7月25日

時は1987年― 稀代の天然美少女・森高千里に多くの実力あるミュージシャンが集結した理由

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地元のガールズバンドでドラムを担当していた森高千里


ガールズバンドで一番可愛いコはドラムである。

―― 僕が、常日頃から唱える音楽界の定説(セオリー)だ。セオリーと言っても、ちゃんとリサーチしたワケじゃない。というか、思い当たるサンプルは一人しかいない。

森高千里サンだ。よく知られた話だが、彼女はデビュー前―― 地元・熊本県の女子高時代、ガールズバンドを組んで、ドラムを担当していた。よくレベッカをコピーしていたそう。そして―― 以前、僕が当リマインダーに書いたコラム『誰あろう、森高千里。その最高傑作はデビュー曲「NEW SEASON」である』でも触れた通り、当時から「熊本市内で一可愛い女子高生」として、地元ではちょっと知られた存在だった。

まぁ、ガールズバンド自体、まだ珍しかったし、熊本市内の有名ライブハウス「ペパーランド」(後に森高サンのアルバムタイトルにもなった元ネタである)でライブをしていたぐらいだから、学外でも割と知られた存在だったのだろう。1つだけ確かなのは、僕も当時の森高サンを一度だけお見掛けしたことがある(※先のコラム参照)けど、彼女はデビュー前の “一般人” の時代から、既に誰もが認める美少女だった。

探せば、YouTubeでも見られると思うけど、彼女が高校2年の夏に受けた、大塚製薬主宰のオーディション「第1回ポカリスエット・イメージガールコンテスト」でグランプリを受賞した際の映像がある。見ると、もう彼女のビジュアルは完成している。他の応募者の方々には申し訳ないが、天性の顔立ちと言おうか、アタマひとつ抜けている。

じゃあ、なぜそんなスーパー美少女がボーカルではなく、バンドの後方でドラムを叩いていたのか。これだ。これが本コラムを僕が書くに至った動機でもある。絶世の美少女、森高千里とは、そもそも何者だったのか。それを紐解く鍵が、彼女のデビューシングルと同名タイトルのファーストアルバム『NEW SEASON』にあると、僕は見ている。奇しくも今日、7月25日は、今から36年前の1987年に同盤が発売された日にあたる。

明確なシティポップだった「涙 Good-bye」


 涙 Good-bye 街にバイバイ
 こころ つぶやいたの
 やさしさも かなしみも
 みんな忘れないわ
 思い出と街並にキスを
 See You Again

アルバム『NEW SEASON』のオープニングを飾るのは、「涙 Good-bye」だ。作詞:菅野真吾、作曲:山本拓巳。作詞の菅野サンは、後にオルケスタ・デ・ラ・ルスの2代目リーダーになるカルロス菅野さん。当時、作曲の山本サンともども「WISE」なる音楽ユニットに所属しており、同盤がリリースされる少し前、わたせせいぞう原作のアニメ『ハートカクテル』(日本テレビ系)のテーマ曲「グラスに指輪」を作ったのが、この2人だった。彼らの作る楽曲は都会的な匂いがすると評判だった。

そう、「涙 Good-bye」は明確なシティポップだった。イントロはなく、森高サンの歌声から始まるが、一聴して受ける印象は、洗練されたメロディの美しさと、歌声の可愛さだった。後にブレイクして以降は、やや鼻にかかった独特の歌い方になるが、このデビュー当時はクセのない素直な歌い方。ややキーが高く、透明感がハンパない。もう、声から “100%の美少女感” が伝わる。

恐らく、同曲をオープニングトラックに持ってきた理由は、WISEの持つ空気感を生かし、同盤を “都会的なシティポップ” に仕立てようとしたのではないか。実際、デビューシングルであり、同盤のタイトルチューンでもある「NEW SEASON」からして、洗練された街の匂いがした。

作詞:HIRO、作曲:斉藤英夫。HIROは後にSPEEDをプロデュースする伊秩弘将サンの別名義で、斉藤サンは後に「私がオバさんになっても」、「渡良瀬橋」、「二人は恋人」など数多くの森高ソングを手掛けた御仁。同盤が描く街―― 端的に言えば、それは “東京” だった。

凛とした美少女ぶりが評判になっていた森高千里


思えば、1980年代はパリでもニューヨークでもなく、東京の時代だった。前半はまだ、70年代後半から続く西海岸ブームを引きずっていたが、アルバム『NEW SEASON』がリリースされた1987年ごろになると、バブルの足音も聞こえ始め、東京が世界のトレンドになった。88年にビッグコミックスピリッツで始まった柴門ふみの連載漫画のタイトルは『東京ラブストーリー』だった。

時に森高サンは18才――。前年冬に熊本から上京して、堀越高校へ編入。既にポカリスエットのCMには数本出演し、その凛とした美少女ぶりが評判になっていた。CMでは、ちょっとトボけた味わいの糸井重里サンを支える、しっかりものでクールな助手という印象。特段、熊本色やローカルな出身は売りにしていなかった。

