松田聖子・中森明菜・小泉今日子をはじめ、80年代にデビューした女性アイドルの作品は、40年ほど経った今でも多くの人に支持されているのはみなさんご存知のとおり。
先日も松本伊代がデビュー40周年記念アルバム『トレジャー・ヴォイス [40th Anniversary Song Book] -Dedicated to Kyohei Tsutsumi』をリリースしているが、その歌声は全く変わっておらず、あの頃と同じ感動を私たちに与えてくれる。
ところで、聖子・明菜・キョンキョンのアルバムについて語られることはあっても、それ以外のアイドルのアルバムについては、なかなか語られることがない。というか、熱心なファンでない限り、ほとんど聴く機会がなかったのではないだろうか。
当時のアイドルのアルバムはどれも非常にクオリティーが高い。ニューミュージックのアーティストを作家に迎えたり、凄腕のスタジオミュージシャンが演奏していたりして、「たかがアイドルの曲」と侮れないものが多い。
そこで、80年代にデビューした女性アイドルがリリースしたアルバムの中から、個人的におすすめしたい作品を10作品ピックアップしてランキングにしてみた。どれもサブスク(Spotify)で配信されているので、よければ聴いてみていただきたい。
第10位:岩崎良美「Weather Report」
デビュー2年目にリリースされたサードアルバム。シングルでは「四季」「LA WOMAN」など、アイドルとしては少し重めの曲が続いていた時期だけど、このアルバムでは疾走感のある明るいPOPな曲からディスコ調のナンバー、そしてミディアムテンポの落ち着いた曲まで、幅広い音楽性を感じることができる。
さすがの高い歌唱力で、尾崎亜美作詞・作曲による「Baby Love」など、譜割りが細かく難しい曲も、軽々と歌いこなしてしまうので安心して聴ける。他のアイドルよりも先にシティポップのテイストをまんべんなく取り入れていたように思う。「タッチ」ばかりでなく、それ以前の作品にもっと陽を当ててほしい。
第9位:荻野目洋子「VERGE OF LOVE」
グラミー賞を獲得している名プロデューサー、ナラダ・マイケル・ウォルデンが携わった海外録音アルバム。もちろん全曲歌詞は英語(後に日本語バージョンも発売された)。英語の発音もとても滑らかで心地よい。何も知らされずに聴いたら荻野目ちゃんってわからないかもしれない。それまでには聴けなかったハイトーンや「DIZZY,DIZZY,DIZZY」でのキュートかつセクシーなファルセットは絶品。
このアルバムの発売当時、『松任谷由実のオールナイトニッポン』に荻野目洋子がゲストに来たときに、ユーミンが「うちの旦那(松任谷正隆)が『これはスゴいアルバムだ!』って絶賛してた」と話していたことからも、このアルバムが相当ハイクオリティであったことがうかがえる。
第8位:山瀬まみ「RIBBON」
ファーストアルバム。作詞は松本隆、作曲は呉田軽穂、南佳孝、来生たかお、宮城伸一郎、亀井登志夫… と、松田聖子に曲を提供している面々である。デビュー曲の「メロンのためいき」というタイトルの奇抜さと、トークのときのキャラクターから、イロモノ扱いされることが多かったように思うけど、デビュー時にこれほど丁寧に作られたアルバムもなかなか無いのでは。
アイドルとしては低くて太めの声で、そこは好みが分かれるところだけど、私は松本隆の描く世界観を壊すことなく、うまく表現できていると思う。セカンドシングルでもある「セシリア・Bの片想い」のいじらしさがとても愛おしい。
第7位:岡本舞子「ハートの扉」
14歳でデビューしたときから安定した歌唱力があったこともあって、年齢よりも大人びた歌詞の曲を歌うことが多かったように思う。このアルバムにも収録されているデビュー曲「愛って林檎ですか」の「何か私に重たいものを持たせてしまいましたね」という歌い出しのフレーズを聴いたときはとても驚いた。
このアルバムもいきなりバラード(「ハートの扉」)からスタートするという、新人アイドルとしてはかなり大胆で珍しい作り。それだけ制作側に自信があったのだと思う。山川恵津子が繰り出すメロディとアレンジがとてもおしゃれで鮮やか。
第6位:中山美穂「CATCH THE NITE」
角松敏生プロデュースによるダンサブルなサウンドが詰め込まれたアルバム。シングル曲「CATCH ME」をはじめ、角松サウンドとミポリンのヴォーカルのバランスが絶妙。作り込まれた音を邪魔することなく、しかし中山美穂という存在感はしっかり残しているところが素晴らしい。
ラストナンバー「花瓶」は角松敏生自身が後にセルフカヴァーしている。ゴリゴリの角松ファンである友人も「これはただのアイドルのアルバムじゃない! 歴史に残る名盤だ!」と絶賛していた記憶がある。
