2023年 6月30日

これで本当に最終作? 映画「インディ・ジョーンズ」シリーズとはいったい何なのか? 

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映画「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」日本公開日
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photo:(c)2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.   

パルプ・マガジンを夢中で読んでいた少年時代のジョージ・ルーカス


かつて、アメリカで1920年代から50年代にかけて人気を博した雑誌のジャンルに、“パルプ・マガジン” がある。

―― 低質な紙を使用した、大衆向け雑誌の総称である。比較的大判で、決まって表紙に人目を引くカラーのイラストが描かれている。幽閉された王女とか、巨大生物と格闘する冒険家とか、とある惑星に不時着した流線形のロケットとか―― その類いのイラスト。中身は、ミステリーやサスペンス、怪奇ものといったB級連載小説が挿絵入りで掲載された。

中でも、人気を博した二大小説のジャンルが、スペースオペラと冒険活劇である。前者は宇宙、後者は地球のへき地が舞台。いずれも無敵のヒーローが登場し、恐ろしい敵と対峙して、大スペクタクルの末、ラストはハッピーエンド。時々、ラブロマンスも描かれたりして――。

子供のころ、それらを夢中になって読んでいたのが、ジョージ・ルーカス少年である。歳月は流れ、1973年―― そんな彼が自身2度目の監督作品となる映画『アメリカン・グラフィティ』を大ヒットさせている最中、かつて夢中になったパルプ・マガジンのスペースオペラと冒険活劇をもとにした映画企画を思いつく。のちの『スター・ウォーズ』と『インディ・ジョーンズ』両シリーズである。

ルーカスが目指した古き良きハリウッド映画とは?


しかし―― 時に、ハリウッドはアン・ハッピーエンドの “アメリカン・ニューシネマ” の時代。一方、ルーカスが目指したのは、それとは真逆の古き良きハリウッド映画。まだ、世に出すタイミングじゃなかった。そして75年―― サイゴンが陥落したその年、ルーカスは友人の映画監督、フィリップ・カウフマンと共に、考古学者で冒険家の物語の原案を練り上げる。当初のタイトルは「インディアナ・スミスの冒険」。ルーカスはカウフマンに監督を打診するが、彼は『アウトロー』(1976年)の脚本で忙しく、当のルーカスも間もなく『スター・ウォーズ』の準備に入り、この企画は中断する。

更に時は流れ、1977年5月―― 全米で公開されたばかりの『スター・ウォーズ』の評判を聞くのが怖いルーカスはハワイに逃亡、外部からの連絡を一切遮断する。その時、奇しくも、映画『未知との遭遇』の撮影を終えたばかりのスティーブン・スピルバーグもハワイで休暇中だった。2人は偶然、ビーチで出くわし(2人は親友同士である)、ルーカスはスピルバーグから『スター・ウォーズ』の大ヒットを聞かされ、更にこんな思いを打ち明けられる。

「いつか、007のような映画を撮りたい」

―― この時、ルーカスはかつて企画を中断した「インディアナ・スミスの冒険」を思い出す。「実は、こんな企画を温めているんだ」―― それを聴いて、目を輝かせるスピルバーグ。それから2人は夢中になってアイデアを砂浜に描きまくったという。

かくして、“インディ・ジョーンズ” の企画が動き出す。ルーカスは正式にスピルバーグに監督を依頼。主人公のキャラクターは、クリント・イーストウッドと三船敏郎と「ジェームズ・ボンド」を基に作られ、スピルバーグの推薦で『スター・ウォーズ』のハン・ソロ役のハリソン・フォードが起用された。ルーカスは当初「彼を私のボビー・デ・ニーロにはしたくはない」と、マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロの関係になぞらえて反対したが、スピルバーグに押し切られた。

シリーズ5作目「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」が公開間近


少々前置きが長くなったが、今回は映画『インディ・ジョーンズ』シリーズの話である。来月の6月30日には、シリーズ5作目となる最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が日米同時公開される。それに合わせて、日本テレビ系の『金曜ロードショー』では今月と来月、シリーズ4作品が放映中である。ちなみに、今夜―― 5月26日は第2作『インディ・ジョーンズ / 魔宮の伝説』が登場する。

そこで今回のコラムは、『インディ・ジョーンズ』シリーズとは何なのか。何が観客を惹きつけ、何を作品は語ったのか。そして―― ルーカス、スピルバーグ、ハリソン・フォードにとって、インディ・ジョーンズとは何だったのかについて、少しばかり語りたいと思う。

