2021年 1月20日

DEENがカバーした “令和的シティポップ” の楽しみ方「POP IN CITY」

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DEENのアルバム「POP IN CITY ~for covers only~」がリリースされた日
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海外で脚光を浴びる “CITY POP”


しばらく前から、海外で日本の “CITY POP” が脚光を浴びているという話題を耳にするようになった。

ここで言う “CITY POP” とは、主に80年代に発表された都会的感覚を感じさせるポップスナンバーと言っていいんじゃないかと思う。つい先日放映された『世界不思議発見』の「80年代特集」でも、亜蘭知子の「Midnight Pretenders」(1983年)をサンプリングしたザ・ウィークエンドの「Out of Time」が紹介されていたし、少し前にも山下達郎の「FRAGILE」(1998年)をタイラー・ザ・クリエイターがサンプリングしたり、「DANCER」(1977年)がアメリカの何人ものシンガーに使われる、などの現象があった。

さらに、松原みきの「真夜中のドア」(1979年)、竹内まりやの「Plastic Love」(1984年)など、多くの曲が “JAPANESE CITY POP” として海外で脚光を浴び、オリジナルのレコードを収集する人も少なくないという。こうして、70~90年代の日本のポップ・サウンドがにわかにボーダーレスで “発見され” て脚光を浴びるというのもSNS時代ならではの現象だなぁ… と感じる。そして同時に、あの時代の日本のポップスがたぶん無意識に獲得していた “オリジナリティ” について見直してみてもいいかなとも思った。

そんなタイミングにDEENのジャパニーズ・ポップス・カバー・アルバム『POP IN CITY ~for covers only~』が発表された。収録されているのは10曲(通常盤はボーナストラック1曲プラス)だが、いわゆる “JAPANESE CITY POP” の代表曲を網羅した選曲はなかなか興味深いものがある。そこで、この収録曲について僕なりに振り返りながら “CITY POP”の魅力を考えてみたい。

DEENがカバーするジャパニーズシティポップ、そのラインアップは


収録曲をざっと見て感じるのは大瀧詠一の「恋するカレン」(1981年)、山下達郎の「RIDE ON TIME」(1980年)とシュガー・ベイブ時代の「DOWN TOWN」(1975年)といった70年代から独自の音楽性を打ち出してきたアーティストの楽曲が軸となっているな、ということ。今から見れば納得の選曲なのだけれど、彼らは当時はどちらかと言えば趣味性の強いマニアックなアーティストと見られていて、“シティポップ” の主流とはされていなかった。

しかし、まさに70年代の “異端” だった、大瀧詠一、山下達郎、さらに吉田美奈子(「恋は流星」(1977年)と、通常盤ボーナストラックとして「夢で逢えたら」(1976年)を収録)が『POP IN CITY ~for covers only~』に選曲されているのを見ると、彼らが音楽性に対する強いこだわりと信念を持ってつくり出したサウンドと楽曲が、現代の “CITY POP” の王道として親しまれるようになったんだな、ということを感じて感慨深い。そういえば、以前、山下達郎が「今の異端が次の時代の王道になるんだよ」と言っていたのを思い出した。

大瀧詠一、山下達郎、松任谷由実、竹内まりや、林哲司…


このアルバムには松任谷由実の楽曲も収録されている。洗練された楽曲と、リズム・セクション、キャラメル・ママ(細野晴臣、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫)を起用した荒井由実時代のデビュー・アルバム『ひこうき雲』(1973年)を皮切りに、クオリティの高いサウンドで新しいポップ感覚を打ち出した彼女は、まさに “シティポップ” の生みの親と言っても過言ではないだろう。しかし、ここで選曲されているのが当時の大ヒット曲ではなく、その後に名曲として評価が高まった「埠頭を渡る風」(1978年)だというのも興味深い。

この他の収録曲は、70年代末以降にデビューしたいわば “シティポップ第二世代” の楽曲だ。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」(1984年)、そして学生時代に竹内まりやとも活動していた杉 真理の「バカンスはいつも雨」(1983年)は、大瀧詠一や山下達郎らが切り拓いた音楽性を受け継ごうとする動きだ。

その一方で、もう少し歌謡曲に近いスタンスから80年代のシティポップにアブローチした作曲家、林哲司の楽曲も杏里の「悲しみがとまらない」(1983年)、松原みきの「真夜中のドア」と、ともに海外でも “JAPANESE CITY POP” の代表曲として親しまれている2曲が収録されている。林哲司はこれらの楽曲の作曲だけでなく編曲も手掛けている。そして「悲しみがとまらない」では角松敏生がプロデューサーをつとめ、林哲司とともに編曲も手掛けていたことも暗示的だという気がする。というのも角松敏生も独自のアプローチで80年代のシティポップサウンドに大きな貢献をしたアーティストの一人だからだ。

アルバムを通して俯瞰できるシティポップの脈流


暗示的と言えば、1986オメガトライブ「君は1000パーセント」(1986年)にも感じる。もちろん、海外で人気が高いことがこの曲が収録された理由だと思う。しかし、オメガトライブをつくったプロデューサーが初期の角松敏生のプロデューサーでもあったこと、さらに林哲司が初期の杉山清貴とオメガトライブの主力作曲家であったことなどを思うと、この『POP IN CITY ~for covers only~』というアルバムが、80年代を主軸としたシティポップの時代音楽家たちの関係をマトリックスのように俯瞰する作品になっているということも感じられる。

その結果としてこのアルバムは、実際に70~90年代に感じていた文脈に捉われない “シティポップ” の見え方を示す作品にもなっているという気がする。

“シティポップ” とは、欧米の新しい音楽ムーブメントに刺激を受けながら、自分達の新しい時代の音楽を生み出すためのチャレンジであり、時代の主流とは一線を画した異端の動きだった。しかし、結果として生み出された洗練されたサウンドが、70年代末から80年代の空気感にフィットして、時代の音楽として幅広く再生産されていった。それは世界的に見るとガラパゴス的歴史だったのかもしれない。

池森秀一、山根公路が「POP IN CITY」で表現するシティポップ


“シティポップ” のブーム自体は90年代以降は下火になっていく。しかし、この流れの中で楽曲が世界に類のない形での洗練された個性とオリジナリティを持つ楽曲が結果的にいくつも生み出されていた。それらの時代に埋もれていた楽曲の魅力がSNSによって発掘され、“JAPANESE CITY POP” として世界に見つかることとなった。そんなヒストリー自体にもドラマを感じることができる。

そうした意味も含めて『POP IN CITY ~for covers only~』は多角的に楽しむことができるアルバムだと思う。“JAPANESE CITY POP” という現象をテーマにした作品なのだが、その選曲からDEENがシティポップをどう捉えているのかを類推するのも、いろいろとイメージが広げられて楽しい。

さらに全曲の編曲にメンバーの山根公路が携わって作られたサウンド、そして池森秀一のヴォーカルからも、DEENが音楽面でシティポップの名曲たちをどう解釈し、その魅力をどう表現しているのかが感じられる。彼らのテイクとオリジナルとのニュアンスの違いを一曲ごとに味わっていくことも、このアルバムの楽しみ方のひとつなんじゃないかと思う。

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2022.02.16
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カタリベ
1948年生まれ
前田祥丈
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