2022年 6月22日

山下達郎「SOFTLY」変わらずにいるためには変わり続けなければならない

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山下達郎11年ぶりのアルバム「SOFTLY」。ペースが落ちた理由とは?


2022年6月22日、山下達郎がニューアルバム『SOFTLY』を発表した。オリジナルアルバムということでは前作が2011年の『Ray Of Hope』だから11年振りの新作になる。

ちなみにオリジナルアルバムとして『Ray Of Hope』の前作となる『SONORITE』は2005年、その前の『COZY』が1998年、『ARTISAN』のリリースが1991年と、それぞれ6年から7年の間隔を置いてアルバムが発表されている。

山下達郎は、1980年代までは1~2年に1枚のペースでアルバムを出していたのに、1990年代に入って急にリリースペースが落ちた理由について “アナログレコーディングからデジタルレコーディングへの移行” が理由だと語っていた。

80年代後期にはアナログレコーディングが技術的円熟期に達していて、自分の求める音像をほとんどストレス無くつくれる環境にあった。しかし、デジタルレコーディング技術の登場によって、その情況は一変してしまう。

“アナログより音が良い” 理想の音響技術… という触れ込みで登場したデジタルレコーディング技術だが、その初期においては非常に問題が多かった。デジタル信号として処理するために、ひとつひとつの音はクリアになる。しかし、それはあくまでサンプリングによる人工的再現音で、アナログの音源とは違う。当時のデジタル技術を使って、アナログレコーディングのナチュラルな音像を再現することは至難の業だった。

しかし、時代の要請としてデジタルレコーディングへの移行は否応なく求められていった。山下達郎は、“自分の思う音像をデジタル環境でつくる” ために必死で格闘してゆく。“これはと思える音像がつくれなければ作品は出せない”。その結果として、90年代以降の彼は寡作にならざるを得なかったのだ。

真摯に取り組んだデジタルレコーディング


CD時代の初期には、アナログ盤からデジタル変換されたCDアルバムが数多く出された。それらを聴くと、それぞれの楽器の音がアナログ盤よりもクリアに聴こえたりした。けれど、アナログ盤に感じられたアンサンブルとしてのトータリティが解体されているような印象を抱くことも多かった。

実際、カタログ数を稼ぐために、アナログ音像の特性の違いも無視して機械的にデジタル化しただけのクオリティの低い作品も少なくなかった。

アナログレコーディングの時代から、自分の納得できる音像にこだわって作品をつくってきた山下達郎が、デジタルレコーディングで、いかに納得できる音像を構築するのか。90年代の山下達郎が極端に寡作だった事実こそが、この問題が彼にとってきわめて大きなものであり、そして彼が真摯にこの問題に取り組んでいたことを物語っていたのだと思う。

この時期に発表された作品は、この課題と格闘してきた彼の、それぞれの時期における解答でもあったのだ。

過去の作品を生きたデジタルサウンドで“今”に響かせる


しかし、2010年代に入ると『Ray Of Hope』の発表に続き、『MELODIES』『BIG WAVE』『POCKET MUSIC』『僕の中の少年』『ARTISAN』といった既発アルバムのリマスターエディションが精力的に発表されるなど、そのリリースペースはかなり上がっている。

それは、デジタルコーディング技術の進歩と、それらを使いこなす彼ならではのノウハウの蓄積によって、彼が自分が納得できるデジタル音像を確立したということを意味している。過去の作品を生きたデジタルサウンドでリマスタリングすることで “今” に響く作品として提示し直す。それはけっして懐古趣味ではなく、山下達郎のアーティストとしての姿勢そのものの現れなのだと思う。

「ライド・オン・タイム」「クリスマス・イブ」などの大ヒット曲を持つ山下達郎を、日本のシティポップの第一人者と見ている人は多いと思う。しかし彼は、デビュー当時から流行を追うアーティストではなかった。そうではなく、自分の心をときめかせたロックンロール、ドゥーワップ、R&Bなどを咀嚼して自分ならではの音楽性を追求してきた。だから70年代の彼は、売れないマニアックなアーティストと見られることが多かった。

彼は自分の音楽スタイルを “美しいメロディと強いビート” と表現しているが、その本質は日本の音楽シーンにおいては非常に特異なものなのだという気がする。

そんな山下達郎が「ライド・オン・タイム」でブレイクしたのはけっして “時代に合わせた” 結果ではない。自分の信じる音楽スタイルを貫き通した結果、次の時代の扉を開けることになったのだ。それはまさに “次の時代の流行を生み出すのは、今の時代の異端” という真理の見本のような現象だった。

