忘れられない音楽体験。TVKで放送されていた「ファイティング80’s」
前回書いた『ぎんざNOW!』(
『伝説番組「ぎんざNOW!」でロック三昧、京都のミック・ジャガーこと山本翔に熱狂!』参照)が小、中学校時代のTVによる音楽体験としたら、高校時代の忘れられない音楽体験として、『ファイティング80’s』(テレビ神奈川 現・TVK)がある。
司会は宇崎竜童。金曜日の夜9時にスタート。一度の放送で1組か2組の邦楽ライブを放送する音楽番組だ。
都立高のクラスメイトがたまにその話をしていたが、私の自宅は都内だったのでTVのアンテナを右に左に伸ばしても砂の嵐で映らない。当時、家庭用ビデオデッキの普及はまだまだで、20万近い高嶺の花の時代だから中々録画も頼める友人もいない。
ある時、「ザ・モッズって博多のバンドが番組のレギュラーになったよ」と聞き、これはなんとかしなくては! と色々調べたところ、番組は生放送ではなく、収録場所は蒲田の「日本電子工学院」という専門学校のホールと判明する。
蒲田なら行ったことはないが都内だ!
―― と俄然観覧する気が盛り上がった。…… が、そこからがなかなかの難題…。
収録日時は大体平日の夕方だった。しかも整理券配布は正午だ。当時高校生の私が昼休憩に移動したとしても収録場所の蒲田は、そこににたどり着くことが不可能なくらい遠かった。
なかなか現地にも行けずの日々の中、9月24日にルースターズが出演すると知り、居ても立っても居られず担任に「蒲田の専門学校の説明会に行く」と言って学校を休むことにした。
蒲田に行き整理券をもらい、ルースターズを観る計画のスタートだ。
シャコタンで現れた “マッハの菊”
蒲田行き決行前のある夕方、最寄り駅で派手な男性に声をかけられた。
高校を中退した先輩、通称 “マッハの菊” だ。暴走族写真集に載るくらいのちょっとした有名人。喧嘩が強くて高校を中退したのも喧嘩が原因だった。高身長、甘いマスクで金髪。身体能力高め。
マッハの菊が何故私の地元に?
先輩曰く、中退後、隣駅の24時間営業の定食屋で働いて店長をしてるらしい。「近々行きますね」という話の流れで、つい24日の蒲田行きについてしゃべってしまう。すると先輩は休みだから車で蒲田まで送ると言い出した。
先輩は「日本電子工学院」「蒲田」という場所に過剰に反応した。
「お前よぉ。工業、農業、商業の高校の連中がどういう奴等かよく知ってるべ? 危ねえから俺と行くしかないべ」
語尾に “ベ” を付けるのは、何故か当時の立川、八王子方面の不良の話し言葉だった。「でも、出来たばかりの専門学校みたいだし…」と、やんわり断る私に対して、
「お前レディースの頭に駅前でシメられそうになったべ! 蒲田は六郷渡ったら川崎だべ!」
確かに当時の川崎は治安が悪かった。あぁ… BOØWYのロフトのエピソードの記憶(
『ロニー田中は見た!伝説が生まれる瞬間、新宿ロフトの暴威(BOØWY)初ライブ』参照)が蘇り、何も言えなくなり先輩と車で蒲田に行く流れになってしまった。
当日先輩と駅前ロータリーで待ち合わせした。他校の生徒でルースターズ大ファンのみっちゃんも学校休んで一緒に行くことになり駅で待ち合わせ。程なくして先輩が車で登場。
日産ローレルの艶消し赤と黒の2トーンシャコタン(極端に車高が低い車)
マフラーは煙突(車体より上に高く長く伸ばしてある)
フロントは出っ歯(前方に大きく伸ばしたチンスポイラー)
―― 典型的な当時のヤンキー・族車仕様で現れた。
みっちゃんの顔が見る見る困惑するのとは裏腹に、先輩は白いジャージ風上下、背中に虎の刺繍入りだ。それに雪駄の姿でニコニコして車から降りて来た。
車内は土足厳禁。さらに驚いたのは後部座席にバッテンのパイプが入っていることだ。普通に人が乗れる仕様ではなかった。助手席に緊張気味のみっちゃんを乗せ私はパイプに身体を少しずつ入れ、何とかお尻はシートの上だが手足はパイプに乗せて蒲田へ向け出発。
先輩に持参した手製のカセットテープをパイプ越しに渡す。ルースターズのファーストと、出たばかりのセカンドの『THE ROOSTERS a-GOGO』だ。雑誌から切り抜いたインデックスには、メンバーが睨みを聴かせたファーストの写真。これを見て先輩の眉間に皺が寄る。
「このバンドのライブなら客層は絶対ヤンキーだべ。ライブ中も俺がいた方がいいべ」
「先輩!この真ん中の人がこうなったんで平気ですよ!」
と「THE ROOSTERS a-GOGO」のジャケットに映る穏やかな表情の大江慎也を見せて安心してもらう。車内でファーストを聴きセカンドの途中で目的地の蒲田の日本電子工学院に到着。
ルースターズ登場! ほぼ洋楽としか思えないカッコ良さ
いきなり専門学校敷地内にヤンキー車で乗りつけたため、周りの人は一気に居なくなった。私が車から降りるのにパイプのせいで約10分くらいかかったが、無事にみっちゃんと整理番号を入手。身体の節々が痺れているのを忘れるほどの達成感!