第1作の『レイダース / 失われたアーク《聖櫃》』が全米で封切られたのは、1981年6月12日(日本公開は同年12月5日)である。監督:スティーブン・スピルバーグ&製作総指揮:ジョージ・ルーカスのゴールデンコンビに、主演:ハリソン・フォード。スピルバーグは『E.T.』(82年)の公開前で、一方、主演は『スター・ウォーズ』のスター俳優と、公開時点ではルーカス色が強い印象だった。音楽は巨匠、ジョン・ウィリアムズである。

配給はパラマウント・ピクチャーズで、映画は同社のロゴから実写の山にフェードするシーンから始まる。以後、この冒頭のパターンは同シリーズのお約束になる。タイトルの「レイダース(Raiders)」とは、“侵入者たち”。要は、伝説の「失われたアーク(聖櫃)」を収奪する連中であり、これはインディ・ジョーンズと、ライバルであるナチス(彼らは世界征服のためにアークの力を利用しようと企んだ)双方を指す(だから複数形)。劇中、インディの上司のマークスは「遺物保護国際協定」を唱え、博物館に収める自分たちの行為を正当化するが、古代の人々からすれば、どちらも侵入者に変わりない。この辺のタイトルの付け方は皮肉が効いていて、実に上手い。

笑いのセンスも図抜けている最高傑作はシリーズ第1作


結論から言えば、『インディ・ジョーンズ』シリーズの最高傑作はこの第1作である。物語の舞台は1936年。序盤の “大玉転がし” に代表される遺跡に仕掛けられた数々のトラップの面白さをはじめ、三日月刀を持ったアラブ人剣士を散々煽っておいて、インディが面倒くさそうに銃で一発で仕留めたり(この日、ハリソン・フォードはお腹を壊し、撮影が短縮された結果、この名シーンが生まれたそう)、ゲシュタポのトートが内ポケットからヌンチャクのようなものを取り出し、ヒロインのマリオンを怯えさせたかと思えば、その正体は組み立て式ハンガーだったり―― と、笑いのセンスも図抜けている。

繰り返しかかるジョン・ウィリアムズ作曲のお馴染みの「レイダース・マーチ」も最高だ。どんなにインディがピンチに陥っても、同曲がかかれば、インディは軽やかに危機を脱する。そんなクドいくらいにテーマ曲を多用する演出は、1930〜40年代に流行したB級短編映画 “連続活劇” へのルーカス、スピルバーグ双方のオマージュを思わせる。

極めつけはラストシーンだ。インディが持ち帰ったアーク(聖櫃)を受け取った陸軍情報部は「安全なところに保管してある」と言って、インディらの調査を退ける。映画のオーラス、木箱に入れられたアークは「TOP SECRET」とステンシルで刻字され、老人によって倉庫内を台車で運ばれる。カメラが引くと、そこは地平線まであろうかという広大な空間。あちこちに、同様の木箱が積まれている。お役所仕事、斯くの如し―― という皮肉が効いて、これをオーラスに持ってくるセンスが素晴らしい。この2時間のインディの命がけの奮闘はなんだったのかという壮大なオチである。

1981年、世界で最も稼いだ映画「レイダース / 失われたアーク《聖櫃》」


ところが―― インディは何も得られなかったワケじゃないんですね。ちゃんとお宝をゲットした。それは、昔の恋人―― マリオンとの誤解も解け、“愛を取り戻す” という最高のお宝。いわゆる映画のお約束である、主人公が「大きな獲物」と「小さな獲物」の2つを追い、実は小さな獲物のほうに真の価値があったという、あの法則(傑作と呼ばれる映画は大抵、このWストーリーで成り立ってます)だ。

そんな次第で、『レイダース / 失われたアーク《聖櫃》』は大ヒットした。1981年に世界で最も稼いだ映画になった。そして、早々に続編の製作が決まった。ルーカスは当初からスピルバーグにはシリーズを三部作にする構想を語っていたが、同映画を製作したルーカスフィルムは、パラマウント・ピクチャーズと「シリーズは5作製作する」とぶち上げる。まぁ、『スター・ウォーズ』でも見られたルーカス特有の大風呂敷と思われたが、結果的に42年を費やして本当に5作も製作されるとは、誰が予想しただろう。いや、SWも早々に全9部作とぶち上げ、こちらも42年かけて実現したので、案外有言実行の人である(笑)。



史上最も評価が分かれる映画、第2作「インディ・ジョーンズ / 魔宮の伝説」


ここから先の話は、それほど長くない。

第2作『インディ・ジョーンズ / 魔宮の伝説』は1984年5月(日本は7月)に公開された。面白いことに、舞台は第1作の前年となる1935年と、前日壇だった。ルーカス曰く、第2作も敵役にナチスを出すと、同シリーズがナチスに立ち向かうアメリカンヒーローの話に見られる恐れがあると。彼は1話完結のシンプルな冒険活劇を求めたのである。

