―― MTV篇からのつづき
―― さて、MTVがいくら革命的で影響力があったとしても、視聴世帯の数でいったらまだまだ新参のケーブルテレビ・チャンネル。三大ネットワーク ― NBC、CBS、ABC の持つリーチには到底かないません。
そんな中、マイケルのもとにNBCの特別番組として企画されていた『モータウン25周年記念コンサート』の出演依頼が舞い込みます。番組の狙いはズバリ、8年ぶりのジャクソン5再結成。当然、アルバム『スリラー』とは何の関係ありません。
マイケルは悩みます。
レジェンドを称え、古巣に恩も返したい…
でも、新しい自分こそ見てほしい…
最終的に、モータウンの創始者であるベリー・ゴーディと2人きりの話し合いを持ち、出演を承諾するわけですが、そこでマイケルの出した条件は…
「ビリー・ジーンを歌わせて欲しい」
ゴーディからすれば、自社(モータウン)の記念式典で、他社(CBS/EPIC)の新曲がプロモーションされるわけです。損得勘定以外の忸怩たる思い、心中察するに余りあります。それでも、この偉大なるプロデューサーはマイケルを受け入れ、新しい航海にふさわしい最高の舞台を整えるわけです。
恐らく、相手がゴーディでなければ、マイケルもそんな条件は出さなかったかもしれません。そこには、他の誰もが入りこめない、確執を超えた2人の絆があったんじゃないか。なーんてこと考えると、音楽を聴くのがますます楽しくなってきますね。
1983年5月16日、この模様はNBCのネットワークを通じて全国放送され、3,400万ものアメリカ人がチャンネルを合わせたと云われています。そう、もうお分かりですね。そこでマイケルが披露した僅か数秒のパフォーマンス。それこそが、あのムーンウォークの初お目見えだったのです。
そもそもムーンウォークとは、バックスライドと呼ばれるダンス技法のひとつで、古くから披露されているオーソドックスなワザ。それ自体は珍しいものでもありません。
それでも、機は熟していました。
折しも時代はヒップホップの成長期。俗にいうブレイクダンスが、ストリートの若者たちの間で大流行していたのです。マイケルは、この伝統と新しさを併せ持ったステップに「ムーンウォーク」と名前を付け、一世一代の場所で勝負に出たのです。
奇しくも放送の1ヶ月前はチャレンジャー号の初飛行。スペースシャトル計画における初の宇宙遊泳が成功し、世界中が夢踊る、ステキな月面歩行のタイミング。
―― 時代の神様は、またまた微笑みました。
2017.12.01
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