周りの視線が私達とニコニコしてタバコ吸いながら車の側に立つ先輩に注がれているのが分かった。とりあえず先輩と3人で昼ご飯を食べに一旦車で移動。再び戻ると、たまたまその場所に居合わせたルースターズのメンバーと遭遇する。
ゴキブリみたいなシャコタンの車のそばにいる私たちを凝視したのはドラムの池畑潤二さん。他のメンバーがファンと話したりしてる中、先輩に車を停めてもらい、みっちゃんとサインを貰いに並ぶ。みっちゃんが大好きな井上富雄さん(ベース)と写真を撮るのでシャッター押していると先輩が背後から来て、
「俺が撮るべ」
… と、井上さんを真ん中に3人で先輩が写真を撮った。後日写真を見ると、井上さんの顔が強張ってるのが分かる。先輩はライブが終わったら迎えに来ると言い、私たちはホールに入場した。
会場を見渡すと女性客が6割、後は男性3割、残りは工学院の学生という感じで立派なホールはほぼ満員。オープニングSEで「ONE MORE KISS」が流れる中、メンバーが登場。大江さんは白いサングラスにピンクのジャケット姿、花田裕之さんは羽のついた帽子を被り、井上さんは太いパンツでベースを構える。池畑さんは黒いサングラス。間髪入れず演奏が始まり最前列で潰されながら高身長フロント3人に見惚れていた。大江さんが、
「こんばんは! 皆さんのパブリックイメージ、ルースターズです!」
… と自己紹介。途中司会の宇崎竜童とやり取りした後「DAN DAN」「GET EVERYTHING」という英語の歌を披露した(どちらも当時は未発表曲)。ほぼ洋楽としか思えないカッコ良さ。ラスト「FADE AWAY」でサングラスを外した大江さんはステージを縦横無尽に動き回り、あっという間にライブは終わった。
放心状態でみっちゃんとゆっくり退場する中、彼女は、友人を見つけたから一緒に電車で帰ると言った。つまり、あの車には乗りたくないという強い意志表示だ。
出口で別れて私は皆が凝視する中ニコニコ手を振る先輩の元へ。帰りは『THE ROOSTERS a-GOGO』を聴きながら助手席で足を伸ばしつつ、吊り輪に捕まりながらのドライブ。車内のカセットテープを見るとキャロル クールス、アナーキーなどが散乱してる。先輩は色々話し出した。
「今日写真撮る時にメンバーいたべ? 一番喧嘩が強いのは池畑さん。予測不可能なのは大江さん、怒らせたら厄介なのは花田さん」
「何故分かるんですか?」
「大体首と肩見たら分かるべ」
「先輩占い師みたいですね!」
「身体は嘘つかないべ」
―― そう笑顔で返してくれた。私は先輩のこういう所が好きだった。皆に恐れられていたが、私には可愛げのある頼れる兄貴。ストリートのプロ。今でも初対面の男性の首と肩を見る癖は先輩からの教えだ。
先輩とドライブしたのはこれが最初で最後。その後何回か『ファイティング80’s』に行ったが、それからは、初めて付き合った彼氏と電車で行くようになった。
その年の冬にルースターズのメンバーも出演する映画、『爆裂都市』のエキストラオーディションに彼氏と応募し、合格・参加して「DAN DAN」が「Let's Rock」というタイトルになったのを目の当たりにすることになる(
『爆裂都市から飛び出したバトル・ロッカーズ、脊髄反射の「セル・ナンバー8」』参照)。
▶ ルースターズのコラム一覧はこちら!
2022.10.23