1980年代はそれほど多くなかったエールソング
毎回、時季を得たテーマに基づく選曲でお送りしている歌謡ポップスチャンネルの『Re:minder SONG FILE』。2026年最初の放送は『80'sアイドルが歌うエールソング』をお届けする。
年が改まって心機一転、新しい物事を始める季節にふさわしいテーマだが、エールソングが氾濫している昨今とは異なり、1980年代はそれほど多くなかった。好不況の波はありながらも、基本的には右肩上がりの経済で、“明日は今日よりも良くなる” と信じられた時代背景もあっただろう。明日が見えない不安のなかで自分を鼓舞したり、自己評価の低い人に “あなたはかけがえのない存在” というメッセージを送ったりする歌よりもラブソングが中心だったのだ。
とはいえ、頑張っている人を応援したいとか、自分を奮い立たせたいという感情はいつの時代もある普遍的なもの。近年は心理描写に重きを置いて、自分の想いをひたすら綴った歌が人気だが、1980年代は相手との関係性やエールを送る場面など、シチュエーションを具体的に描いた楽曲が多かった。今回はそのなかから12曲のエールソングをお楽しみいただく。
藤谷美紀、学園ソングの第2弾「応援してるからね」
番組はタイトルからしてそのものズバリの藤谷美紀「応援してるからね」(1988年)で幕を開ける。野球部でレギュラー入りを目指す “君” に心の中で「♪応援してるからね」と呟く、少女の切ない片想いを歌った楽曲だ。1987年に開催された『第1回全日本国民的美少女コンテスト』でグランプリを獲得し、映画『ラブストーリーを君に』で芸能界入りした藤谷は当時14歳。本作はデビュー曲「転校生」に続く学園ソングの第2弾で、ノンタイアップながらオリコン最高17位のスマッシュヒットを記録した。
担当ディレクターは中森明菜を皮切りに、吹田明日香、倉沢淳美、加藤香子、杉浦幸、畠田理恵など、ワーナーパイオニア(ワーナーミュージック・ジャパン)の女性アイドルを多数手がけた島田雄三。本作では明菜プロジェクトで手腕を発揮した売野雅勇(作詞)、林哲司(作曲)、瀬尾一三(編曲)を起用しており、勝負をかけたことが窺える。

三原順子が歌う青春讃歌「Let’s Go 青春」
2曲目の「Let’s Go 青春」(1980年)は三原順子(現:三原じゅん子)が “JUNKO & CHEER LEADERS” 名義でリリースしたセカンドシングル。初主演ドラマ『GOGO!チアガール』(TBS系)の主題歌で、文字どおり聴く者をチアアップする青春賛歌だ。
TBS系ドラマ『3年B組金八先生』の不良中学生役でブレイクした三原は歌手デビュー後もクールで大人びた路線を踏襲。リズムに乗って「♪虹をめざし 歩いてゆこう」と呼びかける本作は趣を異にする作風だったが、「♪ビビるな青春」と喝を入れるフレーズには『金八』で演じたツッパリ少女らしさが表れていた。
松田聖子「チェリーブラッサム」のB面曲「少しずつ春」
続く「少しずつ春」(1980年)は松田聖子の第4弾シングル「チェリーブラッサム」のB面に収録された自分へのエールソング。 “今は寒い2月だけれども、春になればあなたと私の愛が咲くでしょう” という内容を歌うロックテイストのナンバーだ。
A面同様、明るい未来を感じさせるポジティブな世界観は自己肯定感の強い松田聖子の真骨頂と言える。作家陣は初期作品の多くを手がけた三浦徳子(作詞)、小田裕一郎(作曲)、大村雅朗(編曲)のゴールデントリオによるもので、シングルではこれが最後のタッグとなった。

