西田敏行の初主演ドラマ「池中玄太80キロ」
大好きだった番組が終了すると、当然その後に始まる番組に向ける目は厳しくなる。毎週土曜夜9時、1980年春の日本テレビ「土曜グランド劇場」枠。大好きな『ちょっとマイウェイ』が終わり、『池中玄太80キロ』が始まる…… となったときの “なんで?” 感はよく覚えている。
西田敏行の初主演ドラマが、『池中玄太80キロ』だ。「今やろうと思ったのに、言うんだもんなぁ~」と風呂用洗剤CMでおどけ、『西遊記』で猪八戒を演じていた小太りの三枚目。今や押しも押されもせぬ大物俳優の西田だが、このときはそんなイメージだった。
なんで、桃井かおり(『ちょっとマイウェイ』の主演)の次が西田敏行なの? 血のつながらない3人の娘を育てる、いかにも泣かせようとするストーリーってのもどうなの? 当時、思春期で生意気盛りの私はそんなことを思った。
パートⅡ の主題歌、名曲「もしもピアノが弾けたなら」
だが、いざドラマが始まると、辛辣だった私も、ほぼ毎回涙することになる。本気でぶつかり合い、本当の家族になっていく玄太と娘たち。決してカッコよくはないし、ガサツだが、熱血漢で人が好くて涙もろい玄太を、いつの間にか応援している自分に気がつく。
池中玄太といえば、1981年に放送されたパートⅡの主題歌「もしもピアノが弾けたなら」を思い浮かべる人も多いのでは。ピアノが奏でる優しいメロディにのせて、主演の西田本人が、不器用な男性の心情を丁寧に歌い上げる。愛嬌たっぷりに三枚目の玄太を演じながら、歌うときはシリアスな二枚目に。あぁ、この人はしっかり主役を張れる役者なんだなぁと、当初 “なんで?” と思っていた私もやっと気づかされた。
早世したアッコ(坂口良子)… そして、玄太以外は誰もいなくなった
報道カメラマンの玄太が勤める通信社の場面も好きだった。特に印象深いのが、坂口良子が演じた、勝気な女性記者アッコ。玄太、楠公さん、ヒデ、半ペラなど、男性ばかりの編集部の紅一点だ。それまでは可憐で健気な女性の役が多かった坂口だが、サバサバしている姉御肌なアッコが意外とハマっていて、こっちのほうが彼女の地に近いのではという気がした。
2013年に坂口良子が早世したとき、多くの人がこのドラマの思い出をあげていた。西田以外の主要キャストは、すでに亡くなっているか、表舞台から消えてしまっているのは寂しい。さらに、坂口の娘である坂口杏里の行状を目にすると、なんだか胸が痛み、アッコの娘がなぜ…… という気持ちに駆られてしまう。母を失っても、玄太や周囲の人々に愛されて、まっすぐ成長した池中家の娘たちと重ねるのは、余計なお世話だってわかっているんだけどね。
2020.09.12