この間、サントラアルバム『フットルース』のことを書いていたら、国内でカバーされた楽曲が多かったことを思い出した。「ヒーロー」は麻倉未稀、「ネヴァー」はMIEの歌唱によって、そこそこのヒットになっていたが、これらに共通しているのはいずれもある一連のドラマシリーズ主題歌だったことだ。 そう、80年代に一世を風靡した『大映ドラマ』シリーズである。 しかし、このドラマシリーズの主題歌となった曲について書いてみませんか、とのお題をいただいた時、真っ先に思い出したのは、それらとは全く別の曲、椎名恵の「今夜はANGEL」であった。 「今夜はANGEL」…… 銀蠅一家じゃあるまいし、なんてダサいタイトルなんだろう、というのが第一印象だった。そもそもカバー曲というのは、時折原曲とかけ離れたおかしな訳詞で歌われることがあるので、洋楽ファンとしてはしばしば悲しい思いをすることがある。 「In the NAVY~♪」が「ピンクレィディ~♪」になったり、近いところだと「あなたはアジアのパーピヨン♪」なんてのはジャネット・ジャクソン側からクレームが入ったというから(後に容認)、まさにその類だろう。 原曲はかの映画『ストリート・オブ・ファイヤー』のヒロイン、ダイアン・レインが劇中で唄う「Tonight is What It Means to Be Young」だが、邦題はというと「今夜は青春」と、これまたダサい(笑)。 しかし映画はというと主役のマイケル・パレのカッコよさにもシビれたが、映画の主題歌ともいえるこの楽曲がダイアンのステージシーンで使われ、これがめちゃめちゃカッコよかった。 そして椎名恵。 当代カバーの女王といえば「レリゴ~♪」以来、May J.の代名詞みたいになっているが、この後にオリビアの名曲「そよ風の誘惑(Have you Never been Mellow)」やシャーリーンの「愛はかげろうのように(I've Never Been to Me)」のカバーでヒットを飛ばした彼女こそ、当時そう称されるに相応しい存在であった。 大映ドラマの代表作『ヤヌスの鏡』の主題歌となったこの曲は、そんな彼女のデビュー曲でもあったのである。 ヤヌス?… 怪しげなタイトルから邪推が横行したこのドラマには、実はちゃんとした原作の漫画があり、アイドル(杉浦幸)に不良少女を演じさせるという大映ドラマお得意のパターンを踏襲して大ヒット。素晴らしい原曲と原作のおかげで “ダサいタイトル” “奇妙なタイトルのドラマ” “主演が新人アイドル” といった三重苦? を乗り越え、椎名恵は幸運なデビューを飾ることができた。 ところで、彼女のカバー曲にはある特徴がある。それは、すべての楽曲の訳詞を彼女自身で行っているということだ。 それまで洋楽カバーの訳詞といえば、大方、湯川れい子か奈良橋陽子というのが定番だったが、さしづめ彼女は当時は珍しいシンガーソングトランスレーターだったといえるだろう。 彼女が手がけた「今夜はANGEL」は、オリジナルの歌詞を大切にし、彼女なりの解釈を加えた佳曲であり、国内の一部ファンからは原曲を超えたとさえいわしめた。“ダサいタイトル” とはいささか言葉が過ぎたが、彼女に関してはカバーの出来でがっかりさせられることはなかった。そういう意味では、今をもって彼女こそがカバーの女王といえると思うのだ。
2016.10.22
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