4月

なんという歌の力! アメリカンロックの最高峰、ボブ・シーガー

22
0
 
 この日何の日? 
ボブ・シーガーのアルバム『ライク・ア・ロック』がリリースされた月(アメリカン・ストーム収録)
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1986年のコラム 
チェッカーズの豊かな音楽センス!ステップとなった4thアルバム「FLOWER」の魅力

神がかっていた80年代のプリンス、革新的アルバム「パレード」

四月に雪が降ることもある、ありがとうプリンス… 感謝してる

河合奈保子「涙のハリウッド」あえてキラキラポップスに挑んだ隠れた名曲

あなたの “好き” を教えて【80年代アイドル総選挙】私は大好きベストソングで投票!

モノマネはデーモン小暮、聖飢魔Ⅱを聴きまくった人生の転換期

もっとみる≫




80年代のヒット曲の中でも、「アメリカン・ストーム」は、僕にとって特別な歌のひとつだ。この曲がラジオから流れてきたときの衝撃は、30年以上がたった今も忘れることができない。

微塵の迷いもなく、一切の言い訳を挟む余地のないサウンドは、とてつもなく大きくて、火の玉のように熱かった。

歌っていたの男の名前は、ボブ・シーガー。髭をたっぷりたくわえた熊のような風貌で、「デトロイトの巨人」と呼ばれていた。この人はとにかく歌が上手い。アメリカンロックの長い歴史でも最高峰のひとりだろう。咆哮のような叫び声は、まるで大地のように揺らぎない。そして、普段は無口な男が語りかけるようにして歌う様は、どこまでも深遠だ。

「アメリカン・ストーム」を初めて聴いたとき、僕は山が動いたかのような錯覚に襲われた。ザ・シルバー・ブレット・バンドによる演奏は力強く、命の輝きに溢れていた。最初のパワーコード、勢い良く突っ込んでくるリズムセクション、煌めく車輪のように転がるピアノ。そして、ボブ・シーガーのざらついた歌声の迫力には、ただ言葉を失うばかりだった。

この曲が、アメリカに蔓延するコカイン乱用についての歌だと知ったのは、それから随分たってからだった。この歌にはボブ・シーガーの憂いと、強い願いが込められている。


 それは最大風速の風
 アメリカの嵐
 お前は冷たい山の遥か下に埋められ
 けっして暖まることはない
 まるで鏡の壁に閉じ込められたみたいだ
 フルスピードで摂取し
 ガラスが粉々に砕ける音を
 聞いていながら
 そのことを隠そうとする
 でも、お前が血を流すことなどない
 お前はそれを必要だと
 感じたりはしないよ


つまり、「アメリカン・ストーム」とはコカイン中毒のことであり、その罠に落ちると抜け出すことは容易ではない。いつも凍えるような思いをし、真実を覆い隠しながら生きることになる。しかし、悲劇のイメージが語られた後、最後の2行で希望が待っている。ガラスが粉々に砕けたとき、お前はそこにはいないはずだ。お前がコカインを必要とすることなどないはずだと。

ボブ・シーガーが、この曲をここまで確信的なサウンドに仕上げたのは、このメッセージを伝えたかったからなのだと思う。迷いや言い訳が入り込む隙き間を見せるわけには、きっといかなかったのだ。

それにしても、なんという歌の力だろうか。大きな人間力に溢れ、後半に近づくほど説得力が増していく。厳しい現実を前にしてもビクともしない。この曲を聴くたびに、初めてラジオの前で聴いたときの、全身が震えるような感動が蘇ってくる。

振り返ってみると、80年代はタフであることが尊ばれた時代でもあった。多くの人が強さに憧れ、いつか自分もそうなれると信じ、勇気と安心を得ていたように思う。この歌には、そんな時代の空気も封じ込められている。

2019.05.06
22
  YouTube / Terry McGregor
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1970年生まれ
宮井章裕
コラムリスト≫
36
1
9
8
5
追悼:トム・ペティ — きみがロックンロールスターになりたいのなら
カタリベ / 太田 秀樹
28
1
9
8
7
80年代を代表するクリスマスアルバムは「クリスマス・エイド」で決まり! #3
カタリベ / 太田 秀樹
19
1
9
8
6
アメリカ音楽への敬意と誇り、歌うはジョン・クーガー・メレンキャンプ
カタリベ / KARL南澤
16
1
9
8
2
夜の鼓動を聴け —「ネブラスカ」が描くアメリカンマインドの闇
カタリベ / 後藤 護
40
1
9
7
8
闇に吠える街、スプリングスティーンから聴こえてくるパンク・スピリッツ
カタリベ / 岡田 ヒロシ
17
1
9
8
7
アメリカン・ロックンロールの良心の証明 ― ジョージア・サテライツ登場!
カタリベ / KARL南澤