8月1日

しげの秀一の傑作漫画「バリバリ伝説」荻野目洋子と少年たちの最後の夏

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“鈴鹿8耐”とは、毎年7月末に三重県の鈴鹿サーキットで行われるオートバイ耐久レースの略称である。正式名称を『FIM世界耐久選手権シリーズ “コカ・コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース』(2019現在)という。

この大会は、真夏の鈴鹿を彩るロードレース界の風物詩であり、期間中は観客動員数が鈴鹿市の人口を上回るほどのビックイベントだ。そしてこの “8耐” 決勝前日に行われる大会が「鈴鹿4時間耐久ロードレース」で、こちらはプロ前哨戦に位置付けされるアマチュアライダーの祭典として盛り上がりを見せる。

今回のコラムは、この “バイクの甲子園” と言われる鈴鹿4耐を目指した高校生の、恋と友情の青春群像を描いた漫画『バリバリ伝説』(1983~1991年『週刊少年マガジン』講談社)の第一部から、高校生活最後の夏を巡る17歳の恋模様をリマインドしてみたい。


それでは、バリバリ伝説の主要な登場人物を紹介しよう――
主人公である巨摩群(グン)は、アメリカで仕事をする父と離れ、日本で一人暮らしをする高校2年生。作中でちょっと影がある表情を浮かべるのは、寂しさを内に秘めているからだろう。バイクを飛ばすことが唯一の趣味で、ある早朝の峠道で宿命のライバル聖秀吉(ヒデヨシ)と出会う。

ヒデヨシは、峠道でのバイクテクニックに加え、サーキットでも堅実かつ緻密で無駄のない走法を披露する。ある意味グンを凌ぐもうひとりの天才なのだ。

この二人の才能をいち早く見抜いたのが一ノ瀬美由紀(みい)である。彼女は「イチノセレーシングクラブ」の社長令嬢でありながら、ライダーとしての腕も相当という、負けん気の強いボーイッシュでチャーミングな女の子だ。

そしてグンの友人であり走り屋仲間でもある沖田比呂(ヒロ)。
―― 以上4人の同級生たちに、マスコットガール的な役割を担う一歳下の伊藤歩惟(あい)を含めた5人が、鈴鹿4耐に青春を賭けるのだ。

ここからは久しぶりに読んだバリバリ伝説の、僕がキュンとしてしまった “恋愛萌えポイント” に絞って抜き出してみる。


ある事件を元にグンとギクシャクしてしまった歩惟… それをイチノセレーシングクラブの市川さん(お父さん的存在)に語り始めるシーン――


今のあたしは、あたしじゃない…
つらくてつらくてしかたないんです
こんなことなら気がつかないほうがよかった…
気づくんじゃなかった… グンのことが好きだなんて!
知ってしまったらもう… あのころとはちがう…
あのころみたいにはなれない…


と大粒の涙を零す。このシーン、青春真っ只中って感じがしてすごく好きなんだ。

相手のことを思えば思うだけツライ夜がある。それが若き日の恋である。廊下ですれ違うだけでもドキドキが止まらない高校生の恋は、キラキラとした薄氷のように美しい反面、簡単に壊れてしまう脆さがある。好きが伝わらない… 思うようにならないというもどかしさで不安になるのは、恋が病と称されるゆえんだろう。

ヒロは、みいのことが好きで、グンに「みいのことはどう思ってる?」とわざわざ聞いて、ちょっと牽制するシーンがある。高校生当時、恋愛に関してこういう自分勝手なところ僕にもあったなぁ… なんて、読んでいて恥ずかしくなってしまった。

さらにヒロが思い切ってみいに告白をするシーン。その時みいはグンに憧れていて、ちゃんと答えることができなかった。

揺れる気持ち… 女の子が抱える事情は、単細胞の男の子には通じない。僕もそうだったけれど、好きって言いたいし、好きって言われたい。男の子は特に言葉による確証が欲しくって我慢できないのだ。今の僕であれば「それは自分に自信がないからだよ」と言い切れるけれど、高校生の男の子なんて本当 “お子ちゃま” なんだよね。

