6月15日

LAメタル台頭! Y&T までもを翻弄したエイティーズの空気感

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Y&Tのサードアルバム「アースシェイカー」が発売された日
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photo:yandtrocks.com  

ロックシーンを見渡してみても、“人間国宝” と称されるアーティストはそう多くないだろう。

アメリカの HM/HR バンド、Y&T のリードギター兼ヴォーカリストで2018年12月12日に65歳を迎えたデイヴ・メニケッティは、その名誉を与えられた数少ない一人だ。

81年、NWOBHM の影響はアメリカにも飛び火し、西海岸では Y&T が注目を集めていく。彼らは元々イエスタデイ&トゥデイ名義で70年代後期に2枚のアルバムを残し、ブルージーなハードロックを得意としていた。しかし、80年代に入ってよりハードな音楽性を標榜し、バンド名も頭文字をとった Y&T に改名。その第一弾が『アースシェイカー』だった。ちなみに日本のバンド・アースシェイカーはイエスタデイ&トゥデイ時代のアルバム収録曲から名付けたという。

僕が中1の時にこのアルバムを手に入れた理由は単純で、ミュージックライフ誌のレビューが5つ星だったからだ。女性の表情と派手な色使いが印象的なジャケから LP盤を取り出し、針を落とした瞬間から僕は全編を貫く圧倒的な熱量にヤラれ、収録曲名の「ノック・ユー・アウト」そのままに一撃で KO された。ハードロックのダイナミズムが凝縮されたアメリカのバンドらしい躍動感に加え、日本人の琴線にじわりと響く、湿り気を帯びた哀愁のメロディがふんだんに盛り込まれているところが、Y&T の最大の魅力だった。

その象徴がシングル曲「レスキュー・ミー」だろう。アルペジオと泣きのギターによる導入部から、エモーショナルなヴォーカルと哀愁を伴うハードなリフ、むせび泣くようなギターソロを経て、また静かなエンディングに向かう劇的な展開。Y&T の名演は、何度聴いても胸を打つ。結果的に『アースシェイカー』は、僕がこれまで最も聴いた HM/HR アルバムのひとつになった。

デイヴを的確にサポートするギターのジョーイ・アルヴェス、ステージ映えするルックスとクールなヴォーカルも聴かせるベースのフィル・ケネモア、ジョン・ボーナム直系のデカい鳴りとグルーヴ感が心地よいドラムのレオナード・ヘイズらから成るラインナップの重要性も忘れてはならない。この面子で『ブラック・タイガー』『ミーン・ストリーク』と順調に充実作を連発し、とりわけ日本で高い人気を確立していった。「ミッドナイト・イン・トウキョウ」は日本のファンとの相思相愛を物語る曲だ。

しかし、時代は LA メタル台頭による 80s の HM/HR ブームまっただ中に突入し、84年の『イン・ロック・ウィ・トラスト』以降は、時代に迎合した音楽性へと次第にシフトしてしまう。キャッチーを極めたシングル「サマータイム・ガールズ」に至っては、古参ファンを一様に脱力させた。彼らが『夜のヒットスタジオ』に生出演したのも丁度その頃だ。地上波の歌番組に Y&T が出た事実も凄いが、髪を盛り煌びやかな衣裳を身に纏った姿を僕も TV で観て、その変貌ぶりと「やらされている感」に正直失望すら抱いてしまった。

確かに80年代のメタルバブル期には、多くの HM/HRバンドが音楽性を柔軟に変えて、メインストリームで成功を納めた。そんな時期に発表された Y&T の作品も決して悪くはなかったが、最大の魅力である哀感は作を追うごとに失われてしまい、その犠牲と引き換えに得た商業的成功も決して大きくはなかった。今思えば、LAメタル的なサウンドから次第に距離を置き、独自のブルージーな路線で成功を収めたグレイト・ホワイトのような方法論もあったはずだ。

結局、Y&T はレーベルの移籍、ジョーイやレオナードの解雇・脱退等の難局を経て、時代の渦中で自らを見失ったかのように90年に1度解散してしまう―― 80年代は HM/HR ファンにとって夢のような時代だった一方で、その空気は玄人好みの実力と個性を持つ名バンドの運命を変えてしまうほど、危険な側面も孕んでいたのだ。

あのロニー・ジェームス・ディオに「最も正当に評価されていない最高のヴォーカリスト」とまで絶賛されたデイヴはその後ソロ活動も行い、Y&T としても活動再開を果たす。しかし残念なことに、11年にフィル、16年にレオナード、17年にジョーイが相次いでこの世を去ってしまう。

それでもデイヴは Y&T を継続させて、2019年1月に結成45周年記念の来日公演を行う予定だ。80年代という時代に翻弄されながらも活動を続けた Y&T を、一貫して応援し続けたのが日本のファンだ。

その強い絆は、Y&T が創り出した不朽の名曲の如く「フォーエヴァー」なのだろう。

2018.12.12
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カタリベ
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