のひとつであるということは断言できる。

2019.01.05
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