映画「あいつに恋して」の主題歌「NEW SEASON」


そして、高校3年に進学した1987年5月25日―― シングル「NEW SEASON」でデビューする。同曲は、彼女もヒロインで出演した映画『あいつに恋して』(監督:新城卓)の主題歌だった。風見慎吾サン演じる主人公の青年が、道産子馬を連れて北海道から九州まで日本縦断の旅をするロードムービー。「第1回ポカリスエットムービーキャラバン」と、大塚製薬肝入りの作品だったが、第2回がなかったところを見ると、まぁ、そういうことなのだろう。

幸い、森高サンはそんな映画の “被弾” をそれほど受けず、デビュー曲はオリコン23位とスマッシュヒット。その2ヶ月後に発売されたのが、本コラムのテーマ―― 同名タイトルのファーストアルバムだった。ここまで見るに、彼女にかけられた周囲の期待は大きく、多くの大人たちが動いたのは容易に想像できる。シングルとアルバムの両タイトルになった「NEW SEASON」――“新しい季節” からして、既存のアイドルの枠に収まりたくない意気込みを感じる。



実際、前年の86年は “放課後の女子高生” がコンセプトのおニャン子クラブの旋風が吹き荒れ、小泉今日子がアイドルをパロった「なんてたってアイドル」をリリースするなど、もはやアイドルのレーゾンデートルは瓦解。業界関係者は皆、次の一手を探していた。

多くの実力ある音楽家たちが集結したアルバム「NEW SEASON」


アルバム『NEW SEASON』―― いや、稀代の天然美少女・森高千里に、多くの実力ある音楽家たちが集結したのはそういう事情である。名曲「林檎酒のルール」など2曲を作詞した高柳恋サンは、後に小柳ゆきの「あなたのキスを数えましょう 〜You were mine〜」をロングヒットさせた実力者。同盤で最も人気が高い曲の1つ「あの日のフォトグラフ」の作・編曲者の島健サンに至っては、後にサザンオールスターズの「TSUNAMI」や浜崎あゆみの「Voyage」も手掛ける、編曲界の超大御所である。

思うに、80年代の音楽界は、一般的な知名度は別として、そんな実力ある作詞・作曲・編曲家や、スタジオミュージシャンなどを数多く抱える潤沢な業界だった。特に期待値の高い新人アイドルなら、ある程度の予算を組めば、彼らを自在にスタッフィングできた。そして、そんなアルバム『NEW SEASON』を統括するディレクターこそ、今やアップフロントグループの社長で、当時、ワーナー・パイオニアで辣腕をふるった瀬戸由紀男サンだった。思いは1つ。この最高の素材(森高千里)をより輝かせる最高の楽曲を求む――。

アーティストはファーストアルバムが最高傑作


俗に、「アーティストはファーストアルバムが最高傑作」という説がある。例えば、尾崎豊は生涯6枚のスタジオアルバムを残したが、今もって最高セールスは、「15の夜」や「十七歳の地図」、ドラマ主題歌にもなった「I LOVE YOU」や「OH MY LITTLE GIRL」が収められたファーストアルバム『十七歳の地図』である。

それは多分に、ファーストアルバムは、当人のそれまでの人生を投じた1枚。2作目、3作目とバックボーンとなる時間軸が違いすぎるのが一点。そして、もう一点が―― 経験値に勝るディレクター(プロデューサー)の存在だった。いわば集合知とでも言おうか。1作目だからと、DやPを通じて多くの職人たちが集い、新人アーティストを盛り上げようと図る。実際、尾崎の『十七歳の地図』の半分は、CBSソニー(当時)の須藤晃プロデューサーの功績と言われる。

その構図が最も可視化されるのが、アイドルだろう。アイドルの魅力を最も知る人物は、当の本人よりも、近くにいるディレクターやプロデューサーである。例えば、中森明菜をデビュー時から育てたワーナー・パイオニア(当時)の島田雄三プロデューサー。かつて彼は、泣いて拒否する明菜に、『この子には魅力的な二面性がある』といち早く見抜いて、強引にある楽曲をレコーディングさせた。―― 後の「少女A」である。

森高千里の魅力とは?


では、森高千里の魅力は何だろう。

―― 僕は、“普通” だと思う。熊本市内で一番可愛い女子高生と言われながらも、彼女は舞い上がらず、高飛車にもならず、終始普通だった。だから、ガールズバンドでボーカルではなく、ドラムを担当した。但し、人間、普通が一番難しい。彼女の場合、誰もが羨む美貌ゆえに、変にひねくれずに真っすぐに育ったのもよかったのかもしれない。

そこで、前述のワーナー時代の瀬戸由紀男サンは、そんな彼女の等身大の魅力をリスナーに届けたいと、変に楽曲で色づけするのを嫌ったのではないか。だから、同アルバムには当代一流の作家たちによる、普遍的なシティポップの名曲が集められた。そして18才の森高サンは、実に素直にそれらを歌った。歌に色が入っていない分、リスナーたちは思い思いに想像の翼を広げた。僕は、4曲目の「WAYS」(作詞:福永ひろみ、作曲:津垣博通)を聴いた時、まるでジュブナイルのSF映画の1シーンを見ているような不思議な感覚を覚えた。

ちなみに、僕は、どの時代の森高千里が好きかの議論になった時、迷わずこう答えることにしている。

―― 18才。

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2023.07.25
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カタリベ
1967年生まれ
指南役
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