感動の配信ライブ！サザンオールスターズ「みんなのうた」と特別な約束

ライヴでしか歌われない特別な曲「約束」

サザンオールスターズには、ファンの間で「約束」と呼ばれている曲がある。正式なタイトルがあるのかどうかは、わからない。未だレコーディングはされておらず、ライヴでしか歌われない特別な曲だ。

初めて演奏されたのは、2008年８月に開催されたデビュー30周年ライヴ『真夏の大感謝祭』においてで、「夕方 HOLD ON ME」の前奏として歌われた。

　あの日から何度目の夏が来ただろう
　出逢ったり別れたり繰り返し
　美しい思い出も大切だけど
　人生はこれからを夢見ることさ

まだ曲と呼ぶには短かったが、当時サザンがこのライヴを最後に無期限活動休止を発表していたこともあり、ファンへのメッセージとも受け取れる歌詞が、メロディの美しさと相まって、多くの人の胸を打つこととなった。

デビュー40周年ライヴでは「みんなのうた」の前奏として

「約束」は、その後もライヴで度々演奏され、新たなメロディーと歌詞を付け加えながら、次第に曲としての体裁をもつようになっていった。2018年６月のデビュー40周年ライヴ『ちょっとエッチなラララのおじさん』では、このように歌われている。

　あの日から何度目の夏が来ただろう
　出逢ったり別れたり繰り返し
　懐かしい友の顔 忘れ得ぬ姿
　ここにいる幸せを噛みしめて
　命の重さ見つめて
　遠い悲しみの果てに
　涙の数だけ人は
　強くなれるのかもしれない
　美しい思い出も大切だけど
　人生はこれからを夢見ることさ
　愛する人よ

この時は「みんなのうた」の前奏として歌われている。そして「みんなのうた」は、サザンのちょうどデビュー10周年となる1988年６月25日にリリースされたシングルだった。

デビュー10周年、２年半の活動休止を経てサザン復活！

サザンオールスターズの長いキャリアを振り返る時、1978年のデビューからアルバム『KAMAKURA』をリリースした1985年までを第一期と考えることができる。デビュー当時こそコミックバンド的な扱いもされたが、桑田佳祐の比類なきメロディーメイカーとしての才能が遺憾なく発揮され、日本を代表する人気バンドへと駆け上がっていった時期だ。そして、『KAMAKURA』のツアー終了後、サザンは１年限定の活動休止期間に入り、メンバーはそれぞれソロ活動を開始する。

1986年、桑田佳祐はKUWATA BANDとしていくつもヒットを飛ばした。しかし、1987年になりバンドの休止期間が終わっても、サザンが活動を再開する気配はなかった。それどころか、桑田佳祐と原由子がそれぞれシングルを続けてリリースするなど、メンバーのソロ活動は継続して行われていたのだ。こうしたバンドとして先の見えない状況と、約２年半に及んだ活動休止期間が、サザンに対するある種の飢餓感を生んだのかもしれない。

だから、待望の新曲となった「みんなのうた」と、ライヴツアー『真夏の夜の夢 大復活祭』が発表された時のことはよく覚えている。それはファンベースのお祝いムードの域を超えて、どこか社会的なニュースのように扱われたのだ。テレビ、ラジオ、音楽雑誌はもちろん、多くの一般紙でも「サザン復活！」の文字が踊ったと記憶している。

国民的バンドへと走り出したサザンオールスターズ

実家で購読していた読売新聞には、ツアーを直前に控えた桑田佳祐の大きな写真と取材記事が掲載された。巨大なステージの上に寝ころびながらＴシャツ姿でほほ笑む桑田佳祐の写真を眺めながら、僕は「サザンって別格なんだなぁ」と思ったものだった。「みんなのうた」は大ヒットを記録し、ツアーは全９公演で約50万人を動員。この頃を境に、サザンは国民的バンドとしての道を歩み始め、驚異的なセールスを叩き出すことになる90年代の全盛期へ突入していく。

「みんなのうた」は、そのタイトル通り、サザンがファンに向けて作った曲と言っていいだろう。歌詞より先に曲名が決まっていたというエピソードからも、そうした想いが窺える。

この歌に登場する孤独な男女は、おそらくファン一人ひとりのことを指している。そんな彼らがいつの日か出逢い、声を合わせて歌うことで、胸に抱いてた悲しみを吹き飛ばし、空高く舞い上がるのだ。そのエネルギーが熱い波となってアリーナやスタンドで揺れる様を、僕らは何度も観てきた。

感動の無観客配信ライヴと “みんなとの約束”

2020年６月25日、「みんなのうた」が発売されてからちょうど32年後、つまりデビュー42周年の日に、サザンオールスターズは横浜アリーナを貸し切って無観客の配信ライヴを開催した。コロナ禍により多くの制限を伴う中で行われたこのライヴは、サザンの名前に相応しいクォリティとスケール感に溢れ、配信ライヴの可能性を大きく押し広げてみせる感動の夜となった。視聴チケットの購入者は約18万人。実際に観た推定人数は約50万人と報じられた。

「みんなのうた」は、アンコールの最後の曲として演奏された。そして、その前奏で歌われたのが「約束」だった。しかも、この日の「約束」は、今のこの状況に合わせて、歌詞がまた変えられていたのだ。

　デビューして何度目の夏が来ただろう
　いろいろと皆さまのおかげです
　世の中は予期しない事があるけど
　これからも頑張ってまいりましょう
　あなたに守られながら
　私はここにおります
　笑顔を見せてください
　また逢う日まで待っています
　人生は世の中を憂うことより
　素晴らしい明日の日を夢見ることさ
　愛する人よ

「人生は世の中を憂うことより、素晴らしい明日の日を夢見ることさ」。今はこれ以上何を語ればいいというのか。それから桑田佳祐は、水鉄砲を片手に腕を振りながら「みんなのうた」を熱唱した。そこにはこんな歌詞が含まれている。

　いつの日か この場所で
　逢えるなら やり直そう
　忘れかけた 真夏の恋人はyou

誰もいない客席。だが、ステージの後ろに設置されたスクリーンには、かつてこの会場を埋め尽したファンの映像が映し出された。それを観た時、僕は思った。“you” とは彼らのことだと。あなたや僕のことだと。そして、いつかまた。この場所で。きっと逢えると。

2020.07.11