ガールフレンドのような雰囲気がたまらないソフィー・マルソー
1981年の高一男子は全員ソフィー・マルソーが好きだった。
とまあ、言い切ってしまったが、本当にそうだったかどうかは覚えていない。てか、そんな訳ないか。でも人気だったことは事実だし、みんな結構な勢いで彼女に夢中だった。
1980年にフランスで公開されたソフィーのデビュー作『ラ・ブーム』が日本にやってきたのは82年の3月。自分に例えると高一から高二になる春休みのこと。ぼくは誰かに覚られるのが恥ずかしくて(いや、自分だけで噛みしめたくて)、この映画を一人で観に行った。
ストーリーなんてそっちのけ、彼女の表情が全てだった。フランス人なのに同級生のガールフレンドのような雰囲気がたまらない。スクリーンに映し出されるひとつひとつの仕草に目を奪われる。だから一人で行ったのは大正解。パンフレットはもちろん、写真集も2冊買って帰った。
家に戻ると、ブラウン管に映る松田聖子が「赤いスイートピー」を歌っていた。サザンの「チャコの海岸物語」や資生堂の「い・け・な・いルージュマジック」も同じタイミングのヒット曲。洋楽なら J. ガイルズ・バンドやジョーン・ジェットが流行っていた頃だ。
800万枚のヒット!映画の主題歌はリチャード・サンダーソン
しかし、何を隠そうこの時期、ぼくが圧倒的回数をもって聴いていた曲は別にある。他の追随を許さず、エンドレステープに落としてまで何度も何度も聴き続けた曲。それこそが、映画『ラ・ブーム』の主題歌、「愛のファンタジー(原題:Reality)」なのである。
歌うは、リチャード・サンダーソン。彼が何者かなんてことは今もよく知らないし、何の変哲もないバラードと言われればその通りかもしれない。でも、そんなことはどうでもよかった。ソフィー・マルソーの映画のうた、それだけで十分だった。超絶かわいい天使のような笑顔を思い浮かべながら何百回と聴いていたから、今でもそらで歌える。
メッツューバイサプライズ
アィディドゥンリアライズ
ザッツマイライフウッチェイン
フォーエバッ
しかしこの曲、ヨーロッパを中心に800万枚のセールスを記録しただけに、その普遍性はタダモノではない。
ドゥリーンザマィリアラティ~♪
ギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」を彷彿とさせる美しいメロディ。柔らかなアナログシンセサイザーの音色。ささやくように歌うリチャードの甘い声。映画の中でも印象深いシーンで使われる、これぞまさに胸キュン♡エンジェルバラード。
後ろからヘッドホン、流れる曲は「愛のファンタジー」
ところで先日、本原稿を書くにあたって『ラ・ブーム』を観返してみた。実になんと40年ぶり!
大音量のロックンロールで盛り上がっているブーム(誕生日パーティ)会場。周りのみんなが踊りまくる中、初対面の男の子に後ろからヘッドホンをかけられるソフィー。流れる曲こそ「愛のファンタジー」。喧噪をよそに、そこはいきなり二人の世界… まるでウォークマンのCMのような、憧れのときめきシチュエーション。
改めて観ると、思春期特有のくだらなくも切実な悩みが丁寧に描かれており、恋に恋するソフィーの可憐さがしっかりとフィルムに焼き付けられていることがよく分かる。脚本も重層的に作られているので物語の多面性もバッチリ。そのおかげで、今となってはソフィーの恋の行方より、同時進行する両親の離婚騒動のほうが気になって仕方なかったけれど。
そして、昔も今も変わらないのが、主題歌を歌うリチャード・サンダーソンの存在感のなさ。言い換えれば、微塵たりともしゃしゃり出てくることのない彼の控えめなアーティスト性。そういう意味において、「愛のファンタジー」は見事なまでの完璧なサウンドトラック。ソフィー・マルソーの黒子に徹した純然たる名曲だと言い切っていいだろう。
※2017年8月26日、2018年11月17日に掲載された記事をアップデート
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2022.03.06