竹内まりやが手がけた薬師丸ひろ子のエールソング「元気を出して」
4曲目の薬師丸ひろ子「元気を出して」(1984年)は恋に破れた友達を「♪チャンスは何度でも 訪れてくれるはず」「♪人生はあなたが思うほど悪くない」と優しく励ますミディアムバラード。女性同士の友情を描いた当時としては異色の楽曲だが、作詞・作曲を手がけた竹内まりやは、ジェームス・テイラーと離婚したカーリー・サイモンの傷心ぶりに心を馳せたことが創作の動機となったという。
薬師丸にとって初のオリジナルアルバム『古今集』に収録された本作はシングルにはならなかったものの、アルバムのリード曲としてオンエアされたほか、のちに竹内がアルバム『REQUEST』(1987年)でセルフカバーし、シングルカットもしたことから広く浸透した。その後も島谷ひとみ(2003年にシングル化し、『第54回NHK紅白歌合戦』でも歌唱)、岩崎宏美、徳永英明、福山雅治など、多くのアーティストによってカバーされ、スタンダードソングとなっている。
「日本レコード大賞」の編曲賞を受賞した小泉今日子「100%男女交際」
さて、次の2曲はビクターから同時期にリリースされたエールソングをセレクトした。小泉今日子「100%男女交際」とTHE GOOD-BYE「YES!YES!! YES!!!」(ともに1986年)である。
「100%男女交際」は「なんてったってアイドル」のヒットを受けてリリースされた18作目のシングル。ディレクターの田村充義(スペクトラム、とんねるず、広瀬香美、ポルノグラフィティなど多くのアーティストを担当)は、松下電器(現:パナソニック)のCMソング「♪明るいナショナル」のイメージで、サビは「♪明るい男女交際」を連呼したい、との依頼を作詞の麻生圭子にしたという。
リリース当時は、連続ドラマ『金曜日の妻たちへ』3部作(TBS系)や、メリル・ストリープとロバート・デ・ニーロが共演した映画『恋におちて』が描いた不倫がメディアを賑わせていたが、本作はあえてその逆を狙った青春ソング。最後の「♪Hooray Hooray 青春」の応援フレーズは、レコーディング時に田村の提案で即興的に入れたものだった。作曲はヒットメーカーの馬飼野康二、緻密なアレンジで腕を振るった山川恵津子は本作で『日本レコード大賞』の編曲賞を受賞している。

ポジティブなメッセージが散りばめられているTHE GOOD-BYE「YES!YES!! YES!!!」
「YES!YES!! YES!!!」はTHE GOOD-BYE9作目のシングルで、作詞を野村義男、作曲を曾我泰久が担当したロックンロール。愁いを帯びたメロディに「♪かたいカラにとじこもるな」「♪今をごまかすな」「♪I love you so Nice!!」といったポジティブなメッセージが散りばめられている。
曾我はブルース・スプリングスティーンの初来日公演に刺激を受けて本作を作曲。バンド合宿に向かう直前にメロディを渡された野村はクルマの中で一気に歌詞を書き上げたという。ちなみに野村はレーベルメイトの小泉のプロジェクトにも参加しており、彼女のシングル「キスを止めないで」など複数の楽曲を提供しているほか、アレンジや演奏にも関わっている。
菊池桃子が「ザ・ベストテン」で初めて1位を獲得した「Say Yes!」
7曲目の「Say Yes!」は菊池桃子9作目のシングルで、彼女にしては珍しく、アップテンポでメジャースケールのエールソング。作家は「応援してるからね」と同じ売野雅勇(作詞)と林哲司(作曲・編曲)のコンビで、TBS系『ザ・ベストテン』で初めて1位を獲得する代表曲となった。
売野いわく、創作のきっかけは菊池のプロデューサーでもあった林から、若者や世間に向けてメッセージを送りたいという相談を受けたこと。そこからジョン・レノンとオノ・ヨーコの出会いのエピソード(ロンドンの画廊で開催されたヨーコの個展に立ち寄ったジョンが、天井に飾られた絵を虫眼鏡で覗くと小さな文字で “YES” と書かれていたことに感激したというもの)を思い出し、いろんなものを肯定する歌詞を書きあげたという。

