さて、3回にわたってお届けしたこのシリーズもついに最終回です。
その前に朗報です。この原稿のネタ本でもある梶田昌史・田渕浩久『作編曲家 大村雅朗の軌跡1951-1997』(DU BOOKS)が重版となり、「第2刷」が発売されました。そして初版に比べて、巻末の「大村雅朗 編曲作品一覧」が大幅に増補されたとのことなので、マニアの方は「第2刷」もぜひお買い求めください。
時代は「大村雅朗黄金時代」とも言える、80年代中盤に移ります。この時期における、大村雅朗編曲の「極私的ベスト3」と言えば、こうなります。
■1984年9月21日発売
大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」
(作詞:銀色夏生、作曲:大沢誉志幸)
■1985年1月11日発売
吉川晃司「You Gotta Chance~ダンスで夏を抱きしめて~」
(作詞:麻生圭子、作曲:NOBODY)
■1986年1月22日発売
渡辺美里「My Revolution」
(作詞:川村真澄、作曲:小室哲哉)
84年・85年・86年という「80年代の中盤」、1年おきの発売となっています。しかし発売日をよく見ると、84年の秋から86年の初頭までと、1年半に満たない集中具合です。前回触れた、松田聖子との刺激なコラボレーションを経て、この短い間に、自分の編曲世界を一気に確立したということでしょう。
また、作詞家・作曲家は見事にバラバラ。大沢誉志幸というシンガー自身が作曲しているのもあれば、当時まだまだ無名だった小室哲哉まで、相手が誰であれ、自らの世界を強く押し出す能力と自信を、大村雅朗が既に備えていたということだと思います。
そして、大村雅朗の強い個性が横溢した編曲であることが、この3曲に通底する、何より最大の共通点です。強烈に主張する、キラキラしたデジタルサウンド。歌詞よりもメロディよりも、編曲そのものが曲の顔となっています。
とは言え、個人的な趣味性に走っているわけではなく、むしろ、異常なまでに大衆的な音になっていて、だからこそ、これらの曲は実際にチャートを賑わし、結果、大村雅朗サウンドが時代の音となったのです。
この3曲によって、「突き詰めた」「やり切った」思いが募ったのではないでしょうか。個人的意見として言えば、80年代後半になると、大村雅朗の編曲世界が、ややボヤけていく感じがしたものです。
『作編曲家 大村雅朗の軌跡1951-1997』の前作とも言える、川瀬泰雄・吉田格・梶田昌史・田渕浩久著『ニッポンの編曲家 歌謡曲 / ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち』(DU BOOKS)によれば、晩年の大村には、スタジオで考え込む姿が見られたそうです。「仕事がつまらない。なぜ日本の曲はつまらない曲ばかりなんだ」とよく話していたとも。
そう考えると、「そして僕は途方に暮れる」「You Gotta Chance」「My Revolution」という「完成形」の大村雅朗作品もさることながら、そこに至る「進行形」の大村作品が、いよいよ愛しく思えてくるのです。
では、大村雅朗を「極私的」に捉えたシリーズの最後の最後に、この曲を紹介しておきます―― 岩崎良美「恋ほど素敵なショーはない」。作詞:売野雅勇、作曲:梅垣達志、編曲:大村雅朗。1983年1月21日発売。
日本歌謡史でほぼ類を見ない「ミュージカル歌謡」。梅垣達志のメロディは、映画『ウエスト・サイド物語』のレナード・バーンスタイン作曲「トゥナイト」のように、奇抜な転調を繰り返し、それを、「1979年の大村雅朗」が得意としていた、優美なアコースティックアレンジがやさしく包んでいます。そんな音をバックに、暑苦しくなくさらっと歌い上げるシンガー・岩崎良美の底力。
―― 岩崎良美の「恋ほどステキなショーはない」こそ名曲である。なあんて偉そうに言いきってしまうが、ワシはこれ好きなのだ。なんつったってアレンジ見事にメロ最高。でも歌詞はというと、あまりどうでもいい……。だから良いのかもしれないし、良美選手のヴォーカルまで含めるとホンマ見事なポップスに仕上がっとるなと思うんだ(本文ママ)。
と、激賞するのは、当時まだ27歳の桑田佳祐。「完成形」に至る「進行形」の大村雅朗によるアレンジが、こちらもまだ「進行形」だった桑田佳祐の心を、強く揺さぶったということに疑いはありません。
「恋ほど素敵なショーはない」、ぜひご一聴ください。また。『作編曲家 大村雅朗の軌跡1951-1997』の「第2版」もご一読を。「スージー鈴木の極私的大村雅朗ヒストリー」は、これにて終わりです。
ありがとうございました。
2018.08.10
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