1980年代の邦画で一番気に入っているのが「1999年の夏休み」(1988年)である。
森の中に隔離された学院で美しい少年・悠が入水自殺し遺書を残す。遺書にはクラスメイト・和彦への想いが綴られていた。そして、1999年の夏休みがやってくる。全寮制でほとんどの生徒が帰省するなか、家庭の理由で和彦を含む3人の少年が残される。
数日後、学院の寮に死んだ少年とそっくりの転校生・薫がやってくる。和彦は薫と悠の姿を重ね合わせてしまい、薫を見るたびに怒りや憎しみをあらわにするようになる。学院に残された4人の少年たちの平和な日常に大きな波紋が広がり、ついに事件が起こる。
登場人物は4人の少年のみ。その少年をすべて少女が演じている。金子修介監督は少年に性を感じさせないようにこだわり抜いて、水原里絵(現:深津絵里)以外の役者の声を使わず、声優にアテレコさせている。実写なのだが、アニメのような不思議な感覚が全編に感じられてこれはこれでとても面白い試みだった。
公開当時より少し未来の話なので、少年たちがコンピュータを操り学習するシーンがあったり、学院を囲む森の中に核シェルターのような不思議な構造物があるなど、やがて来る1999年の雰囲気を作り込んでいるところも印象的だった。そういった細かな演出が見えない未来の不安感を煽っていく。
当時、「1999年」というワードは特別な意味を持っていた。なぜなら1999年7の月に人類が滅亡するというノストラダムスの大予言を僕たちは潜在的に刷り込まれていたからだ。冷戦が終結に向かっていても、21世紀は本当に来るのか? そういう理由のない不安は常に心の隅にあった。80年代にバブル景気が膨らみ切って、世の中が享楽的に浮かれれば浮かれるほどにこの不安は日増しに強くなっていく。
映画『1999年の夏休み』のタイトルには人類最後の夏休みという意味が暗示されている。この夏休み以後に世界は無く、人類の時計は止まってしまう。だからこの映画のラストシーン、登場する4人の少年の夏休みはいつまでも終わらずに時間が撒き戻ったかのようにリフレインするのである。
大人になることを許されずに永遠に続く少年という時を感じさせながら優しく切なく中村由利子のピアノが劇場内に響きわたると、未来を与えられなかった少年たちの純粋な美しさと儚さに不思議と涙が頬を伝うのであった。
Music Data
■アルバム『風の鏡』
■作曲・演奏:中村由利子
■発売:1987年6月21日
※収録曲が映画『1999年の夏休み』に使用された。
2016.09.03
YouTube / spica musicbox
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