第5位:早見優「RECESS」
早見優のアルバムで一番売れたのは、シングル「夏色のナンシー」の後にリリースされたアルバム『LANAI』。湿気のないドライなサウンドと、優のハワイ育ちを全面に出しまくったキャラクターがマッチしていて上質のアルバムなのだけど、あえて選んだのはこちら。
シングル曲は「抱いてマイ・ラブ」が収録されている。作家陣には小田裕一郎やジョン・スタンレー(八神純子のご主人)など。前半(Bad Girl Side)は四人囃子のキーボーディストである茂木由多加のキラキラしたアレンジを、後半(Good Girl Side)は名アレンジャー大村雅朗のソリッドなサウンドを楽しむことができる。ジャズテイストな曲やロックンロールなど、幅広いジャンルの作品が詰め込まれているのも面白い。英語の歌詞も多く、優の澱みのないアメリカンキッズな “English” を堪能できるのも魅力のひとつ。
第4位:柏原芳恵「LUSTER」
全曲筒美京平作曲・船山基紀編曲によるアルバム。テクノポップ歌謡としてその筋のマニアには評価の高いシングル「ト・レ・モ・ロ」と同じく、フェアライトCMIを駆使して作られている。
芳恵というと、「春なのに」など一連の中島みゆき作品や、「ハロー・グッバイ」だけが語られがちだが、合間にこういった冒険的な作品をリリースしていることが巷にはあまり知られていない気がする。芳恵の少し甘ったるい、後を引くような独特の歌い方がデジタルサウンドと妙にマッチしていて面白い。そんな中、銀色夏生作詞の「LOOK BACK もう一度」などのメロウなナンバーが入ることで、うまくバランスが取れていると思う。
第3位:河合奈保子「DAYDREAM COAST」
第26回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。LAレコーディングのこのアルバムは、TOTOのジェフ・ポーカロ、マイク・ポーカロなど、名だたるミュージシャンによる重厚なサウンドで構成されている。転調や細かい譜割りの多いメロディも奈保子は器用に歌いこなしている。デヴィッド・フォスターやピーター・セテラといった大物とのデュエットでも全く負けてない。西海岸のカラッとした音が奈保子のキャラクターに実にハマっている。
翌年にリリースされたLA録音アルバム『9 1/2(ナインハーフ)』ではさらにサウンドも歌唱力も研ぎ澄まされていて、確実にシンガーとしての実力をつけていたことが伺える。
第2位:岡田有希子「十月の人魚」
松任谷正隆サウンドプロデュースによるサードアルバム。シングル曲は「哀しい予感」が収録されている。上品な松任谷サウンドに載せて歌うユッコの歌声がとても瑞々しい。財津和夫、竹内まりや、杉真理、かしぶち哲郎といった作家陣の中、異彩を放つのが小室哲哉。転調やシンコペーションの多い小室メロディは、ユッコにとってもファンにとっても新鮮だったと思う。
後に竹内まりやがセルフカヴァーする「ロンサム・シーズン」は、別れてしまった彼を想うとても切ない曲だけど、「今でも心はI still love you」という歌詞と、途中に入る「今でも あなたのこと 愛してます」というセリフが、ユッコファンのユッコに対する気持ちと重なってしまい、聴くたびに泣ける。
第1位:松本伊代「風のように」
林哲司サウンドプロデュースによるアルバム。サヨナラ三部作と言われるシングル「信じかたを教えて」「サヨナラは私のために」「思い出をきれいにしないで」をはじめ、川村真澄の作詞により、どの曲も切ない恋愛の情景が描かれていて、短編小説を集めたような作りになっている。「センチメンタル・ジャーニー」や「TVの国からキラキラ」の頃とは違う、抑え気味な歌唱がアルバムのコンセプトに合っている。
個人的に伊代の声の魅力は地声からファルセットに変わるところだと思っていて、このアルバムでもその魅力が存分に味わえる。C-C-Bの渡辺英樹とデュエットしている「カレードスコープ」や、スウィング・アウト・シスターの「ブレイク・アウト」を彷彿とさせるアレンジの「それから」など、ヴァラエティに富んだ曲調が楽しめる。
―― 以上、80年代前半にデビューした女性アイドルがリリースしたアルバムの中から、個人的にオススメしたい作品を10作品選んでみました。もちろんこれ以外にオススメしたいアイドルやアルバムはたくさんあるので、数々の素晴らしい作品に触れるきっかけになれば嬉しいです。
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2021.12.21