6月2日

闇に吠える街、スプリングスティーンから聴こえてくるパンク・スピリッツ

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ブルース・スプリングスティーンのアルバム「闇に吠える街」がリリースされた日
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ディスコグラフィの中で忘れられがちな「闇に吠える街」


ブルース・スプリングスティーンのディスコグラフィのなかで、最初に語られるアルバムは『明日なき暴走(Born to Run)』だろう。アメリカンロックの歴史的名盤であり、スプリングスティーンのキャリアを決定づけた作品だ。続いて語られるのは『ザ・リバー』だろうか。2枚組でありながらも、初の全米アルバムチャート1位を獲得した記念碑的な作品だ。

『明日なき暴走』からの『ザ・リバー』って… 何か忘れてんじゃねぇ? そう、この2枚の間に挟まれているアルバム『闇に吠える街(Darkness on the Edge of Town)』がスキップされてしまうことが結構あるんです。

『闇に吠える街』は1978年にリリースされたスプリングスティーンの4枚目のアルバム。前作のリリースからの3年の間に、デビュー当時からのマネジャーでありプロデュサーでもあるマイク・アペルから訴訟を起こされ法廷闘争に発展している。この後、両者は示談に至っているが、闘争中の約1年間、スプリングスティーンは一切のレコーディング活動ができず、『闇に吠える街』の制作になかなか取り掛かれなかった。

パンクロックからの影響とフラストレーションの爆発!


大ヒット後のプレッシャーや訴訟のストレスは、スプリングスティーンをかなりイラつかせたのだろう。また、時代はパンクロック勃発と重なり、ロックは怒りの時代を迎えていた。こうした状況を色濃く反映したアルバムが『闇に吠える街』だ。

本作では、きつい仕事に耐えながらも、そこから抜け出そうとする人、夜の街に飛び出していく若者の姿が歌われている。物語の設定や舞台は『明日なき暴走』と同じだが、主人公たちに用意されている結末は、決して幸福なものではない。

『明日なき暴走』にあった前向きなエネルギーや、最後には救われる安心感とは正反対の、現実の厳しさが歌われている。歌詞カードの日本語訳を見るとよくわかるのだが、多くの曲の最終センテンスで、怒りや挫折が示される。歌の最後に厳しい言葉を用意してくるスプリングスティーンの精神状態も穏やかではなかったのだろう。

サウンドも『明日なき暴走』にあったウキウキするような音づくりはなくなり、そのかわりに激しさや重苦しさが増している。ボーカルも明るく、楽しく歌う曲はなく、腹の底から喉を切り裂くように声を絞り出して歌われる曲が印象に残る。また、スプリングスティーン本人が弾くエレキギターはノイジーで音圧も強い。この変化は明らかにパンクロックからの影響とフラストレーションを爆発させるための意図が感じられる。

アルバム収録曲はライブの重要なレパートリー


『闇に吠える街』に『明日なき暴走』のパート2を期待したファンも多かったはずだ。しかし、3年ぶりのアルバムはその期待に真っ向から応えるものではなかった。では、スプリングスティーンのキャリアにとって『闇に吠える街』は、大して重要な作品ではないのだろうか?

『闇に吠える街』の収録曲は、スプリングスティーンのライブにおいてとても重要なレパートリーとして演奏される。アルバム1曲目の「バッドランド」はライブでもオープニングチューンとして演奏される頻度が高い。「プロミスト・ランド」、「暗闇へ突走れ(Prove It All Night)」も定番のナンバーだ。特に「暗闇へ突走れ」のギターソロはハンパないカタルシスで、エモーションを大爆発させる。

私が唯一スプリングスティーンのライブを体験することができたのは2012年4月29日、アメリカのニューオリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルにヘッドライナーとして出演した時のステージだ。この時もオープニングで演奏されたのが「バッドランド」だった。スプリングスティーンのカウントからイントロになだれ込んだ瞬間、私はもう半べそだった。あぁ、もう一度… いやいや、二度でも三度でも四度でもスプリングスティーンのライブを体験したいものだ。

『闇に吠える街』の主要な楽曲は、ライブで演奏される頻度から考えても、『明日なき暴走』や『ザ・リバー』、もっと言ってしまえば『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』に匹敵する重要な作品だ。特にスプリングスティーンの抱える怒りや苛立ちが音盤に刻み込まれており、スプリングスティーンのパンクロック的側面が色濃く現れたアルバムだ。

