「大人になってからの音楽の好みは、13歳頃聴いていた音楽で形成される」
―― という説が、少し前に話題になっていたが、自分の場合を考えてもピタリと当てはまっている。
13歳の5月に1986オメガトライブがデビューし、そこから数年は彼らに どハマりしていた。その頃の私はヴォーカルのカルロス・トシキにキャーキャー言っているだけでサウンドにはさほど意識が向いていなかったが、2017年3月にカルロスのライブを観たのがきっかけで認識が一変… 過去の音源を聴いたら、あまりにも今の自分の好みと合っていて驚いた。それからしばらくオメガトライブを聴く日が続いた。
ところで『ケモノディスク』というイベントの企画・運営グループを2013年に立ち上げ、今日まで「自分達が観たいイベントを自分達の手で」をモットーに活動している。そのイベントにカルロス期のオメガトライブでサウンドプロデューサーだった編曲家の新川博さんをお招きし、オメガトライブのサウンドの魅力について是非お話を伺いたいと思った。
出演の OK をいただき打ち合わせを兼ねて、新川さん率いるピアノトリオ「新川博 and ザ・シンキーズ」のライブに足を運ぶようになった(80年代後半、度々レコーディングに行っていた LA のミュージシャンに「シンキ」と呼ばれていたのが、「シンキーズ」という名前の由来らしい)。
ピアノ・ベース・ドラムで構成されるシンキーズのライブはとてもグルーヴィー。新川さんが奏でるピアノの和音は洗練された都会的な響きを持っていて、私はすっかりファンになってしまった。こうしてシンキーズだけでなくソロ作品や他グループでの音源なども聴くようになり、「ミュージシャン=新川博」への理解が徐々に深まっていく…。
カルロス期のオメガトライブとしては5枚目になる1989年9月発売の『BAD GIRL』というアルバム。子供の頃はあまりピンときていなかったが、今はとても好きなアルバムだ。新川さん自身の音楽に触れるようになった今だから感じることだが、『BAD GIRL』はオメガトライブの中で一番、新川さんの音楽的嗜好が反映されたアルバムだと思う。クレジットも前作『be yourself』から藤田浩一さんと新川さんの共同プロデュースになっている。
ちなみに新川さんが個人的に好きで80年代によく聴いていたミュージシャンを尋ねたことがあったが、デイヴ・グルーシン、ビル・ラバウンティ、エアプレイなどの名前が挙がっていた。
―― 当時のヒットチャートはシンセを前面に打ち出した煌びやかな打ち込みサウンドが主流だったように思うが、『BAD GIRL』はバカラックやスタイリスティックスを思わせるストリングスやブラスを多用したアレンジが施され、ゴージャスでポップだけどどこか気高い大人な AOR サウンドに仕上がっていた。ど田舎に住んでいた子供の頃の私がピンとこなかったのも仕方なかったのかもしれない。
さて、同アルバムでもう一つ注目すべきことがある。それは、表題曲「Bad Girl」と「夏のポラロイド」をピチカート・ファイヴの小西康陽さんが作詞しているということだ。
『ケモノディスク』のイベントの中で、新川さんが当時、田島貴男さん在籍のピチカート・ファイヴが好きで小西さんに作詞を依頼したという話があり、とてもテンションが上がった。
なぜなら、オメガトライブに どハマりしていたその数年後、私はオリジナル・ラヴとピチカート・ファイヴにハマっていたからで、今思えば『BAD GIRL』のサウンドメイクには、どこかピチカートに通じる部分があったということなのだろう(小西さんも大のバカラック好きだし)。
オメガトライブから始まり、オリジナル・ラヴやピチカートにハマった80~90年代。自分の音楽史が一本の線で繋がった気がして胸が熱くなった。
2018.12.29
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