僕の音楽「初体験」は全てクイーンだ。 初めて CD を買ったアーティスト、初めてライブに行ったアーティスト(クイーン+ポール・ロジャース)、そして何より「初めてロックの魅力に僕を教えてくれた」アーティストである。 クイーンとの出会いがなかったら… と想像すると、自分のアイデンティティが否定されるようで空恐ろしい。中学校の同級生は僕がもはや懐かしの「ポータブル CD プレーヤー」で CD を聴きながら、いつもフレディの真似をしていた恥ずかしい過去を脳裏に焼き付けているという。彼にとって僕といえばクイーンだった。むさ苦しいほどの愛が伝わるだろうか? そして、実はそんなクイーン愛が初めて僕を連れて行ってくれた場所がある。「レコードストア」である。 2000年代初頭の話である。まだ街にはいかにも「玄人以外お断り」とでもいうような厳しい店主のいるレコード屋があった。近年の、若者の間でのレコード人気などなかったので、その「玄人感」にはつい尻込みしてしまっていた。クイーン関連の本を読み込んでいた平成生まれの僕は、「クイーンのレコードが欲しい!!」という思いが強くなっていたので、蛮勇を振るいレコード屋なるものに初めて足を踏み入れた。 小さなレコード屋だった。夕日がブラインド越しに入ってきて、ずらりと大きなジャケットが並んでいる。詰襟の学生服を着た僕の挙動を、神経質そうな店主が見守っている。冷や汗が出てくる。クイーン以外のアーティストを知らない13歳の少年は、必死に「Q」の欄を探した。 それは、あった。 雑誌でしか見たことのない「帯」のついた日本盤がそこにはあった。思わず「おおお」と声を出してしまった。しかし、どうやって触れば良いかわからない。未知との遭遇である。 上の部分を掴んで、引っ張りあげてみた。なんて重いんだ! 気になるのは店主の目。一回棚から出したものの、どう元に戻せば良いかがわからない。手は汗で滲んでくるし、僕は偶然手にしたその大好きなアルバム『ザ・ワークス』をレジへ持って行った。 試練は重なるものである。検盤と視聴が待ち受けていたである。僕の前に大きな12インチレコードが置かれた。触ったこともない、どうやってこの大きな黒くて丸いものから音が出るのかもわからない。「あ、大丈夫です」としか答えようがないではないか。 300円で買ったレコードを手に、ほうほうのていで店を出たのはいいものの、大きいのでまず扱いに困る。満員電車の中で、僕は『ザ・ワークス』を抱きかかえて家に帰った。 家にはプレーヤーなどなかった。しかし、CD でアルバムを聴きながら、大きなジャケットや封入されているメンバーの写真、時代感の出たライナーノーツを見ながらアルバムの中でも特に大好きな一曲「永遠の誓い(It's A Hard Life)」を聴けるのは、大きな喜びだった。 今ではすっかりレコードフリークの僕は、初めて買ったあの『ザ・ワークス』をプレーヤーにかけてみた。そして、なんとこの300円のレコードがとんでもなく傷だらけで、針の飛ぶジャンクな代物であったことに気づいたのだった。 人生とはハードなものだ。フレディの言う通りだと苦笑いしてしまった。しかし“これも良い思い出か” などと思い、今でも我が「初レコード」はコレクションの中に並んでいる。
2018.10.24
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