しかるに、第2作はインドの奥地を舞台に、邪教集団に奪われた村の秘宝「サンカラストーン」を取り戻す話になった。ところが、これがシリーズきっての問題作となる。物語の大半は地下で進むために視覚的に暗く、食事シーンはおぞましく、ヒロインはやたら騒ぎまくる “ダム・ブロンド” (見栄えはいいが、中身は空っぽな金髪女性)と言われる始末。一方で、シリーズきってのコメディ要素が多く、後半のトロッコシーンが最高に面白いという評判も。同映画が「史上最も評価が分かれる映画」と言われる所以である。

ちなみに、スピルバーグは後に第2作を「シリーズの中で最悪の出来」と評しているが、ヒロインのケイト・キャプショーと本作がキッカケで結婚しており、「監督したことは一切後悔していない」とも。これまた賛否両論である。

僕自身は、本作は、第1作の「昔の恋人とヨリを戻す」や第3作の「父と子が和解する」といったサブテーマがない弱さ(本当に、村の秘宝を持ち帰って喜ばれる!)が今ひとつと思われる反面、シリーズに敵役の多様性を持たせようとしたルーカスの戦略や、理屈抜きに娯楽大作に仕上げたスピルバーグの手腕に敬服している。やはり、僕も賛否両論だ。



第3作「インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦」はシリーズの致命傷なのか?


実は、僕は同シリーズで真の致命傷になったのは、比較的評判のいい次の第3作『インディ・ジョーンズ / 最後の聖戦』だと思っている。同作の舞台は、1938年。第1作の原点に戻り、ナチスを敵役に、今度は「イエス・キリストの聖杯」を探す話である。先にも触れたが、ショーン・コネリー演ずるインディの父親、ヘンリー・ジョーンズとの父子の和解というサブ・ストーリーも描かれている。大人のウィットも多く、傍目には傑作に見える。

しかし―― 同作で『インディ・ジョーンズ』シリーズは、1話完結の冒険活劇から、インディの内面を掘り下げることで、彼のパーソナルな連続劇になったんですね。かつてスピルバーグは「007のような映画を撮りたい」と打ち明け、ルーカスもそれに賛同したが、ジェームズ・ボンドとは、いわば記号的なキャラクター。その内面が掘り下げられることはほとんどない。ゆえに、時代を超えて存在し、様々な人物がボンドを演じる。

一方、奇しくも、そんなジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーを招いた第3作で、『インディ・ジョーンズ』シリーズは主人公の成長物語となり、ハリソン・フォードしか演じられない話になった。『007』になる道を諦め、フォードと心中する道を選んだのである。もっとも、ルーカスもスピルバーグも3部作で終わらせるつもりだったので、それで問題はなかった。



「インディを演じるのはこれが最後」と名言したハリソン・フォード


ところが―― 周知の通り、この第3作から19年後、シリーズ第4作『インディ・ジョーンズ / クリスタル・スカルの王国』が封切られる。ハリソン・フォード、時に65歳。立派な老教授だ。同作でインディは質問した学生に「よき考古学者になるためには、図書館から脱出することだ!」と説くが、かつて彼は講義で「考古学の真理は図書館にある」と説いていた。自分の冒険をよそに、座学の重要性を語るギャップが面白かったのに、これでは自分の行動を正当化するようで、あまりカッコよくない。インディ老いたり―― と思ってしまった。



そして、間もなくシリーズ第5作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が公開される。2012年に、ウォルト・ディズニー・カンパニーがルーカスフィルムを買収したことで、同シリーズの権利がディズニーに移り、ルーカスは降板した。代わってスピルバーグが製作総指揮となり、『フォードvsフェラーリ』のジェームズ・マンゴールドが監督を務める。ハリソン・フォードは「インディを演じるのはこれが最後」と明言する。

もはや、彼の年齢を問うのは野暮だろう。あの第3作で、同シリーズは『007』になる道を諦め、ハリソン・フォードと心中すると決めたのだから。関係者の誰もが、今作をシリーズ最終作と位置付けるのは、そういうことである。

ただ、面白い話がある。

インディ・ジョーンズのモデルの一人でもあるクリント・イーストウッドは2008年、78歳で監督・主演した『グラン・トリノ』で「今作で俳優業から引退する」と宣言したが、10年後の2018年、88歳で自身が監督する『運び屋』に再び主演した。更に2021年、自身が監督する最新作『クライ・マッチョ』に91歳で主演している。

ハリソン・フォードは、まだ80である。

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2023.05.26
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