ブレイク以降も彼はその姿勢を変えていない。山下達郎がつくり続けているのは、ルーツミュージックに根差しながらきわめて個性的なポップミュージックであり、それがシティポップの代表となったのは、あくまで結果でしかないのだ。

アーティスト・山下達郎の姿勢を強く感じるニューアルバム




ニューアルバム『SOFTLY』は、山下達郎というアーティストの姿勢を改めて強く感じられるアルバムだと思う。

収められている15曲のうち、すでにシングルとして発表されているのが8曲、残りの7曲は新曲およびCD未収録曲。既発曲もほとんどは前作となる『Ray Of Hope』以降に発表されたものだ。しかし、例外が2曲ある。

オーバーチュア的ポジションの「フェニックス(2021 Version)」は2003年にシングル「2000トンの雨 / フェニックス」として発表された曲のモチーフを一人多重ア・カペラで演奏したテイク。NHKのテレビ特番『地球だい好き 環境新時代』のテーマソングとして書かれた「フェニックス」が、2021年にNHK・SDGsキャンペーン「未来へ 17アクション」のテーマ曲となるにあたり新たにレコーディングされた。

また「ANGEL OF THE LIGHT」は2008年に発表されたシングル「ずっと一緒さ」のカップリング曲。『Ray Of Hope』には収録されなかったが、長く山下達郎の英語詞を手掛けてきたアラン・オデイ(2013年没)との最後の共作楽曲だ。

ちなみにアルバム収録曲の「SHINING FROM THE INSIDE」(2021年にCMとしてオンエア)は「ANGEL OF THE LIGHT」以来、13年振りの完全英語詞のオリジナル曲だ。

この他、「ミライのテーマ」「うたのきしゃ」(『未来のミライ』)、「REBORN」(『ナミヤ雑貨店の奇跡』)、「光と君へのレクイエム」(『陽だまりの彼女』)などの映画のテーマ曲や、「RECIPE(レシピ)」(『グランメゾン東京』)、「コンポジション」(『第二楽章』)などのドラマ主題歌、そしてCM楽曲など、収録されているどの曲からも2010年代以降の山下達郎の創作の足跡、そして時代との接点と彼の立ち位置が見えてくるという気がする。

まさに“エバーグリーン”! 古さを感じない山下達郎


しかし、『SOFTLY』に収録されている楽曲を見ていくとそれぞれきわめて強い個性をもっているにもかかわらず、アルバム全体からは “いつもの山下達郎” “山下達郎は変わらない” という印象を受ける人が多いのではないかという気もする。そして、それこそが山下達郎というアーティストの “個性” なのだと思う。

彼は時流を追いかけるタイプではなく、自分の音楽性をとことんまで追求していくアーティストだ。だからこそ、いかにバラエティにあふれていようとも彼から届けられる作品には、“達郎印” がくっきりと刻印されているのだ。

極端に言えば山下達郎の楽曲には “古いも新しいも無い”。だから言い方は悪いけれど、『SOFTLY』を聴いて “新しさを感じない” という人が居たとしても、それはリマスタリングされた彼の旧譜に “古さを感じない” のと同じことなのだ。

山下達郎の楽曲は、耳にしたその時からリスナーとともに時を越えていく。彼が旧譜のリマスタリングにこだわるのは、音響環境の変化によって楽曲が古びて聴こえないように、その楽曲を “エバーグリーン” な音像で新しい時代のリスナーに届けられるようにするためだ。新しい時代のリスナーに、変わらぬインパクトで楽曲を伝えるために、その時代の音響環境にフィットした音像を構築していく。それが山下達郎の“音楽を伝える”ための姿勢。まさに “変わらずにいるためには変わり続けなければならない” のだ。

もちろん『SOFTLY』からは、変わらない山下達郎だけでなくリアルな今の山下達郎の想いも感じとることができる。アルバムタイトルも、コロナ禍、緊迫する国際情勢などの “不穏” な世情に対しする祈りが込められていると思えるし、「OPPRESSION BLUES(抑圧のブルース)」など珍しく生の感情が感じられる新曲も印象的だ。サウンド面でもスライドギターを生かした「人力飛行機」など、デジタル時代にあらためてルーツサウンドのインパクトを示すようなアレンジが垣間見られるなど、“今という時代” へのメッセージと思える “発見” もある。

だからこそ聴き直すたびに深みにはまっていく。そんなアルバムなのだ。

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2022.06.26
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カタリベ
1948年生まれ
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