時は過ぎ―― 鈴鹿4耐当日… みいとヒロのペア、グンとヒデヨシのペアで決勝に挑む。

レース中盤に転倒して弱気になったみいをヒロが鼓舞するシーンがある。ハッとするみい。これは恋とか好きとかを抜きにしたヒロの優しさだと気づく… そう、心が動いた瞬間だ。そしてレース終盤、自分を追い抜いていくグンの後ろ姿を見つめ、みいは自分の大切にしてきた片思いに終止符を打つ。


あなたは、まるで走るために生まれてきたような男性ね… メキメキ速くなる
わたしよりも高い所へどんどん登っていってしまう
とてもわたしには追えそうにない――
好きというより、あこがれていたの
グン… あなたに…


みいの涙にグッときた。
このあとみいはヒロに「好き」と一年越しの返事をする。この複雑な心境を全然わかっていないヒロは大喜びするけれど、女の子は男の子の何倍も大人なんだよね。

レース終盤、ヒデヨシが妨害され転倒したことで周回遅れになったシーン。タイヤ交換で1分1秒すら惜しい切羽詰まった状況の中で、グンは歩惟に向かって


歩惟、レースはもうすぐ終わる…
そしたらどっか遊びに行こうぜ… そうだ、海がいい
海へ行こう… バイクに乗ってさ…


と、言ってのける。めちゃくちゃカッコいい。これ男でも惚れちゃうシーン。

ヒデヨシとの友情に応えるべく驚異的な追い上げで周回遅れを挽回して、グンは最終コーナーでトップに躍り出る。そして最後の直線で


海だ――!! 第1コーナーのむこうに… 海が見えるっ
かわいた… のどが… かわいた… ぜ


と呟いてチェッカーフラッグ――。このシーン… のちに海外へ歩惟を一緒に連れて行くという伏線であって、初めて歩惟と一緒に行った海の出来事を回収するというふたつの意味を持つ最高の演出なのだ。まさにベストシーン。


さて、このバリバリ伝説は、オリジナルビデオアニメとして『PartⅠ 筑波篇』『PartⅡ 鈴鹿篇』の2作品が映像化され、さらにこれを再編集した劇場版が1987年8月1日に公開された。そのエンディング主題歌「少年の最後の夏」を歌ったのが、当時アイドル絶頂期の荻野目洋子で、物語のヒロイン伊藤歩惟の声も担当している。

エンドロールでかかる「少年の最後の夏」は、割と明るめでアップテンポな曲だけれど、その曲調とミスマッチなくらい歌詞の内容は重い。


 新聞の片隅に7行のニュースで
 あの子の青春が終る


これは、ヒデヨシが鈴鹿の激戦後にグンと走った峠での最期を思わせる部分であり、当時話題になっていたローリング族への警鐘でもある。作者であるしげの秀一も作品の中で峠道の怖さを幾度となく描写している。

確かに僕の通った桶川高校(埼玉県)は、バイク禁止だった。埼玉県は事故率も高くバイクに関して特に厳しかったのだ。80年代はブラックエンペラーを筆頭に暴走族もまだまだ沢山存在して、危険運転が今以上に問題視されていた時代だったことを思い出す。そういったことにもこの漫画は一役買っていたのだ。

さて、バリバリ伝説の恋模様について延々語ってきたけれど、最終的に僕は一ノ瀬美由紀が大好きなのだ。

作中、彼女だけがまったくブレることなくグンを見つめていて、それでいて最後しっかりと自分の気持ちにけじめをつけた。歩惟がグンに好意を抱いていることに気づいていながら、自分の気持ちは周囲に悟られないという、ちょっぴり大人な部分も実にカッコいい。本当、惚れてしまった。

おっといけない… つい17歳の気分になっていたようだ。でもそれがリマインダーの良さだと思う。これを読んだあなたも、すでに気持ちは17歳のはず… だよね。

2019.06.11
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カタリベ
1967年生まれ
ミチュルル©︎
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