甲子園の入場曲にも採用された酒井法子「夢冒険」
8曲目の酒井法子「夢冒険」(1987年)はNHKアニメ『三銃士』の主題歌に起用された4作目のシングル。翌年開催の『第60回選抜高校野球大会』の入場行進曲にも採用され、代表曲のひとつとなった。ディレクターの髙橋隆(「走れコウタロー」で知られるソルティー・シュガーの活動を経てビクターに入社)はこの曲を担当するにあたって、酒井のキャラクターを “教室の隅っこにいて男の子を励ますタイプ” に設定。「♪そんな君の傍 見守ってたい」と歌う本作はそのイメージを具現化した楽曲と言えるだろう。
終盤は1985年デビュー組、浅香唯、森川美穂から
終盤は、ともに “1985年デビュー組” で麻生圭子が作詞を手がけた2人の歌からスタートする。まずは浅香唯「Believe Again」(1988年)、そして森川美穂「Be Free」(1988年)だ。
前者は浅香の主演映画『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』の主題歌に起用された9作目のシングルで、オリコン2位をマークしたヒットチューン。逆境のなか「♪失くすものさえない今が 強くなるチャンスよ」「♪信じることが大事ね ツライ夜は 長く 続かない」と歌う自律のメッセージが込められた楽曲だ。
後者は森川のパワフルなボーカルが冴えわたる8作目のシングルで自身がパーソナリティを務めるラジオ番組『森川美穂の青春放送局』(東海ラジオ)で、リスナーが一歩を踏み出すきっかけになればとの思いから制作された。ファンから “みほねえ” と慕われる姉御肌の森川らしく、厳しいながらも愛のある、本音の言葉が溢れた本作はオリコン21位まで上昇。当時の彼女は他にも「PRIDE」や「チャンス」など、あまたのエールソングを次々とヒットさせ、アイドルからガールポップの旗手へとシフトしていく。

南野陽子の歌手としての成長を感じさせる「思いのままに」
続く「思いのままに」(1989年)を歌った南野陽子も1985年デビュー組のひとり。9作目のアルバム『GAUCHE』(フランス語で不器用の意)のエンディングを飾るこの曲は、彼女が2年連続(1989年、1990年)でチャリティー・パーソナリティを務めた日本テレビ系『24時間テレビ 愛は地球を救う』の中で歌われたこともあって、多くの耳に届くことになった。
失敗に打ちひしがれた彼に「♪思いのままに生きよう あなたの他にあなたはいないの」と呼びかける慈愛に満ちたバラードを、ナンノは歌手としての成長を感じさせる柔らかなボーカルで歌唱。本人もお気に入りの1曲で、1990年発売のシングル「耳をすましてごらん」のカップリングにはオーケストラによる壮大なアレンジの新バージョンが収録された。
西城秀樹がアスリートを讃えるエールソング「俺たちの時代」
そして大トリはこの人、西城秀樹の「俺たちの時代」(1980年)に任せることにした。前年の「YOUNG MAN(Y.M.C.A.)」のメガヒットで頂点を極めた西城はこの年、モスクワで開催された夏季オリンピックの日本人選手応援歌を歌うことに決定。青春賛歌とも言える「YOUNG MAN」や「ホップ・ステップ・ジャンプ」をヒットさせた実績を買われてのキャスティングだった。
国家的イベントということもあり、歌詞は雑誌『月刊平凡』で公募されたものをもとに、たかたかし(「情熱の嵐」「薔薇の鎖」など多くのヒット曲の作詞を担当)が補作。作曲は「ホップ・ステップ・ジャンプ」を手がけた水谷公生で、晴れの舞台に臨むアスリートを讃えるエールソングが完成した。残念ながら、政治的事情で西側諸国がモスクワ五輪をボイコットしたため、オンエアの機会は多くなかったが、高らかに歌い上げるヒデキのボーカルを聴けば、きっと勇気が湧いてくることだろう。以上、12曲。年の始めに本プラグラムで是非エネルギーをチャージしていただきたい。
ココロ躍る音楽メディア「Re:minder」がテーマを決めて珠玉のソングファイルをお届け。

▶︎ 放送局:歌謡ポップスチャンネル
▶︎ 放送日時:
・2026年1月28日(水)24:00〜25:00
・2026年2月05日(木)24:00〜25:00
▶︎ 今月のソングファイル
♪ 応援してるからね / 藤谷美紀
♪ Let's Go 青春 / JUNKO & CHEER LEADERS
♪ 少しずつ春 / 松田聖子
♪ 元気を出して / 薬師丸ひろ子
♪ 100%男女交際 / 小泉今日子
♪ YES! YES!! YES!!! / THE GOOD-BYE
♪ Say Yes!/ 菊池桃子
♪ 夢冒険 / 酒井法子
♪ Believe Again / 浅香唯
♪ Be Free / 森川美穂
♪ 思いのままに / 南野陽子
♪ 俺たちの時代 / 西城秀樹
▶︎ 番組ページ:Re:minder SONG FILE
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2026.01.18