21世紀に受け継がれたパンク・スピリッツ「ハイ・ホープス」


さて、話題は飛ぶが、21世紀に入ってからのスプリングスティーンは絶好調である。2002年の『ザ・ライジング』で復調、その後もEストリート・バンドとともに、力強さと深みが同居したスプリングスティーンならではのアメリカンロックを常に鳴らし続けている。ソロの弾き語りでもブロードウェイでのロングラン公演を大成功させ、充実した活動を続けている。

ここで2014年に発表された通算18作目のアルバム『ハイ・ホープス』について語らせて頂きたい。この作品でスプリングスティーンは21世紀型パンクロックをガッツリとぶち上げるのだ。

この作品にはギタリストとしてトム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)が参加している。全12曲中、8曲にフューチャーリング・トム・モレロのクレジットがある。そう、あのトム・モレロがスプリングスティーンのアルバムほぼ全編でギターを弾いているのだ。

レイジの音源から聴こえてくる超音波ギターソロやささくれ立った音像はさすがに聴こえてこないのだが、ギターの鳴りの太さやフレーズの端々からは、現行ロック最高峰ギタリストの存在がガンガン感じられる。そして、このノイジーなギターの向こう側からは『闇に吠える街』と同質のパンク・スピリッツが伝わってくるのだ。トムのギターに負けじと、スプリングスティーンのボーカルも生々しくパンクロックしているのだ。

そして、『ハイ・ホープス』ではパンクの隠れた名曲が、カバーとして取り上げられている。それは、ザ・セインツの「ジャスト・ライク・ファイア・ウッド」とスーサイドの「ドリーム・ベイビー・ドリーム」だ。前者はオージー・パンクの代表的なバンドで、歌心に溢れたガッツある演奏がご機嫌なバンドだ。後者はニューヨークのインダストリアル・サウンドの先駆的なバンドで、今日のオルタナティブミュージックに与えた影響は計り知れない。こうしたパンクの名曲を取り上げることで、アルバムのテンションを高め、攻撃的な作品へと導くことに成功している。

「最近のスプリングスティーンはどうもねぇ」なんて諸先輩方にこそ、ぜひ聴いて頂きたいスプリングスティーンの21世紀モデルが鳴り響く超強力盤である!

同時期に作られたパティ・スミスとの共作「ビコーズ・ザ・ナイト」


話をもとに戻そう。1978年、ニューヨーク・パンクの女王=パティ・スミスの「ビコーズ・ザ・ナイト」がリリースされる。ご承知のとおり、この曲はパティ・スミスとスプリングスティーンの共作によるナンバーだ。おそらく「ビコーズ・ザ・ナイト」も『闇に吠える街』の収録曲と同時期に作られたことは間違いないだろう。

こうしたカバーやコラボレーションは、スプリングスティーンのパンク・スピリッツが沸き立つタイミングと無関係だとは思えない。パンクな気持ちが盛り上がって、コラボレーションが決まったのか、コラボレーションにインスパイアされてパンク・スピリッツが盛り上がったのか、はたまたその両方なのだろうか?

いずれにしても、『闇に吠える街』から感じられるパンク・スピリッツは、30年以上のちに作られる『ハイ・ホープス』にぶっとく受け継がれている。ノイジーで荒々しい演奏から歌に向かうスプリングシティーンの姿勢、カバー曲の選曲やコラボレーションの相手に至るまで両作の近似性は明らかだ。

どこまで見えた? ジョン・ランドーの “ロックンロールの未来”


評論家のジョン・ランドーは、スプリングスティーンのライブについて、「私はロックンロールの未来を見た。その名はブルース・スプリングスティーン」と絶賛のコラムを書いた。その “ロックンロールの未来” とはどのくらい先の未来まで見えていたのだろうか? 21世紀の今日までロックし続けるスプリングスティーンが見えていたのだとすれば、とんでもない千里眼である。

当のスプリングスティーンは御年70歳(2020年6月現在)。ここ日本で2020年代にライブを行うという未来は、ジョン・ランドーには見えていたのだろうか?「ボス!日本に行ってライブをしている未来が見えるぜ!」とスプリングスティーンに言ってはくれないだろうか? その時のスプリングスティーンが攻撃的なモードでガツンと激しくロックしてくれたら、もう言うことはない!多分、また「バッドランド」のイントロで半べそかいてしまうんだろうな。


追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「Fun Friday」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)で DJ としても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。


2020.06.02
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カタリベ
1972年生まれ
岡田 ヒロシ
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