6月1日

bayfm「Wave Re:minder」山口百恵・堀ちえみ・小泉今日子の【嫉妬ソング】を紹介!

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平成以降の音楽になくて、昭和の音楽にあるもの


平成以降の音楽になくて、昭和の音楽にあるものって、なんだと思いますか? 色々あるとは思いますが、私はズバリ “人間臭さ” だと思っています。昭和ポップスには人間の腹の底にある愛・憎しみ・劣等感・優越感など、ひとことで言い表せない人間の人間たる感情の数々、そしてその機微を巧みに表現している曲がいかに多いことか......!

そんな中でも ”嫉妬” というのはまさに人間臭さを煮詰めたような感情。SNSで自分のキレイな部分ばかりを切り取って見せようとする時代だからでしょうか? 私はこの手の感情に遭遇するたび、”うお〜!! これぞ人間だよ……!” と心底興奮してしまいます。そんな「昭和ポップスの嫉妬ソング」を、先日 bayfm のラジオ番組『Wave Re:minder』でお話しさせていただきました(2023/11/15放送)。その一部を、本コラムでもご紹介いたします。

「炎と書いてジェラシー」「狂うと書いてジェラシー」



山口百恵「愛の嵐」
作詞:阿木燿子 / 作曲:宇崎竜童 / 編曲:萩田光雄


まずはこちら!歌姫・山口百恵さんの1979年のシングルです。サウンドはギターがバリバリに効いたかっこいいサウンドで、歌詞も嫉妬の嵐の激しさを感じさせるものになっています。しかしそれに対して百恵さんはかなり落ち着き払って、表情もほとんど崩さずに歌うのが特徴的。それが逆に “どんなに嫉妬の炎に灼かれてもは表情には出しません” という ”狂気じみた怖さ” を与えています。浮気がバレたとき、おそろしい怒号が飛んでくるよりも、至極いつも通り表情ひとつ変えない対応をされる方が怖いですよね。

山口百恵さんといえば、あの年齢であの落ち着きを見せているところからも、どんな恋敵がいたとしてもどっしりと構えていそうなタイプにも見えます。大人の余裕をもって “そんなこと気にしないわよ” と言いそうというか。しかしこの曲の中には、そんな表面的なイメージとは真逆の、グラグラと燃え上がる炎の存在を感じます。

もしかして百恵さんみたいなアイドルでも、好きな人を前にすると余裕がなくなったり、人間臭い嫉妬の感情があったりするのかも…… とリアリティをもって想像させてくれるのです。見た目は大人びた百恵さんの中にある年齢相応の人間らしさを垣間見た気もして、親近感も覚えます。「愛の嵐」は百恵さんというキャラクターが歌うからこそ、その奥に想像が生まれる、非常に属人性の強い楽曲ではないでしょうか。

「もう逢いたくないと さっき言ったけれど ヤキモチから出た言葉… ごめんね」



堀ちえみ「リ・ボ・ン」
作詞:三浦徳子 / 作曲:松田良 / 編曲:萩田光雄


「愛の嵐」とは打って変わってかわいらしい感じの楽曲。しかし、そこにある自尊心の強さに注目してほしい曲です。出だしの「♪回転扉の向こう あなたが涙ぬぐっていました」という歌詞からも分かる通り、おそらく主人公と彼との間に何かしらのいさかいがあって、「もう逢いたくない」と主人公が捨て台詞を放った後、遠くで彼が泣いていた。それを見た主人公が真っ先に思ったことが “男の人も泣くのね” だというところが面白いポイントです。

「愛の嵐」のように自分の中で嫉妬の感情を燻らせたり、最終的に嫉妬してしまう自分に罪悪感を感じてしまう自虐型の嫉妬ではなく、彼に「もう逢いたくない」まで言い放ち、泣かせたことに対して “へぇ、男の人も泣くんだぁ” という意地悪心まで芽生えてしまう。その後、歌詞中に「ごめんね」というワードこそあるものの、これは罪悪感から謝っていると言うよりも “ごめんね? だけど、嫉妬させたあなたが悪いよね” と言っているように私には感じます。その強さが素晴らしい。

もちろん、意地悪心だけでこんなことをしているのではなく、その後は「あの娘がくれたハンカチなんか 今この場所で捨てちゃって…」とあるように、彼のことは純粋に好きで、ジェラシーも感じていて、ちゃんと傷ついているのですが、それでも一番に優先するのが自分の自尊心というところが面白いポイントです。この曲は1985年の曲。「愛の嵐」と比較すると、70年代の恋愛観と80年代の恋愛観の違いのようなものも感じられる気がしています。

「魔女になりたいの 絶対 魔女のリンゴがほしいの」「魔女になれないの 今夜は涙がシトシト流れて 素顔の私に戻るの」



小泉今日子「魔女」
作詞:松本隆 / 作曲:筒美京平 / 編曲:中村哲


きつめのルージュにサングラスでいつもと違う装いをして、他人のふりをして彼の気を引いた後に冷たく無視してやるんだ……というような歌詞の出だし。”自分のことを嫉妬させた彼のことを傷つけてみたい” という点では「リ・ボ・ン」と感性が似ているのですが、曲全体にどこか "哀しみ” がずっとつきまとっているところが先ほどとの違いです。

「リ・ボ・ン」はおそらく、”このくらいのことをしても、彼は私のことを嫌いにならない(追いかけてきてくれる)” という確証があって強気な態度に出られると思うのですが、「魔女」の主人公はおそらくもう勝算がない、振られた後の状態。

結局は彼のことがまだまだ好きで、どんな装いをしてもその心ごとごまかすことはできず、魔女に変身(違う装い)をして彼のことを騙したつもりでも、そんなことをしても虚しくなるだけ…… という切なさに満ちています。強がっているけれど、ジェラシーと哀しさでいっぱい、という点において、主人公がとてもいじらしく、愛おしいですね。

ということで、今回は “嫉妬ソング” を3曲ご紹介いたしました。どの嫉妬ソングもちょっとずつ方向が違うのが面白いポイントですね。一方どれも “人間臭さ” でいっぱいで、人間の心の複雑さを存分に感じられる曲です。実際の番組では他に松任谷由実「真珠のピアス」や、中島みゆき「あの娘」などを紹介しています。1週間はradikoのタイムフリーで聴き逃しができますので、ぜひお聴きください。

そして次回、11月22日(水)25:00〜 の『Wave Re:minder』では、男性シンガー編 “嫉妬ソング” をお届けします。女性シンガー編とは違いすぎる傾向に、パーソナリティの太田さんと私・さにーの不満が続出!? こちらもぜひお聴きください!

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2023.11.19
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カタリベ
1992年生まれ
さにー
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