人には誰しも思い出深い夏があるのだろう。ひとつの夏物語に耳を傾け、口ずさみながら、己の思い出の海をさまよう。
さて、我が国のナンバーワン夏歌はひとつに決めがたいところだが、カナダではブライアン・アダムスの「想い出のサマー」が、とあるランキングで夏歌ナンバーワンソングらしい。
原題は「Summer of '69」。ブライアンは1959年生まれ。ぬぬ? 10歳の時の体験?? と疑問に思ったところ、実体験ではなく69年という年が象徴する変化の時を表現するべく書いたそうだ。
多くの人は「69」といえばビートルズの分裂を思い出すでしょ。音楽だけでなく、文化、政治の上でも世界は変化の時を迎えていた。それに「70」じゃ字足らずだし、「71」でも「72」でも、「68」でも私たちは満足しそうもない。1969年パワー、恐るべし。
でも、実はそれだけでなく、ブライアンは「69」と読んでその名の通りシックスナイン、つまりセックスを意味しているとインタビューで語っているそうだ。
懐が全開だな、ブライアン。
本当のところ、音楽なんてきっとそれしかないんだろうけど、ちゃんとそう答えてくれる人はそうそういない。そして、それをわかって歌っている人もどれだけいるだろうか。
今更ながらブライアンのノリが、サザンオールスターズであることを知る…。そして、長く愛される歌は独特な繊細さを持ち合わせているものだ。さらに蛇足だが、しゃがれた声もまたサザンとの共通点だ。
そういえば昔、音楽雑誌で来日公演直後の興奮冷めやらぬ状態で「セックス」と連呼してたと読んだことがあるのだが、当時高校生だった私がドン引きしたのはもちろんである。今思えば、そりゃとびきり良い公演だったんだろうということはわかる。年取ってよかった(笑)。そして参加した人、うらやましい!
―― と、書いていて突然思い出したのだが、私はその数年後、ブライアンの公演を聴きに行ったのだった。だがそのときの記憶が不思議なくらいほとんどなく、公演終了後のがらんとしたステージがなんだか眩かったような。
話は歌に戻るがこの歌は―― “Those were the best days of my life” と歌詞にあるように過去にがんばったこと、大好きだった彼女のこと、などキュンとするシーンが並ぶ。ずっとあの時を過ごせるのなら、そうしたいとも…
歌詞をなぞりながら、聴く人はそれぞれの過去に想いを馳せるだろう。だが、きっと各々の心の温度は近いに違いない。それがこの歌の魅力のひとつだろう。
夏歌にはノスタルジー、そして憂いが伴う。
それは―― 夏にはいつもとは違う体験ができるロングバケーションがあること、季節は常に次へと移り変わるものであること、そして暑いので少々逃避傾向にあるからではないだろうか。
今年も暑い。若者だけでなく私も未来から照らされている今を刻み、現実逃避もしつつ、大いに楽しみたい―― だって夏だもの。(相田みつを風)
歌詞引用:
想い出のサマー / ブライアン・アダムス
2018.08.08
YouTube / Bryan Adams
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